魂の錬金術師・ウィリアム ブレイク!現代もとてつもない人気を誇るロマン主義の先駆者!

ウィリアム・ブレイク(William Blake)は、イギリスロマンティシズムで最も偉大なる詩人にして画家、銅版画職人、彫版師といった活動範囲を持っていた芸術家です。
ブレイクはもともとは画家としての教育を受けていましたが、その繊細な感情を以て、詩作にも非凡な才能を示し、母親譲りと思われる深い宗教的な感情と幻想的な思索がブレイクの作品の大きな特徴でもあります。
1783年処女詩集「詩的素描」( Poetical Sketches )を、1789年には独特の彩色版画印刷法で「無垢の歌」( Songs of innocence )を出し、以後同じ手法で「天国と地獄の結婚」( The Marriage of Heaven and Hell )「経験の歌」(Songs of Experience )などを絵入りで出版しています。
(「無垢の歌」と「経験の歌」は、一体化されて「無垢と経験の歌」と題されています)
1797年ころから俗に“prophetic books” と呼ばれる一連の難解な幻想詩を書きはじめ、1820年ころまで版画にして出版しましたが、当時では理解する読者はなく、あまり日の目を見ることなく貧困のうちに生を終えています。
しかし、いまやイギリスはもとより世界的にもすごい人気で「Blake」という研究雑誌もでているくらいです。世界中に星の数ほどの研究者がいます。

そもそもブレイクは絵の才能と同時に詩の才能を持ち合わせており、さらに本人が「ビジョン」と呼ぶ幻視の能力があったといわれています。
この幻視の能力を使って、ブレイクはダンテやシェークスピア、聖書などの独自解釈の挿絵を制作すると同時に、多くの詩や「四人のゾアたち」、「ミルトン」「エルサレム」などの預言書を書き遺しています。

「Jerusalem(エルサレム)」

Jerusalem1Jerusalem2 Jerusalem3

「Millton(ミルトン)」

Millton1Millton2 Millton3

預言書『ミルトン』の序詞「古代あの足が(And did those feet in ancient time,)」が1918年にヒューバート・パリーによって音楽が付けられたものが聖歌『エルサレム』として、または事実上のイングランドの国歌として現在のイギリスではたいへんよく知られている人物なんですよ。

こうしたブレイクですが、実は多くの思想家、アーティストたちにもインスピレーションを与え続けています。
ざっとご紹介しますと。

・リドリー・スコット監督による映画『ブレードランナー』(1982年)で、チュウのラボに現れたロイの台詞「Fiery the angels fell. Deep thunder rode around their shores, burning with the fires of Orc.」は、ブレイクの『アメリカ ひとつの預言』の「Fiery the Angels rose, & as they rose deep thunder roll’d / Around their shores: indignant burning with the fires of Orc」に由来する。
・マイク・ニューウェル監督の映画『フォー・ウェディング』(1994年)の後半の教会の結婚式で『エルサレム』が披露される。
※)『エルサレム』(Jerusalem)は、ウィリアム・ブレイクが1804年に完成した、叙事詩と彩色印刷した装画からなる複合芸術作品。100枚の図版から構成され、完成に至った彼の預言書群のなかで最大規模のもので、表題ページには「エルサレム 巨人アルビオンのエマネーション 1804年 W・ブレイクにより印刷 サウス・モールトン・ストリート」(Jerusalem Emanation of The Giant Albion 1804 Printed by W. Blake Sth Molton St)と彫られている。
・2012年ロンドンオリンピックの開会式のアトラクションは『エルサレム』で知られる『ミルトン』の序詞をコンセプトにしており、作中の「緑なす豊潤なイングランドの大地」「暗い悪魔の工場」「炎の戦車」という言葉をキーワードにアトラクションが演ぜられた。
・ジム・ジャームッシュ監督による映画『デッドマン』(1995年)も、ブレイクの詩と思想に対するオマージュ作品であり、登場人物たちの名前や多くの台詞がブレイクの作品に由来している。
・映画版『Vフォー・ヴェンデッタ』(2005年)で、V の部屋の壁にブレイクの色刷版画『アダムを造るエロヒム』が飾ってある。
・ヒュー・ハドソン監督の映画『炎のランナー』でもこの聖歌が歌われる。“Chariots of Fire”という映画の原題も、この聖歌の“Bring me my chariot of fire”(ぼくに炎の戦車を)という一節に呼応している。
・映画『炎のランナー』は『ミルトン』の序詞にある「炎の戦車」が題名の由来であり、オリンピックを目指す青年群像という内容もこの詞を意識したものである。
・トマス・ハリスの小説『レッド・ドラゴン』(1981年)の中で、ブレイクの水彩画『巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女』(The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun)が重要な役割を与えられている。
・ケン・ローチ監督の映画『麦の穂をゆらす風』(The Wind That Shakes The Barley, 2006年)の中で、主人公が入れられた牢獄の壁に「愛の園」(『無垢と経験の歌』の「経験の歌」のなかの短詩)の一節が刻まれている。

・イギリスのプログレッシブ・ロック・グループ、エマーソン・レイク・アンド・パーマーのアルバム『恐怖の頭脳改革』(Brain Salad Surgery, 1973年)に収録されている「聖地エルサレム」(Jerusalem)はこの聖歌をアレンジした曲である。
・イギリスのミュージシャン、ビリー・ブラッグも、この聖歌を「ブレイクのエルサレム」(Blake’s Jerusalem)というタイトルで、左翼のプロテスト・ソングの焼き直しやカバー曲を集めたアルバム『インターナショナル』(1990年)に収録、自らのアレンジによるその曲を「ブレイクが目にしていた資本家どもの新バージョンへの攻撃」と称している。
・ロック・グループ、ドアーズのバンド名もブレイクに由来する。これはハクスリーの本から影響を受けていたジム・モリソンの提案によるものである。
・アイアン・メイデンのボーカリスト、ブルース・ディッキンソンのソロ・アルバム『ケミカル・ウェディング』には、『ミルトン』の序詩にディッキンソン等が独自に曲をつけた「エルサレム」(Jerusalem)というタイトルのオリジナル曲が収録されている。このアルバムでディッキンソンは、ブレイクのテンペラ画『蚤のゴースト』(The Ghost of A Flea)をジャケットに用い、ブレイク神話の登場人物セルやユリゼンについての曲「セルの書」(Book of Thel)や「ユリゼンの門」(Gates of Urizen)を歌う。またこのアルバムでは『ユリゼンの書』(The Book of Urizen)および『ミルトン』の一節が朗読され、次の楽曲への導入的効果を果たしながら楽曲同士を繋げている。
・ロック・グループ、タンジェリン・ドリームのアルバム『タイガー』(1988年)は、ブレイクの詩と思想に対するオマージュとなっている。彼らは斬新な曲作りをすることで、「虎」(The Tyger)や「ロンドン」(London)をはじめとするいくつものブレイクの詩に新たな息吹を吹き込んでいる。
・ロック・ミュージシャンのパティ・スミスは、2001年にパリで行われたライブで、『オオカミが来たと叫ぶ少年』(Boy Cried Wolf)の演奏の前に「子羊」(The Lamb, 『無垢の歌』の中の短詩)を朗読している。この朗読は、アルバム『ランド』(LAND, 2002年)のディスク2に収められている。
・イギリスのロックバンド、アトミック・ルースターの1970年のアルバム“Death Walks Behind You”のジャケットで、ブレイクの色刷版画『ネブカドネザル』(Nebuchadnezzar)が使われている。

・アルフレッド・ベスターによる長編SF作品『虎よ、虎よ!(Tiger! Tiger!, 1956年)の題名はブレイクの詩『虎』(The Tyger)に由来し、エピグラフとして“Tyger, Tyger, burning bright”からはじまる一節が引用されている。
・レイ・ファラディ・ネルスン(Ray Faraday Nelson)は、SF作品『ブレイクの歴程』(Blake’s Progress, 1975年)に、ブレイクとその妻キャサリンを、ユリゼンをはじめとするブレイクの神話体系の登場人物たちと同じように登場させ、異次元と異空間の探索に旅立たせている。
・オルダス・ハクスリーはエッセイ集『知覚の扉』(The Doors of Perception, 1954年)の中で、たびたびブレイクに言及しながらドラッグによる幻視体験について語っている。この本はブレイクの『天国と地獄の結婚』から“If the doors of perception were cleansed every thing would appear to man as it is: infinite”(知覚の扉が清められたなら、物事はありのままに、無限に見える)という言葉をエピグラフとして引用している。
・ビートの詩人アレン・ギンズバーグが1948年自宅でブレイクの詩集『無垢と経験の歌』を読んでいるとき、「ひまわりよ」(Ah! Sun-flower)、「病める薔薇」(The Sick Rose)、「迷子になった女の子」(The Little Girl Lost)を朗読するブレイクの声が外側から聞こえてくる幻聴体験をしたと言われている。
・経済学者カール・ポランニーは著書『大転換』で、産業革命以降の市場経済化のたとえとして、ブレイクの『ミルトン』序詩の第2節にある「悪魔のひき臼(dark Satanic Mills)」を引いている。
・カール・セーガン原作の小説『コンタクト』はブレイクの「蠅」(“The Fly”)をエピグラフに用いている。

「The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun」

The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun2 The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun1

「The Great Red Dragon and the Beast from the Sea」

The Great Red Dragon and the Beast from the Sea

「Ancient of Days」

Ancient of Days

「Chaucer’s Canterbury Pilgrims」

Chaucer's Canterbury Pilgrims

「Satan Calling Up His Legions」

Satan Calling Up His Legions

彼の最後の言葉は、「自分は人間としてではなく、祝福された天使として死んでいくのだ」というものであったといわれています。
あまり日本では知られる機会の少ないウィリアム・ブレイクですが、一度彼の作品に触れてみてはいかがでしょうか。
お奨めです。

4003221729400322173745827612084882024454050028245518544428801854374680383655512304864642960486290867