This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(23) 上方世話物『女殺油地獄』

歌舞伎は世界に誇る、日本の伝統芸能です。
しかし、元々400年前に登場したときには、大衆を喜ばせるための一大エンターテイメントだったのです。
なんとなく難しそうなので、ということで敬遠されている方も多いのかもしれませんが、そもそもは庶民の娯楽だったもの。
一度観てみれば、華やかで心ときめく驚きと感動の世界が広がっているのです。
しかも歌舞伎は、単に400年もの間、ただただ伝統を受け継いできただけではありません。
時代に呼応して常に変化し、発展・進化してきているのです。

This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(4) 演目の分類と一覧について
前回は歌舞伎の演目をざっと整理してみましたので、ここからは具体的な演目の内容について触れてみましょう。
今回は、上方世話物の中から『女殺油地獄』です。

『女殺油地獄』は、近松門左衛門が1709年に書き下ろした世話浄瑠璃で、後に歌舞伎として上演されました。

複雑な家庭環境により荒んだ生活を送る大阪天満の油屋河内屋の息子・与兵衛の哀感と狂気、同業の豊嶋屋七左衛門の女房・お吉の与兵衛への思いやり、与兵衛を勘当するも心配でならない継父・徳兵衛と実母・おさわの情愛が、近松の筆によって巧みに描写されています。
題名に”油地獄”とある通り、借金に追いつめられた与兵衛が衝動的にお吉を殺害する場面での、油まみれになりながらの立廻りは、大きな見せ場となっています。

『女殺油地獄』

【序幕 徳庵堤茶店の場】
野崎詣りで賑わう徳庵堤 川向こうは一面の菜の花畑です。
手前の茶屋では、大阪天満の油屋・豊嶋屋の女房お吉が娘のお光と二人で夫の七左衛門を待っています。
そこへ、豊嶋屋の隣で同じく油屋を営む河内屋の放蕩息子 与兵衛が手下を連れて現れます。馴染みの芸妓小菊が他の男と野崎詣りに行ったと聞きつけて来たのでした。
これは好い機会と 隣のよしみでお吉は与兵衛に真面目に働くよう諭しますが、与兵衛は聞き入れません。
その場を去るお吉とお光。

そこへ、与兵衛の待ち伏せも知らず、小菊が男連れでやって来ました。
相手の男にケンカを売る与兵衛 投げつけた泥だんごが、たまたま通りがかった高槻藩小姓頭 小栗八弥に当たってしまいます。
従者 山本森右衛門は“無礼者ッ!!”と与兵衛を成敗しようとしますが、よくよく見れば不肖の甥。
事情を知った小栗八弥は森右衛門を押し止めますが、森右衛門は“参詣帰りに首を打つ”と言い置き 主に付いて去って行きます。
うろたえる与兵衛 そこへ戻って来たお吉 事情を聞いて呆れますが、泥だらけの与兵衛を哀れに思い 着物を着替えさせようと茶店の奥へ誘います。

お光が独り茶店の前で待っているところへ七左衛門が現れます。
様子を聞き、女房お吉と与兵衛が不義を犯したと疑った七左衛門は、お吉の話も聞かず 腕を掴んで立ち去ります。
取り残された与兵衛もまた、しょんぼりと徳庵堤を後にするのでした。

【二幕目 河内屋内の場】
大阪天満の油屋・河内屋の今の主人は元番頭徳兵衛。先代が急逝したため、請われておさわに入り婿したのでした。
そんなワケで 徳兵衛は継子の与兵衛に厳しく言う事が出来ません。
これ幸いと与兵衛は放蕩三昧です。
しばらくして 兄の太兵衛がやって来ました。
徳庵堤での与兵衛の無礼の責任を取らされて 伯父の森右衛門が浪人として大阪へ下る事になったとのこと。
弟の勘当を迫る太兵衛に、嘆くばかりの義父 徳兵衛。
そこへ白稲荷の法印が訪れます。
病で臥せっていたおかち(与兵衛の義妹)のために祈祷をするというので、太兵衛は渋々退場します。
そこへ帰宅した与兵衛。
ウソをついて徳兵衛からお金を引き出そうとしますが、徳兵衛は相手にせず祈祷を始めさせました。

そこで、急におかちが神憑りとなり「与兵衛の想い人を身請けし 女房として迎え、与兵衛に店を任せよ」と口走ります
乗じて与兵衛も店を任せろと義父に詰め寄りますが、徳兵衛は首を縦に振りません。
怒った与兵衛は徳兵衛を足蹴にします。
これを見て 病で寝ていたはずのおかちが止めに入ります。
実はおかちは、与兵衛から頼まれて仕方なく神憑りのフリをしていたのです。
企みをバラされた怒りでおかちを踏みつけにする与兵衛。丁度そこへおさわが帰宅。
与兵衛を棒で打ち据えますが、与兵衛は棒を奪い取り 今度は実の母に乱暴を働きます。
この有様にとうとう徳兵衛も我慢ならず、棒を取り上げ与兵衛を打擲し 親不孝に厳しく意見し涙します。
おかちに婿養子をと言ったのも、与兵衛に悔い改めてもらうための嘘だったと明かすものの、おさわの勘当宣告に 与兵衛はヤケになり河内屋を飛び出して行ってしまいます。
先代にそっくりな与兵衛の後ろ姿に、“まるで先代を追い出すようだ”と、徳兵衛は泣き伏すのでした。

【三幕目 豊嶋屋油店の場】
とうとう河内屋を飛び出してしまった与兵衛。
行く宛もなく 近所のよしみで豊嶋屋を頼ろうと向かっていると、途中で借金取りの小兵衛に見つかってしまいます。
“明朝までに金を返さないと 店のハンコを勝手に使って金を借りていた事をバラす”と言われ、途方に暮れる与兵衛。
そこへ徳兵衛が通りかかったので、慌てて身を隠します。

徳兵衛は豊嶋屋へ入って行きました。
物陰から聞き耳をたてる与兵衛。
徳兵衛は、豊嶋屋女房お吉に向かって「もし与兵衛が訪ねてきたら 性根を入れ替え家に戻るよう諭し、この金を渡して欲しい」と頼みます。
そこへ河内屋おさわ(実母)もやって来ます。
徳兵衛の差し出した金を見とがめ「その情けが与兵衛の毒になる!」と徳兵衛に意見しますが、実はおさわもこっそり金を忍ばせていたのでした。
ふとした拍子におさわの懐からその金が落ちると、徳兵衛もおさわの本心に気付きます。
夫と我が子の板挟みに苦しむおさわ、その気持ちを思いやり 涙する徳兵衛。
これに感じ入ったお吉は 二人の頼みを聞き入れます。

夫婦が帰ったのを見て、与兵衛が入ってきます。
与兵衛は 先ほどの話を涙を流して聞いていたと言い、金を受け取りますが、それは借金の額にはほど遠いものでした。
そこでお吉に借金を申し込むのですが、以前 徳庵堤の茶店の一件で、主人の七左衛門に与兵衛との不義を疑われているお吉。
ここで与兵衛に金を貸せば、ますます疑われてしまいます。
“金は貸せない”と言うお吉に、“いっそ不義になって貸して下され”とすがりつく与兵衛。
しつこく食い下がる与兵衛でしたが、頑なに拒むお吉。
“それでは油を売ってくだされ…”とうなだれて言う与兵衛に、やっと諦めてくれたかと背をむけたその時、与兵衛は隠し持っていた刀でいきなりお吉に斬りつけます。
油樽とともに倒れるお吉、店のたたき一面に油がぶちまかれます。
バッサリ斬られながらも必死に逃げようとするお吉、それを追う与兵衛。
3人の娘が悲しむと命乞いするお吉に対して「こなたの娘が可愛いほど、俺も俺を可愛がる親父がいとしい。金払ふて男立てねばならぬ。
諦めて死んで下され。
口で申せば人が聞く。
ぬるぬるとした油に何度も足を取られます。
心でお念仏、南無阿弥陀仏という与兵衛の台詞の後に「『南無阿弥陀仏』と引き寄せて右手より左手の太腹へ、刺いては刳り抜いては斬る、お吉を迎ひの冥途の夜風」や「庭も心も暗闇に打ち撒く油、流るる血、踏みのめちらかし踏み滑り、身内は血汐の赤面赤鬼」、「お吉が身を裂く剣の山、目前の油の地獄の苦しみ」など、描写は残忍ですが、豊かな表現の数々に唸ってしまいます。
薄暗がりの中で展開されるこのシーン、刃物はギラつき、油まみれになりながら無言でおいつ追われる二人の息づかいが緊張感を高めます。
この演目の最大の見せ場である、油屋でのお吉の殺害の場面では、ツルツルと滑るように操られる人形の動きだけで、樽から床へこぼれた大量の油が、実際に見えてくるようです。そして、大夫の語りと、三味線が創りだす世界の上に表される、髪を振乱したお吉の鬼気迫る表情や、与兵衛が斬りつけ、徐々に昂っていく感情の動きが恐ろしさを増します。
やがて動かなくなったお吉にトドメをさし、与兵衛は震える手で金を掴むと闇の中へ消えて行きました。

法要の前夜、悲しみに暮れるお吉の家族らの前に、何食わぬ調子で現れる与兵衛。
しかし、偶然に証拠が見つかり、追いつめられた与兵衛の最後の口上がありますが、あれは後悔を口にしたのか、たんに開き直ったのか。
与兵衛は捕えられ、縄をかけられ舞台を後にし、物語は静かに終演を迎えます。

-幕-

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