2015年、第87回アカデミー賞授賞式が、現地時間2月22日(日本時間23日)に米ハリウッドのドルビー・シアターで開催されました。
今年の話題は、
・作品賞・監督賞・撮影賞・脚本賞の4部門に輝いたアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』!
・過去5度目のノミネートで初の主演女優賞となった『アリスのままで』のジュリアン・ムーア!
・車椅子の物理学者ホーキング博士役で、オスカー初ノミネートにして初の主演男優賞となった『博士と彼女のセオリー』エディ・レッドメイン!
といったところでした。
そこで早速ですが、まず『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は、今回最多9部門にノミネートされていましたが、そのうちなんと作品賞・監督賞・撮影賞・脚本賞の4部門にて受賞。
監督のアレハンドロ・G・イニャリトゥは、『バベル』などで知られており、監督の作品賞を受賞するのも初とのこと。
この映画、一風風変わりで、かつてヒーロー映画で名を馳せ、今はすっかり落ちぶれた俳優が再起を懸けた舞台に苦戦し、現実と妄想のはざまで狂気に駆られていくさまを描いたブラックコメディー。
日本でコメディーは当たらないといわれていますが、今年4月10日より全国公開となります、さて興行的にはいかに!
主演は『バットマン』(1989)『バットマン リターンズ』(1992)の主役ブルース・ウェイン役マイケル・キートン。
バットマン以降はすっかり低迷していた彼の実人生とシンクロするストーリーと、映画関係者の内幕を描いたこともあって、アカデミー会員の票を必然的に多く集めた結果となったのかもしれません。
劇場公開日は2015年4月10日。
同じく4部門受賞の『グランド・ブダペスト・ホテル』は、格式高い高級ホテルを取り仕切るコンシェルジュ(レイフ・ファインズ)を主人公にしたウェス・アンダーソン監督のコメディー。
アンダーソン監督らしい独特の世界観が特徴で、美術賞、メイクアップ・ヘアスタイリング賞、衣装デザイン賞、作曲賞を受賞しています。
『アリスのままで』は、若年性アルツハイマー病と診断された50歳の言語学者の苦悩と葛藤、家族との絆を描いた人間ドラマ。
ジュリアン・ムーアはアルツハイマー病に関する徹底的なリサーチと役作りで、ゴールデン・グローブ主演女優賞(ドラマ部門)やスクリーン・アクターズ・ギルド賞、BAFTA(イギリス映画テレビ芸術アカデミー)、放送映画批評家協会など本年度の映画賞を総なめにしてきていたこともあって、アカデミー賞の主演女優賞受賞も当然といえば当然の結果です。
劇場公開日は2015年6月公開予定
『博士と彼女のセオリー』(ジェームズ・マーシュ監督)は、徐々に体中の筋肉が衰える難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)のハンデを負いながらも宇宙の起源の解明に挑み、現代宇宙論に多大な影響を与えた“車椅子の物理学者”スティーヴン・ホーキング博士と、彼を支え続けた妻ジェーンの実話を感動的につづったヒューマンラブストーリー。
エディ・レッドメインも、徹底的な役作りでホーキング博士の特徴を捉え、徐々に体の自由が奪われていく過程を見事に表現し、目だけで感情を伝える名演により主演男優賞を受賞しています。
劇場公開日は2015年3月13日。
今回、ノミネートされた作品の中から、個人的に興味があるものを幾つかピックアップしておきます。
まず、クリント・イーストウッド監督で主演兼プロデューサーのブラッドリー・クーパーの『アメリカン・スナイパー』です。
アメリカでは現在公開中で、既に3億ドル超えの興行成績をたたき出しています。
ストーリーは、米軍史上最強と言われた狙撃手クリス・カイルのベストセラー自伝を映画化したもの。
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際、その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとるものの、その存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われる。
数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。
過酷な戦場を生き延び妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになるというものです。
今回は音響編集賞しか受賞していませんが、興行時期がもう少し繰り上がっていれば、もしかしたらもっと別の受賞も取れていたのでは、と思える作品です。
劇場公開日は2015年2月21日。(先日から公開されています)
次は、「ビフォア・ミッドナイト」のリチャード・リンクレイター監督が、ひとりの少年の6歳から18歳までの成長と家族の軌跡を、実際に12年をかけて撮影したドラマ『6才のボクが、大人になるまで。』。
主人公の少年メイソンを演じるエラー・コルトレーンを筆頭に、母親役のパトリシア・アークエット、父親役のイーサン・ホーク、姉役のローレライ・リンクレーターの4人の俳優が、12年間同じ役を演じ続けて完成された、非常に息の長い、しっかりと時間をかけて作られた良い作品です。
米テキサス州に住む6歳の少年メイソンは、キャリアアップのために大学に入学した母に伴われてヒューストンに転居し、その地で多感な思春期を過ごす。
アラスカから戻って来た父との再会や母の再婚、義父の暴力、初恋などを経験し、大人になっていくメイソンは、やがてアート写真家という将来の夢を見つけ、母親のもとを巣立つ。
12年という歳月の中で、母は大学教員になり、ミュージシャンを目指していた父も就職し、再婚して新たな子が生まれるなど、家族にも変化が生まれていた、というもの。
今回のアカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞ほか計6部門で候補に挙がり、アークエットが助演女優賞を受賞しています。
そしてもうひとつ、「SHERLOCK シャーロック」のベネディクト・カンバーバッチ主演で、第2次世界大戦時、ドイツ軍が世界に誇った暗号機エニグマによる暗号の解読に成功し、連合国軍に勝機をもたらしたイギリスの数学者アラン・チューリングの人生を描いたドラマ『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』。
1939年、第2次世界大戦が始まり、イギリスはドイツに宣戦を布告した中、ケンブリッジ大学の特別研究員で、27歳にして天才数学者と称えられるアラン・チューリングは英国政府の秘密作戦に参加し、ドイツ軍が誇る暗号エニグマの解読に挑むことになる。
解読チームには6人の精鋭が集められるが、他人と協調することを嫌うチューリングとチームメンバーとの間には溝が深まっていく。
チューリングを理解し、支える女性ジョーン・クラークにキーラ・ナイトレイ。
今回のアカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞など計8部門でノミネートされ、脚色賞を受賞しています。
劇場公開日は2015年3月13日。
今回の受賞した作品の大半は、まだ日本で公開されていないものが多いので、今後の公開が楽しみですね。
また日本関連作品では、長編アニメ映画『かぐや姫の物語』、短編アニメ映画『ダム・キーパー』の2作品がノミネートされていたが、惜しくも受賞には至りませんでした。
でも、日本の映画業界も世代交代が始まっている中、今後も(アニメに限らず)良質の作品を世界に向けてドンドン作っていってほしいものですね。
参考までに、各主要部門の受賞作品の主要なものを抜粋しておきます。
作品賞 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」
主演女優賞 ジュリアン・ムーア(「アリスのままで」)
主演男優賞 エディ・レッドメイン(「博士と彼女のセオリー」)
助演女優賞 パトリシア・アークエット(「6才のボクが、大人になるまで。」)
助演男優賞 J・K・シモンズ(「セッション」)
監督賞 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」)
脚色賞 グレアム・ムーア(「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」)
脚本賞 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ニコラス・ヒアコボーネ、アレクサンダー・ディネラリス・Jr.、アルマンド・ボー(「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」)
作曲賞 アレクサンドル・デプラ(「グランド・ブダペスト・ホテル」)
主題歌賞 “Glory”(「セルマ(原題)」)
長編ドキュメンタリー賞 「CitizenFour」
編集賞 トム・クロス(「セッション」)
撮影賞 エマニュエル・ルベツキ(「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」)
美術賞 「グランド・ブダペスト・ホテル」
長編アニメーション賞 「ベイマックス」
短編アニメーション賞 「愛犬とごちそう」
視覚効果賞 「インターステラー」
音響編集賞 「アメリカン・スナイパー」
録音賞 「セッション」
短編ドキュメンタリー賞 「Crisis Hotline: Veterans Press 1」
短編実写映画賞 「The Phone Call」
外国語映画賞 「イーダ(ポーランド)」
メイクアップ&ヘアスタイリング賞 「グランド・ブダペスト・ホテル」
衣装デザイン賞 ミレーナ・カノネロ(「グランド・ブダペスト・ホテル」)