幻の未完屏風絵『雨中美人』!改めて菱田春草の朦朧体の技術を見直してみる機会に!

国指定重要文化財の「王昭君」「賢首菩薩」「落葉」、そして「黒き猫」などで有名な明治時代の代表的な日本画家、菱田春草の未完成の屏風絵『雨中美人』が、都内の遺族宅で見つかりました。

「黒き猫」は僅か5日で描いて文展(文部省美術展、現在の日展)に出品したとされますが、それも元々妻・千代をモデルにした女性の立ち絵の制作が、着物の彩色や構図、妻の貧血などで行き詰った為といわれていました。

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今回発見されたものは、この中断された幻の『雨中美人』といわれているもので、六曲一双で12枚の屛風絵となっており、左半分の屏風に2人、右半分の屏風に4人、それぞれ和傘を差した女性を配置した、縦165cm、横733cmのサイズのもの。
妻・千代さんと見られる女性にのみ彩色が施されており、他の人物や背景の柳の木などは下書きの状態のままの作品です。
春草は満37歳の誕生日を目前にして亡くなりますが、今回発見された『雨中美人』や国指定重要文化財の「黒き猫」は36歳のときの作品。

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3/21から長野県の飯田市美術館で始まる生誕140年記念特別展で公開されることになっています。

春草は、岡倉天心の主導のもとで明治時代中期から横山大観、下村観山らと日本の伝統絵画(日本画)の革新に力を尽くした人物で、輪郭線を使わずに描く技法は「朦朧体」と呼ばれました。
リアリズムと装飾的な表現を融合し、発想や構図、色使いのセンスもさることながら、極めて卓越した「技術」の持ち主だった日本画家です。

古代中国の物語が題材の「王昭君」は、敵国の匈奴の王へ女性を送るため、肖像画で最も醜い者を選ぶことになりますが、美しい王昭君は、絵師にわいろを贈らなかったために醜く描かれてしまい、敵国へ嫁ぐ際の王昭君と女性たちの別れのシーン。
女性たちの衣や肌はふんわりとした質感で描かれ、朦朧体の成果が見られる作品です。

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1906年頃、眼の異変から療養生活を余儀なくされ、代々木の雑木林を歩いた春草。
絵筆をとれない日々を送った体験から、復帰後に取り掛かった「落葉」の連作は、それまでの日本画にはなかった空気遠近法を取り入れた実験作です。
土坡の線や透視図法を用いずに、色づかいと、樹木の配置や落葉の散り具合によって、いかに自然な奥行きを表現するかに腐心していたことが窺え、この制作において「距離」の表現と「画の面白み」との間で悩んだと語っていた春草。

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そんな春草の作品群を、今回発見された『雨中美人』と合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか。

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