【千夜一夜物語】(63) 金剛王子の華麗な物語(第904夜 – 第922夜)

前回、”不思議な書物の物語”からの続きです。

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昔、シャムス・シャーという王には「金剛王子」という強く美しい王子がいた。
ある日、「金剛王子」が狩に行き、鹿を追って砂漠を進んでいくと、ある人里離れたオアシスに着いた。
そのオアシスには老人が隠遁しており、「金剛王子」が老人に隠遁している理由を問うと、老人は若者がその話を聞けば身の破滅になると言ったが、「金剛王子」が重ねて聞いたため、老人は次のように話した。

昔、老人は豊かなバビルの地域の王であり、王には7人の王子がいた。
ある日、旅の商人がシーンとマシーンの国のタンムーズ・ベン・カームース王の王女モホラ姫の話を伝えた。
モホラ姫は絶世の美女であり、「松毬と糸杉の関係は何」という問に答えられた者が嫁にすることができるが、答えられない者は殺され首を城門に晒されるという話であった。
王の長男が話を聞き、カームース王の城に行ったが、答えられず殺されてしまった。
その後、弟の6人の王子たちも順々に行ったが、いずれも答えられず殺されてしまった。
7人の王子全てを失った老王は絶望し、王位を捨てて、このオアシスに隠遁するようになったのであった。

話を聞いた「金剛王子」は、父王シャムス・シャーの宮殿に帰ると、父王が止めるのも聞かず、シーンとマシーンの国のカームース王の王女モホラ姫の城に旅立ってしまった。
城に着いた「金剛王子」はカームース王に謁見するが、カームース王は「金剛王子」に熟慮し3日後再び来るように言った。
城を退出した「金剛王子」は、城から流れ出る水路をつたい、城の中庭に入り込み、偶然モホラ姫を物陰から見て、その美しさに心を奪われてしまった。
「金剛王子」は水を汲みに来た「珊瑚の枝」という美しい侍女に見つけられ、モホラ姫の前に引き出されるが、気が触れた聖者(サントン)の振りをし、モホラ姫の尊敬を受け、中庭に留まる許しを受けた。

しかし、数日して「珊瑚の枝」が「金剛王子」を不信に思い、問い正したので、「金剛王子」は身分を明かし、「松毬と糸杉の関係は何」という問の答えを探しに来たと言った。
「珊瑚の枝」は、その問の情報を得たければ、正妻にするよう求め、「金剛王子」が承諾すると、次のように言った。

モホラ姫の寝台の下には、実は、ワーカークの町から来た一人の黒人が隠れている。
「松毬と糸杉の関係は何」という問はこの黒人が考えたものであり、その答えはワーカークの町に行かねば分からない。

「金剛王子」は「珊瑚の枝」に、帰ってきたら必ず正妻にすると約束し、城を出てワーカークの街への道を探したが、町の人たちは誰もその町を知らなかった。
するとある修道僧(ダルヴィーシュ)が、次のように教えてくれた。

ワーカークの町はカーク山の中心にある。
その内外にはあらゆる魔神(ジン)、悪霊(マリード)、鬼神(イフリート)がいる。
そこに行く道は右、左、中央の3本あるが、右の道を選ばねばならない。
右の道を進むと1本の光塔(マナーラ)があるので、その碑銘を読み進む道を定めなさい。

「金剛王子」が言われたように進むと光塔があり、そこには次のような碑銘があった。

左の道をとらば、あまたの煩いに遭わん。
右の道をとらば、悔ゆる所あるべし。
中央の道をとらば、真に恐るべきものあらん。

「金剛王子」は中央の道をとり、進むと垣根に囲まれた広大な屋敷にたどり着き、花崗岩でできた門の前には巨大な黒人の門番が眠っていた。
「金剛王子」は門の中に忍び込むと、広々とした庭になっており、角に宝石をつけた美しい鹿が何頭もいた。
庭を進むと宮殿があり、その主であるラティファという美しい乙女が迎えてくれた。
「金剛王子」が旅の理由を話すと、ラティファはワーカークに行くことに反対し、一緒に暮らすことを提案したが、「金剛王子」はあくまで行くと言うと、ラティファは魔法で「金剛王子」を鹿に変えてしまった。

鹿になった「金剛王子」は庭の壁の隙間から抜け出すと、そこはラティファの妹ガミラの屋敷で、ガミラは魔法を解いて「金剛王子」を人間の姿に戻した。
「金剛王子」が旅の目的を話すと、ガミラはワーカークの町に行くことに反対し、一緒に暮らすことを提案したが、「金剛王子」はあくまで行くと言うと、次のように語り、「預言者サーリフの弓矢」、山をも切る名剣「スライマーンの蠍」、どのような攻撃からも守ってくれる短剣「賢人タンムーズの短剣」を渡した。

ワーカークの町に行くには、ラティファとガミラの叔父である「飛行のアル・シムーグル」の助力が必要だが、そのためにはターク・ターク王の宮殿に行く必要がある。
そこは人を食う凶暴な黒人たちに守られている。
そこの王と2日泊まり「飛行のアル・シムーグル」に会うことができるであろう。

「金剛王子」はガミラに別れを告げて、ターク・タークの宮殿に行くと、黒人たちが襲ってきたが、「スライマーンの蠍」で黒人たちを倒した。
すると、黒人は毒の屁をして来たが、「賢人タンムーズの短剣」の霊験で毒の効果はなかった。
「金剛王子」は「預言者サーリフの弓矢」で黒人の王を殺すと、黒人たちは逃げていった。

宮殿では美しいアジザ姫が「金剛王子」を出迎えてくれた。
アジザ姫は信仰告白をしイスラムに改宗し、妻にするよう「金剛王子」に頼んだ。
しかし、「金剛王子」があくまでワーカークの町に行くというので、宮殿の庭で寝ている巨人「飛行のアル・シムーグル」の所に案内し、「もし右目から目を覚ませば協力してくれるが、左目から目を覚ませば殺される」と言った。
アル・シムーグルは両目同時に目を覚まし、「金剛王子」に協力を約束し、7頭の野生の驢馬を捕まえ、それらと「金剛王子」を背中に乗せ、屁の力で空を飛び、1日で一つの海を超え、休んでは1頭の驢馬を食い、7日掛けて7つの海を超えてワーカークの町まで来た。

ワーカークの町で「金剛王子」は美しい侍従の青年ファラーと出会い、「松毬と糸杉の関係は何」と尋ねると、ファラーは青い顔をし、「糸杉」とはワーカークの王の名であり、「松毬」とは王妃の名であるが、それらの名を言うものは死刑になると言った。
「金剛王子」は「糸杉王」に謁見し、極めて高価な赤い真珠を進物として献上した。
「糸杉王」は希望の褒美を取らせると言ったので、「金剛王子」は「松毬と糸杉の関係は何」と尋ねた。
「糸杉王」は激怒したが、次のように話してくれた。

むかし「糸杉王」が狩をしていると、古い井戸を見つけた。
喉が渇いていたので、帽子を桶代わりに、ターバンを綱代わりにして井戸に降ろし、引き上げると、2人の老婆が上がって来た。
2人は目が見えなかったが、近くの川に来る牝牛の糞を目に塗れば見えるようになるので、糸杉王に糞を取ってくるよう頼んだ。
糸杉王が言われた通りすると、2人の老婆の目が見えるようになり、お礼に「富、健康、美」のどれが欲しいか聞いてきた。

「糸杉王」が「美」と答えると、老婆たちは魔神の王の宮殿にいる魔神の王の娘「松毬」のところに「糸杉王」を案内し、2人は互いに一目ぼれし、愛し合った。
しかし、魔神の王に見つかってしまい、「糸杉王」は火あぶりの刑にされたが、老婆たちが塗ったスライマーンの霊油のために、火に燃えることはなかった。
これを見た魔神の王は「糸杉王」を尊敬し、「松毬」との結婚を認めた。

「糸杉王」と「松毬」はワーカークの町に帰った。
しかし、「松毬」は毎夜「糸杉王」が眠った後、馬に乗ってどこかに出かけていた。
ある夜「糸杉王」がそれに気付き後を付けると、「松毬」は1件の家に入り、7人の黒人たちと乱交を始めた。
「糸杉王」は怒り、5人の黒人を切り殺し、6人目を殺そうとしたところ、反撃を受け危なくなったが、王の猟犬の1匹が助けに来て黒人に噛み付き、王は黒人の首を刎ねた。
7人目の黒人は、逃げ延び、カームース王の王女モホラ姫の寝台の下に隠れている。

その日以来、その猟犬にご馳走を与え、その残飯を「松毬」に後ろ手に縛ったまま食べさせているのであった。

話を聞くと「金剛王子」は飛行のアル・シムーグルを呼び出し、空を飛び、アジザ姫、ガミラと合流し、ラティファを鹿たちを人間に戻すことを条件に赦し、一緒にカームース王の宮殿まで行った。
宮殿で「珊瑚の枝」に再会すると、「金剛王子」はアジザ姫、ガミラ、ラティファ、「珊瑚の枝」の4人を正妻とした。
「金剛王子」はカームース王に謁見し「松毬と糸杉の関係は何」の答えを言い、モホラ姫の寝台の下の黒人を捕まえカームース王に差し出した。
王は黒人を死刑にし、モホラ姫を追放した。
「金剛王子」はモホラ姫を妾とし、父王の都に帰り、一同幸せに暮らした。

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次回は、滑稽頓智の達人のさまざまな奇行と戦術です。

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