日本語って本当に素晴らしいと思えるのが、様々な機微や心情、そこから見える景色や風景を、それぞれの情感と共に言葉として美しく言い表せているところです。
最近ではなかなか使うこともなくなってきている言葉ばかりではありますが、例えば風を表す言葉ひとつとっても、ホント素敵だなあ、という気持ちにさせてくれます。
ということで、前回※)に引き続き夏にちなんだ風の言葉を集めてみました。(多少関係ないものも交じっていますが、そこはご愛嬌ということで。。。)
※)前回は”美しき春の風を表す言葉!日本語の素晴らしさの再発見を!”です。
既に立夏も過ぎていることから、暦の上では既に夏。
日常の中で、夏らしい美しい言葉を使い続けていきたいものですね。
薫風 -くんぷう-
初夏、新緑の間を吹いてくる快い風。
新緑の頃、そよそよと吹いてくる、爽やかな薫るような風をいいます。唐の詩人、大宗は「薫風南より来り、殿閣微涼を生ず」と詠いました。風薫る(かぜかおる)、といい代えると、言葉が柔らかくなります。
青嵐 -あおあらし―
青々と視した草木や、野原の上を吹き渡っていく風で、嵐の字を用いることからも判るように、薫風よりも幾分強い風をいいます。
長雨の空吹き出せ青嵐(素堂)
青田風 -あおたかぜ―
青田とは、まだ稲の穂が出るに至らない時分の頃で、その青々とした稲田の上を吹き渡る風が青田風です。風の通り道に沿って稲が揺れ、それが波のように伝わっていくのは青田波(あおたなみ)といいます。
山々を低く覚ゆる青田かな(蕪村)
油照り -あぶらでり―
夏の、空が薄雲って、風のない、じりじりと蒸し暑いことをいいます。かっ、と照りつけるような暑さは炎暑です。
夕凪 -ゆうなぎ―
朝夕、海陸風が入れ替わるために風が凪ぐ現象で、それぞれ朝凪、夕凪といいます。瀬戸内海沿岸で特に著しく、夏の暑い日の夕凪は耐え難い蒸し暑さが数時間続き、不快指数が上昇します。
夕凪や仏勤めも真っ裸(宮部寸七翁)
海風の雲 -うみかぜのくも―
穏やかな天気の日、昼間の風は海から陸地に向かって吹きます。これを海風といいます。
夜は陸地から海に向かう陸風(りくかぜ)が吹きます。海風は湿気の多い風ですから、条件が整ったときは、海風の進入による上昇気流で雲が湧き、それが一列に並んでいることがあります。
麦の秋風 ―むぎのあきかぜ―
初夏になると、刈り取りが間近い麦畑は黄金色に輝きます。これが麦秋で、麦の秋、ともいいます。
この場合の「秋」は、取り入れの意味です。この季節の、野を吹き渡る風を麦の秋風、麦嵐といい、降る雨を麦雨(ばくう)といいます。
麦秋や子を負ひながら鰯売(一茶)
土用間 ―どようあい―
夏の土用中に吹く、涼しい北風。
地あゆ ―じあゆ―
内陸の方へ寄った北東の風。
まあゆ ―まあゆ―
東よりに吹く北風。
白南風 ―しらはえ、しろはえ―
梅雨が明ける6月末ごろから吹く南風。
黒南風 ―くろはえ―
梅雨の初めに吹く南風。
梅雨入りの頃、どんよりと曇った日に吹く南風。
青田風 ―あおたかぜ―
青々とした稲田の上を吹き渡る風。
青田とは、まだ稲の穂が出るに至らない時分の頃。
朝凪 ―あさなぎ―
朝方、陸風から海風へ交代するときの無風状態。
夕凪 ―ゆうなぎ―
夕方、海岸の近くで海風と陸風が交差するとき、しばらく無風状態となること
瀬戸内海沿岸が有名。
大南 ―おおなみ―
夏に激しく吹き荒れる南風。
夏疾風 ―なつはやて―
夏らしくまぶしく吹き抜ける力強い風。
清川だし ―きよかわだし―
山形県東田川郡庄内町清川付近に吹く、夏の地方風で梅雨の頃に吹く東寄りの強い風。
(「だし」とは、陸から海へ吹く船出に便利な「出し風」の意味。)
嶺渡 ―ねわた―
高嶺から高嶺へと渡る風。
真風 ―まじ―
西日本で、南または南西の風をいうそうです。
桜まじ、油まじなど。まぜ。
上風 ―うわかぜ―
草木などの上を吹きわたる風。
朝嵐 ―あさあらし―
朝吹く強い風。
悪風 ―あくふう―
害をもたらす風。暴風。
神風 ―かみかぜ―
神が吹き起こすという風。
特に、元寇の際に吹いた激しい風を指すそうです。
業風 ―ごうふう―
地獄で吹くという大暴風。
地獄に堕ちた衆生の悪業に感じて吹くとされるそうです。
色風 ―いろかぜ―
なまめかしい風。
日方 ―ひかた―
日のある方から吹く風。夏の季節風。
地方により、西南や東南の風のことをいうらしい。
悲風 ―ひふう―
さびしく悲しそうに吹く風。悲しみを誘う風。
飄風 ―ひょうふう―
急に激しく吹く風。つむじかぜ。はやて。
舞台風 ―ぶたいかぜ―
劇場で幕が上がる時、客席に向かって舞台から吹き出してくる冷たい風。
真艫 ―まとも―
船尾正面に受ける風。
港風 ―みなとかぜ―
河口または港のあたりに吹く風。
矢風 ―やかぜ―
矢が飛んでいくときに起こす風。
朝戸風 ―あさとかぜ―
朝、戸を開けたときに吹き込む風。
青北風 ―あおぎた―
西日本で8月から9月ごろにかけて、晴天の夜間急に冷えて吹く北風。あおげたならい。
横しま風 ―よこしまかぜ―
横なぐりに吹く風。暴風。
横風 ―よこかぜ―
横から吹きつける風。
緑風 ―りょくふう―
青葉を吹く、初夏の風。薫風。
冷風 ―れいふう―
冷たい風。ひんやりとした風。
軟風 ―なんぷう―
そよ風。微風。
気象用語では、風力階級3の風で、風速毎秒3.4〜5.4メートルのことを指すらしい。
微風 ―びふう、そよかぜ―
そよそよと吹く風。かすかに吹く風。
追い風 ―おいかぜ―
後ろから吹いてくる風。進む方向に吹く風。おいて。順風。
向かい風 ―むかいかぜ―
進んでいく方向から吹いてくる風。向こう風。逆風。
逆風 ―ぎゃくふう―
進行方向から吹いてくる風。向かい風。
和風 ―わふう―
穏やかな風。
気象庁風力階級において、和風(わふう)は風速5.5~7.9m/s、13~18mphのことらしい。
恵風 ―けいぷ―
万物を成長させる、めぐみの風。春風
夏風 ―なつかぜ―
夏に吹く風。
烈風 ―れっぷう―
きわめて激しい風。
涼風 ―すずかぜ、りょうふう―
すずしい風。夏の終わりに吹くさわやかな風。
旋風 ―つむじかぜ―
地上が日射や火災によって熱せられることによる上昇気流に伴って発生するもの。
つまり、上から垂れ下がってくるのが「竜巻」で、下から巻き上がるのが「つむじ風」ってことらしい。
南風 ―みなみかぜ・なんぷう・みなみ・はえ・まぜ・まじ―
南方から来る風。漁師たちはこれが吹いた場合、天候の変化の前兆として警戒するらしい。