西加奈子氏の『サラバ!』は、感情を抑えきれなくなる程の不思議な力が宿る小説

2015年早々の文学界の話題は、又吉直樹氏の『火花』と西加奈子氏の『サラバ!』ですね。
そこで、第152回直木賞を受賞した『サラバ!』に触れてみます。
※)『火花』については、”ピース・又吉ならぬ又吉直樹氏の初純文学作品『火花』を読む!”を参照ください。

あらすじはざっとこのようなものです。

1977年5月、圷歩(あくつあゆむ)はイランで生まれた。
彼をこの世界で待っていたのは、父、母、そして相当におかしな4歳上の姉だった。
彼女が起こしていく衝撃的な行動に、息を潜めるように生きていく歩。
イラン革命の後しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、エジプトへ向かう。
そこで起きた、後の人生に大きな影響を与える、ある出来事。
そしてそこから姉は……。
中庸であることに徹してきた歩は、黄金期から真っ逆さまに突き落とされた途端、30歳を過ぎて何ひとつ手にしていないことに気づく。

派手な装丁とここ何年かの流行りでもある700ページ超の分厚い上下巻ですが、その物語に引き込まれてしまうと、読み終えるまではあっという間。
主人公・歩の器用に要領良く生きているつもりの心情と、人生を見失い転落の一途を辿る壮絶な落差に、読む人は思わず歩に自分を重ねてしまわずにはいられず、人生というものの深淵を凝視させられる感覚に陥ってしまいます。
しかもこの小説の面白さは、30歳を過ぎて初めて挫折し、人生の厳しさを知るところから始まるのです。

自己愛にガチガチに囚われていた主人公の「信じるものを自分で見つける」もがきとあがき、生きることへの情熱や痛みといったものが圧倒的な勢いで物語を紡ぎ、ガンガン前に進んでいくパワーに、読む人は心地よさと生きる輝きをシンクロしながら味わえる、最近の小説にしては読んでて気分良くなる非常にお勧めな作品です。
余計なことを考えずに読み進めば、「あー、面白かったなあ」といえること請け合い!

あと、主人公のエキセントリックな姉はジョン・アーヴィングの『ホテルニューハンプシャー』に出てくるフラニー(映画ではジョディ・フォスターが演じてたなあ)そのものだし、こちらも改めて読み返したくなりますよ、絶対。

上下巻の分厚さに負けず、手にとってみてください。

本文より————
「サラバ。」
 声に出すと、言葉と一緒に涙と、涙より熱いものが溢れ、僕はほとんど呼吸困難だった。それでも言った。
「サラバ。」
 僕らは言い続けた。
「サラバ。」

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