学生の頃から、ずっと傍にある一枚の写真があります。
パリの恋人たちのキスの場面を捉えた作品「市庁舎前のキス、パリ」(Le Baiser de l’hôtel de ville, Kiss by the Hotel de Ville)。
フランスの写真家・ロベール・ドアノー(Robert Doisneau)の捉えたあまりにも有名なこの写真は、誰もが知る美しいショットのひとつですね。
Atelier Robert Doisneau | Site officiel
報道写真やファッション写真、パブロ・ピカソやジャン・コクトー、シモーヌ・ド・ボーヴォワールなど多数の芸術家たちのポートレートの分野で活躍したドアノーですが、1949年にヴォーグ・フランス誌とフォトグラファーとして契約。
ファッション写真を手がけつつ、夜な夜なロベール・ジローとともにパリの町中を歩き回って撮影を行った人物、建物、背景などの多くの作品は、ドアノー自身が「永遠から獲得した数分のうちの1秒」と表現する程で、21世紀の今でも世界中で愛されています。
80年代になって、「市庁舎前のキス、パリ」や「パンを手に見立てたピカソ」(Picasso and the loaves Robert Doisneau, 1952)”などがポスター、ポストカード、写真集に複製され、 彼の人間味溢れる作品は世界中の共感を呼ぶことになりました。
そんな流れと並行し、最近の欧米での写真価格の高騰は驚くべきもので、今では1億円を超えることも当たり前の時代となっています。
当然ながらドアノーの作品も高騰しており、2005年4月25日にパリのArtcurial Briest Pulain le Fuで開催されたオークションでは、この「市庁舎前のキス、パリ」が155,000ユーロ (当時で約2千2百万円)で落札されています。
というのも、落札した写真の所蔵はこの写真のモデルとなった女優のフランソワ・ボネさんであり、1950年の撮影直後にドアノー自身から撮影の謝礼としてプレゼントされたヴィンテージ・プリントだったためです。
ドアノーは自作のコンセプトをこう語っています。
「レンズは主観的だ。
この世界をあるがままに示すのではない。
私が気持ちよく感じ、人々が親切で、私が受けたいと思うやさしさがある世界だ。
私の写真はそんな世界が存在しうることの証明なのだ。」と。
パリの通りやカフェで見られる、さまざまな階級の人々の何気ない普通の生活を撮影し続けたドアノー。
色あせることのない彼の作品を、改めて愛でてみませんか。