高倉健さんが去った。人としての礼節、誇り、美徳を持ち続けて。

俳優高倉健さんが11月10日に亡くなりました。

まさに日本を代表する昭和の大スターですが、無敵のヒーローではなくあくまで市井の一目線から見る寂しさとそれに耐える精神的な強さを演じ続けていてくれた、素晴らしい俳優でした。
”益荒男ぶり”という言葉がありますが、まさにぴったりの言葉ではないかと思います。
高倉健を演じるというよりは、高倉健で居続けるために、礼節を大切にし、気遣い・心遣いを忘れず、誇り高く生き抜いた方だったのではないかと思います。
現在の周りが見えにくい混沌とした時代だからこそ、こうした人としての誇り、美徳、精神性は本当に手本にすべきです。
かつ、それを昭和から平成にかけてずっと背中で見せ続けてくれたことに対し、私達は単に記憶するだけでなく倣っていかねばなりません。
それが、私達にできる最大の敬意の払い方に違いないからです。

【益荒男・丈夫】 ますらお〔ますらおを〕
りっぱな男。勇気のある強い男。
心身ともに人並みすぐれた強い男子。
万葉集に代表される、素朴で雄大な和歌の主題となるもの
豊饒の海 第二巻・奔馬(三島由紀夫)に流れるテーマ ますらおぶり(益荒男ぶり)あるいは〈荒魂〉

【手弱女】たおやめ〔たをやめ、たわやめ〕
たおやかな女性。優美な女性。しなやかで優しい女性。
女性的で温厚優和な様。
古今和歌集に代表される、優美で繊細な和歌の主題となるもの。
豊饒の海 第一巻・春の雪(三島由紀夫)に流れるテーマ たおやめぶり(手弱女ぶり)あるいは〈和魂〉

私が最初に見た高倉健さんの映画は、小学校の梅雨時期に従兄に連れられて観に行った「八甲田山」です。
まだ11か12歳ぐらいだったと思いますが、そのリアルな内容と壮絶で悲惨な結末にかなりの衝撃を受けた記憶があります。
当時はそれでも「あー、こんな父親が居てくれたら」と、理想の父親像を高倉健演じる徳島大尉に重ねてたものです。

次に観た高倉健さんの映画といえば、確か「八甲田山」の翌年に公開された「野生の証明」です。
そこで観た特殊部隊の訓練の壮絶さや、事件のカギを握る少女(薬師丸ひろ子)との逃亡劇の中で、とにかく守り抜くことに命をかける健さんのカッコ良さにすっかり魅了されたものです。

高校生になると、年に何度かオールナイトで5本・6本立てで上映される任侠モノの映画に、若い高倉健見たさに足を運んだものです。
当時は「青少年保護(健全)育成条例」もなかったので、週末はひとりで夜更かししにオールナイト上映などに出かけていた(中高生料金か何かで500円ぐらいで見れてた)のですが、今は23時以降だと保護者同伴でもNGなんですよね。(そういったところは、今の子達は可哀そう。ま、娯楽は多いからそうでもないか。。)
まあ、任侠モノでオールナイトの映画館ともなると、同世代は滅多に見かけませんでしたが、逆に肩で風切ってそうなちょっとヤバ目のオッチャン達が必ず何人かはいたものです。
でも、それがまた別の意味でリアルな臨場感があり、それでなくともあの頃は”強い=カッコいい”という感覚の年頃なので、それを楽しむ自分がいたことも事実。
まあ、大筋はほぼ似たようなストーリー展開なので、大概3、4本目あたりは寝てましたけど。
網走番外地」シリーズ、「新網走番外地」シリーズ、「昭和残侠伝」シリーズ、「日本侠客伝」シリーズ、「緋牡丹博徒」シリーズ。
※)とにかくカッコ良すぎる女博徒役の富司純子を知ったのも、これとは関係ないですが「仁義なき戦い」シリーズや「トラック野郎」シリーズ(いやあ、こういうものを高校生が見てちゃダメでしょ、と今なら思う)で菅原文太を知ったのも、高校時代のオールナイト映画のおかげです。
健さんの任侠モノは各シリーズ共ほとんど見ているはずなのですが、ストーリーを覚えているのはそれぞれ1,2本程度。
それもタイトルだけではどの映画だったかも定かではないという残念な記憶ではありますが、それでも常にその映像の中心にいたのは背筋をピンと伸ばして立ちすくむ孤高の高倉健さんの姿でした。

大学に進学し社会人になってからは、映画館で健さんを観ることはなくなり、テレビで「幸福の黄色いハンカチ」「駅 STATION」「南極物語」「夜叉」「ブラック・レイン」「鉄道員(ぽっぽや)」などを放映しているのをみる程度でしたが、やはり私にとっての健さんは高校時代までにスクリーンで見たあの姿しかありません。
今の人達は、東映を辞めた後の映画に出演されている高倉健さんが記憶にある方が大半だと思いますが、これを機に古い映画も観て貰って、昭和に生きたカッコいい男の精神性を理解する機会を持って貰えればと思います。

高倉健さん、心からご冥福をお祈りします。

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