夢二のロマンを愛でながら!待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草のやるせなさ 今宵は月も出ぬさうな!

大正浪漫を代表する画家・詩人である竹久夢二によって創られた詩歌『宵待草』。

”待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草のやるせなさ 今宵は月も出ぬさうな”

宵待ち草は、日暮れを待ちかねたように月を映して咲きはじめ、一夜限りにはかなく散ってゆきます。
一般には月見草と呼ばれていますが、正しくは”オオマチヨイグサ”。
夢二によって創られた『宵待草』は、「待ち」「宵」にかけているのでしょう。
大正浪漫を代表する詩人の付けたタイトルには、どこか粋とロマンを感じます。。

恋多き夢二だったようですが、これは実ることのなかったひと夏の恋を詞に謳い上げたものです。

明治43年夏、夢二はよりを戻した元妻たまきと、息子を伴い房総方面に避暑旅行に出掛けます。
銚子から犬吠崎に向かい、海鹿島の宮下旅館に滞在するのですが、ここは太平洋に向かう見晴らしの良さで、明治から多くの文人が訪れた名所だそうです。
この時、たまたま姉を頼って当地に来ていた女性(長谷川賢・19才)との出会いがあり、親しく話している内に心を惹かれた夢二は、呼び出しては束の間の逢瀬を重ねるものの、結ばれることもないまま、その夏が終わりを告げます。
彼女を忘れることが出来ず、夢二は翌年改めて当地を訪れ、彼女が嫁いだことを知り自らの失恋を悟ります。
この時、夢二はひとりこの浜で待てど暮らせど来ぬ女性を想い、悲しみにふけったと言われています。
浜辺に咲く待宵草にこと寄せ、実らぬ恋を憂う気持ちが作り上げたこの詞は、何ともいえない余韻を残すのです。

「宵待草」原詩

”遣る瀬ない釣り鐘草の夕の歌が あれあれ風に吹かれて来る
 待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草の心もとなき
 想ふまいとは思へども 我としもなきため涙 今宵は月も出ぬさうな”

たまには、こうした一片の詩を愛でてはいかがでしょうか。

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