前回、”智恵と歴史の天窓”からの続きです。
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教王ハールーン・アル・ラシードはメッカ巡礼の帰途、僧院で饗宴を開いていた。
しかし普段陪食する大臣・ジャアファルは、医師のジブライル・バフティアス等と共に狩に出ていたためその場にいなかった。
その晩ジャアファルがテントでマンドラの演奏を聞いていたところ、教王の御佩刀持ちマスルールがいきなり訊ねてくる。
胸騒ぎを覚えたジャアファルが何事か訊ねると、教王がジャアファルの首級を欲しがっていると告白された。
驚いたジャアファルはマスルールに、処刑の理由を王に聞いてくるよう頼んだが受け入れてもらえなかった。
観念したジャアファルは自ら目隠しをして、首を落とされることとなる。
マスルールが首級を持ち帰ったところ、教王はそれに痰を吐き掛けたばかりでなくジャアファルの遺体を磔にするなどしてバルマク一門に恥辱を与えた。
また一千名に値するバルマク家の一族は投獄され、ジャアファルの父・ヤハヤーと兄のエル・ファズルは拷問に処された。
この動機については話中で以下のことがあげられている。
バルマク家に権力が偏りすぎ、また民衆の人気がジャアファル達に傾いていることを教王が不満に感じたため。
このことは医師のジブライル・バフティアスが直接教王の口から聞いたとされている。
アッバース朝の脅威になるかもしれないと判断され、暗殺の計画が立てられていたアリー家の子供を、哀れに思ったジャアファルが逃がしてしまったため。
この行為について教王が問いただしたとき、全く反省の様子を見せなかったジャアファルに怒りを抱いたとされている。
元来拝火教の一門でありながら回教に改宗したバルマク家だが、邪教とされた他宗教の肩を持つことが多く、信仰心が疑われたから。
また教王は自分の妹アッバーサを深く愛していたため、これをジャアファルと結婚させた。
しかし教王は二人に対し、教王の前以外で二人の逢瀬を重ねることを禁止し形式のみの結婚を強要した。
ジャアファルは律儀にこれを守ろうとしたが、これに不満を抱いたアッバーサは女奴隷に扮し夜ジャアファルの部屋に行く。
女奴隷の正体がアッバーサだと気づかなかったジャアファルは王との誓約を破り、一夜を共にしてしまう。
これで身ごもってしまったアッバーサとジャアファルは王の逆鱗に触れることとなってしまったから。
ジャアファルの処刑後のある日、風呂屋にて詩人のムハンマドがエル・ファズルの令息の誕生を祝うために作られた自作の詞を口ずさんでいると、風呂屋の少年が気を失ってしまい、泣きながら逃げ出してしまった。
風呂から出たムハンマドがそのことについて問い詰めたところ、その少年は自分がエル・ファズルの令息だったと告白する。
落ちぶれてしまった少年の身を案じたムハンマドは養子をしてその子を引き取ろうとするが、誇り高い少年はそれを断ってしまった。
教王の方はバグダードに戻ろうとはせず、ラッカーの地に居を定めにいった。
しかしジャアファルを殺してしまった教王はそのことを悔やみ、他の宦官がバルマク家のことを思い出させる発言をする度不機嫌になった。
また教王はジャアファルを殺したことや子供達に王位を狙われていることで苦しむ中、マスルールやジブライル等をも不信に感じるようになる。
そして教王はホラーサーンの遠征途中で眠っていたところ、頭に手が伸びてくるのを見た。
その手は赤土を握り、またある声が「トゥースの町にて教王は死す」という旨のことを言った。
後日病の悪化でトゥースの町に立ち寄った教王は激しい不安を感じ、マスルールに町の土を取ってこさせる。
その土は赤く、教王は夢を思い出して嘆いた。
そして教王はトゥースの町で崩御し、アッバース朝第5代は幕を閉じた。
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次回は、ジャスミン王子とアーモンド姫の優しい物語です。