アルチュール・ランボオへの想い!

今日(10月20日)はアルチュール・ランボー、いやランボオ生誕の日です。
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボオ、 Jean Nicolas Arthur Rimbaud。
フランスの詩人、1854年生まれですので、今年で生誕163年です。
節目の年なのにあまり世間で騒がれていないのが残念なこともあり、ちょっと整理してみることにしました。

ランボオは、私が中学高校の鬱屈した時期をずっと一緒に過ごした大事な詩人です。
当時は友人にランボオを読んでるなんて恥ずかしくてとても言えませんでしたが、
・”早熟の天才”と呼ばれ
・同じく詩人ヴェルレーヌとの出会いと別れを経て、
・20歳代前半で筆を折るように創作を放棄し、
・その後、放浪者・開拓者としての人生を歩み、
・37歳で悪化した骨肉腫が原因で死去(1891年11月10日)
・代表的な詩集には”酔いどれ船””地獄の季節””イリュミナシオン”などがある
といったところで、一種破滅的ともいえるその詩編が、当時の青い私には随分新鮮に映っていたのかもしれません。

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ランボウの詩の特徴といえば、韻もないしリズムの規則性もない上に、詩というよりは散文に近いものです。
しかし、書きなぐったように吐き出された言葉とその鮮烈な文体の迫力に、当時は随分のめり込んだものです。
いや、傾倒していた、という方が正しいかな。

ランボオの代表作”地獄の季節”は1873年に書かれて印刷製本されたものの、出版費用が払わずに500部近くが倉庫行きになったまま30年近く眠り続け、当時は著者用見本の一部が知人に配られたのみだったようです。
この詩篇は、地獄で夏の一季節を過ごした語り手による心理的自伝という形を取っており、現在を振りほどき未来に掴みかかるような激情と高揚感を誘うものです。
・自身に流れる異教徒の血を確認しながらキリスト教の救済を拒否し、ヴェルレーヌとの関係を奇妙な夫婦に託した告白”錯乱Ⅰ”
・後期韻文詩を改変し、自己言及によって装飾、論証された自己検証の”錯乱Ⅱ”
・労働を侮蔑した語り手が、次第に新しい労働の創造へと向かっていく”閃光””朝”
・文学への決別とも取れる”別れ”
こうした構成による”地獄の季節”はランボオの生の集大成と言っても過言ではないでしょう。

ランボオは早熟の天才と呼ばれ、早くに筆を折ったことについてはいろいろな講釈が付いてます。
ランボウの全盛期は17~19差歳前後。
私が同世代だった尾崎豊が全盛期だったのだって10代の頃。
尾崎が”15の夜””卒業”などで歌に込めたものは”誰にも縛られたくない””逆らい続け あがき続けた”大人への反抗とそこからの自由でした。

でもこの多感な時期においては、理由もなく憤ったり、言葉を暴力的に吐き出したり、持って行きようがない感情を持て余したりする経験は誰しもあるはずです。
従って、ランボウは別に天才でも稀有な才能を持ち合わせていたのではなく、行き場のない怒りや苦しみを詩に託したに過ぎないのではないか、今では何となくそう思えるのです。

・青春期にしか味わうことのできない独特な感覚や感情は、その時期だけに味わえる一過性の感情でしかない。
・青春と大人への反抗の象徴だった自分が、成長しその大人へとなることで、その感情を見失ってしまう。
・心境を激しく形にして躊躇なく吐き出していたはずなのに、歳を取ることによってその対象を見失ってしまう。

そこに対するいわれもない葛藤がますます自分を追い詰め、尾崎は自分を壊し、ランボウは自分を壊す代わりに筆を捨ててしまったと思うのです。

実は、ランボオが自分の人生の中で詩にそれほど重きを置いていなかったということは、それ以降の彼の人生を見てもよくわかります。
やがて軍隊に入ったりアフリカで貿易の仕事を始めたり、放浪者・開拓者としての人生を歩んでおり、詩作は彼の人生にとっては10代の通過点に過ぎなかったのでしょう。
ですから、成人してからのランボオの人生は、天才詩人の不幸な半生というよりは、アフリカ貿易商人が旅の途中で人生を終えた、とみる方が正しいのかもしれません。

だからといってランボオの詩が色あせる訳ではなく、青春のもどかしさの中書き殴った詩だからこそ、私も当時熱中して読み耽っていたのでしょうし、当時の自分の心を激しく揺さぶっていたのです。
だからこそ、剥き出しの生々しいまでの感覚を詩という形で表現されていることが、今の時代にも新鮮に感じるのでしょうし、いつの時代の若者にも共感できるものだと思うのです。

だとしたら、ランボオに熱中できるのはやはり20歳ぐらいまでかな。
青春の発作、麻疹といったところでしょうか。

当時を懐かしんで、改めて読み耽るか、そのまま良い思い出としてそっとしておくか。
ちょっと悩むところです。

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~アルチュール・ランボオ~

永遠
”見つけたぞ!
――なにを?――永遠を。
それは、太陽と混じり合う
海だ。

見張り番する魂よ
そっと本音を語ろう
こんなにはかない夜のこと
炎と燃える昼のことを

世間並みの判断からも
通俗的な衝動からも
おまえは自分を解き放つ
そして自由に飛んでいく

きみたちだけだ
繻子サテンのような緋の燠よ
義務の炎を上げるのは
ついに という間まもないうちに

そこに望みがあるものか
救済だってあるものか
忍耐の要る学問だ
煩悶だけは確実

また見つけたぞ!
――なにを?――永遠を。
それは、太陽と混じり合う
海だ。”

別れ
”俺は誑されているのだろうか。
俺にとって、
慈愛とは死の姉妹であろうか。
最後に
俺はみずから虚偽を食いものにしていた事を謝罪しよう。
さて行くのだ。
だが、友の手などあろう筈はない、
救いを何処に求めよう。”

”夏の青い夕暮れに ぼくは小道をゆこう
麦の穂にちくちく刺され 細草を踏みしだきに
夢みながら 足にそのひんやりとした感触を覚えるだろう
吹く風が無帽の頭を浸すにまかせるだろう”

話しはしない なにも考えはしない
けれどかぎりない愛が心のうちに湧きあがるだろう
そして遠くへ 遥か遠くへゆこう ボヘミアンさながら
自然のなかを――女と連れ立つときのように心たのしく”