「経世済民論の書」より学ぶ!世を経め民を済う権力者への献言・献策の書!

経世論は、主として江戸中期以降に形成された「経世済民」「治国平天下」のために立案された諸論策、もしくはその背景にある思想で、「経世思想」「経世済民論」ともいわれるものです。
「経世済民」が世を経(おさ)め民を済(すく)う、といういわゆる「経済」の由来ともなっている言葉ですが、今日でいう政治、経済、社会を論じ、生産増強、消費節約などを内容とするものです。
このような思想が成立した背景にあるのは、幕藩体制の下で進行した領主財政の窮乏、統治機構の形骸化・腐敗、農民の疲弊、商人高利貸資本への富の集中など、さまざまな社会矛盾の顕在化になるのですが、「経世済民論の書」は、これらの問題にいかに対応するかという権力者への献言・献策として執筆・刊行されてきているもの。
これまでに整理してきたものの中にはこうした書も含まれているので、「経世済民論の書」という切り口で改めて整理しておきたい思います。

【江戸前期経世論】
●17世紀後半に一応のまとまりを持った著作(熊沢蕃山『大学或問』)が登場し、一つの思想領域として成立。
●この時期の思想は、士農工商の頂点に位置し、社会秩序の安寧を維持する責任を有するという武士身分の自意識を軸としており、儒教的な徳治論に基づき、「封建的な小農体制の維持」、「勤倹節約による領主財政の安定化」が中心的主張となっていた。
●蕃山に続き、18世紀前半には荻生徂徠、及びその門弟である太宰春台が現れたが、春台の著作においては単純な貴穀賤金論※)や尚農抑商策ではもはや状況に対応できないことが認識され、蕃営専売策など幕藩体制の側から積極的に市場経済に対応すべきことが述べられている。
※)貴穀賤金とは、米穀を尊び、貨幣を賎しめるというもの。農本的な思想から派生したとされる。

・集義和書(熊沢蕃山・全16巻・1672年(寛文2年)刊)
 近江聖人:集義和書より学ぶ!経世済民のコンサルタントの教え!
・集義外書(熊沢蕃山・全16巻・1679年(延宝6年)頃・1709年(宝永6年刊))
 熊沢蕃山は、最初に賤金貴穀を唱えた。享保年間には、荻生徂徠・太宰春台も同じようなことを唱えた。
 「タカラヲ賤ズルトテ、ナゲスツルニハアラズ、五穀ヲ第一トシテ、金銀コレヲ助ケ、五穀下ニミチミチテ、上ノ用ニ達スルヲ貨ヲ賤ズトイフナリ」
 経世治教論・集義外書より学ぶ!道を見るものは生死を以て心を
・大学或問(熊沢蕃山・全1巻22条・1687年(貞享4年)頃・1788年(天明8年)刊)
 
『大学或問』 より学ぶ!勝海舟に「儒服を着けた英雄」と呼ばしめた熊沢蕃山の経世済民論!
・政談(荻生徂徠・全4巻・1726年(享保11年)頃)
 政談より学ぶ!荻生徂徠が説く経世済民と礼楽刑政の道!
・経済録(太宰春台・全10巻・1729年(享保14年)序)
・経済録拾遺(太宰春台・1740年代(寛保・延享年間))
・統道真伝(安藤昌益・全5冊(稿本)・1752年(宝暦2年)頃)
・自然真営道(安藤昌益・全101巻93冊(稿本)・1753年(宝暦3年)一部刊)
・価原(三浦梅園・全1冊・1773年(安永2年))
 価原より学ぶ!三浦梅園が唱えた六府(水・火・木・金・土・穀)と三事(正徳・利用・厚生)!
・赤蝦夷風説考(工藤平助・全2巻・1783年(天明3年))
・三国通覧図説(林子平・全1巻・1785年(天明5年)・1786年(天明6年)刊)
・海国兵談(林子平・全16巻・1786年(天明6年)・1791年(寛政3年)までに刊)
 飢饉のことを言うが、実際は兵備の点から賤金貴穀を論じた。
 「常世は上下共に穀を賤しんで金を貴ぶなり」
 「此故に金銀を第一として穀を心とせざるは甚だ危き心掛なり、其故に三四ヶ国飢饉なれば、有年の国のより飢饉の国へ廻し遣はす米穀も有べきなれども、もし、二三十ヶ国も一統に飢饉せば廻し遣はす米穀も有べからず。その時に至て、金銀を煎じて飲むとも命は助る間敷なり」
 「此所能く呑込んで、金銀は命を救ふ第二番の物なることを知て米穀を第一、金銀を第二と心得て、平日食糧になるべき物を蓄ふることを勤むべし」
・経済問答(不明・全5巻・江戸中期まで)
・秘本玉くしげ(本居宣長・全2巻・1787年)
 貨幣取引に制限を加えるべきであるとし、賤金貴穀を論じた。
 「右の子細(貨幣流通の弊害を指す)どもをつねづねよく心得居て、総体正物にて取引すべき事は少々不便はありとも、やはり正物にて取引をして金銀の取引のすぢをばなるべきだけはこれを省き、なほまたさまざまの金銀のやりくりなどをも、なるべきだけは随分これを止め、またなすべきこをと金銀にて仕切るやうのすぢはなほ更無用にあらまほしきことなり」
 秘本玉くしげより学ぶ!本居宣長から現代に通じる経済の具体策!

【江戸後期経世論】
●春台の論を継承発展させる形。海保青陵ら。
 ・幕府や諸藩による産業の育成
 ・商品流通への参与を通じた利潤獲得
●従来の一国的議論を超える、幕藩体制の克服へ向かう主張の登場。本多利明、佐藤信淵ら。
 ・開国による海外貿易の推進
 ・海外植民地の獲得と開発

・西域物語(本多利明・全3巻・1798年(寛政10年))
・経世秘策(本多利明・全4巻・1798年(寛政10年))
・稽古談(海保青陵・全5巻・1813年(文化10年))
・夢の代(山片蟠桃・全12巻・1820年(文政3年))
・経世談(桜田虎門・全10巻・1822年(文政5年)頃)
・混同秘策(佐藤信淵・全2巻(本論)・1823年(文政6年))
 物価の平準化を目的として賤金貴穀を論じた。
 「米を蓄るときは鼠或は虫付、ふけ米等の出来て減ずること多きも、金を蓄ふるときは、利息出来て、増すこと多きが故に、年貢も金納を多くし、米を払ひて、金にするを良とするとは、小人の利術にして、君子の所為にあらず、士農米穀を蓄へざるが故に、工商是を卑みて金銀を貴ぶなり、もし士農金銀を卑み、米穀を貴てこれを蓄積するときは、工商は士農に役せられて常に米穀を求むること急なり、然るに士人米を卑みて蓄積せず特に金のみを貴ぶが故に富商の鼻息を仰で憂喜をなすに至り、工商豊にして、士農困む是れ上下地を易る根原なり、此弊を改むるときは工商常に米穀に困み、士農を仰でその業を励むに至れば、物価は自然に平準なるべし」(『物価余論』)
・経済要録(佐藤信淵・全15巻・1827年(文政10年)序)
・農政本論(佐藤信淵・全9巻・1829(文政12) – 32年(天保3年))
・新論(会沢安・全2巻・1824年(文政7年))
・慎機論(渡辺崋山・全1巻(未定稿)・1838年(天保9年))
・戊戌夢物語(高野長英・全1冊・1838年(天保9年))
・経済問答秘録(正司考祺・全30巻・1841年(天保12年)刊)
・東潜夫論(帆足万里・全3巻・1844年(弘化元年))
・広益国産考(大蔵永常・全8巻・1852(天保13) – 59年(安政6年)刊)
・海防八策(佐久間象山・1852年(天保13年))
 『海防八策』より学ぶ!幕末の志士に大きな影響を与えた天才思想家・佐久間象山!
・国是三論(横井小楠・1860年(万延元年))
 国是三論より学ぶ!龍馬、松陰が敬愛した独立自尊の教え!

これ以外でも『呻吟語』(呂新吾)、『随想録』(高橋是清)などもリーダーとしての資質を高める経世済民の書として著名ですね。
 呻吟語より学ぶ!修己治人。己を修め人を治む書!
 随想録より学ぶ!日本の経済危機を何度も救った高橋是清!

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