前回、”金剛王子の華麗な物語”からの続きです。
゚★☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・☆★゚
カイロの地に、一見おろかなゴハという男がいた。
途方もない道化者だったが、じつは内に鋭い叡智を宿していた。
ここでは、ゴハの滑稽な頓知話の数々が繰り広げられますが、今回はちょっとショートカットです。
次回は、乙女「心の傑作」鳥の女代官の物語です。
゚★☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・☆★゚
そこで今回は、ちょっと脇道に外れて『千一日物語』についてです。
そもそもサーサーン朝ペルシアには、千夜一夜物語が成立する数百年前にすでに「千の物語」と呼ばれる物語集がありました。
やがて世界帝国を築いたペルシア帝国も次第に衰え、7世紀になるとアラブ人に支配されるようになりますが、高い文化を持つペルシア人は、学問文化面でアラブ人を支配していきます。
こうしてアラビア語による「千夜一夜物語」に対抗して作られたのが『千一日物語』です。
『千一日物語』は枠物語の形式をとっており、物語の発端は同様の形式である『千一夜物語』と類似しています。
そんな『千一日物語』、やがて17~18世紀の初頭にかけてフランスで出版されます。
ちなみによく知られている『トゥーランドット』は『千一日物語』の中の「カラフ王子と中国の王女の物語」が元になっていますし、アンデルセンの童話『飛ぶトランク』の原話は「マレクとシリン王女の物語」(『千一日物語』109日-115日)であるとされます。
物語は夜ではなく午前中に語られるという設定なのですがこれは『千一日物語』という命名に由来しているようです。
『千一日物語』の発端は、こんな感じです。
゚★☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・☆★゚
カシュミールの王トグリュル=ベイには、ファリュヒルス王子とファリュヒナス王女という二人の子供がいた。
ファリュヒナス王女は、ある日、夢を見た。
わなにかかった牡鹿が雌鹿によって助けられた。
そのあと、その雌鹿が同じわなにかかってしまったが、牡鹿はその雌鹿を助けることなく、そのまま置き去りにした。
王女は、ケサヤ神が男性の不実さを警告しようとしたのだと思った。
有力な王侯からの結婚の申し込みをすべて断った。
父王は娘の高慢さによって国が災難に見舞われることを恐れ、乳母に王女の考えを変えさせるように頼んだ。
乳母は、数多くの物語を語ってきかせることにした。
それらは、毎朝、午前中に語られた。
゚★☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・☆★゚
『トゥーランドット』
時と場所:いつとも知れない伝説時代の北京
【第1幕】
宮殿(紫禁城)の城壁前の広場。役人が群衆に宣言する「美しいトゥーランドット姫に求婚する男は、彼女の出題する3つの謎を解かなければならない。解けない場合その男は斬首される」今日も謎解きに失敗したペルシアの王子が、月の出とともに斬首されるべく、喝采する群衆の中を引き立てられてくる。敗戦により、国を追われて放浪中の身であるダッタン国の王子カラフは、召使いのリューに手を引かれながらさ迷う盲目の父、ダッタン国の元国王ティムールを発見し、3人は互いに再会を喜ぶ。ペルシア王子処刑の様子を見にトゥーランドット姫が広場に現れ、カラフは一目見てその美しさの虜となる。ティムール、リュー、そして宮廷の3大臣ピン、ポン、パンが思いとどまるよう説得するが、カラフはトゥーランドットの名を叫びながら銅鑼を3回打ち鳴らし、自らが新たな求婚者となることを宣言する。第1幕では、トゥーランドット姫は一切声を発さない。
【第2幕】
ピン、ポン、パンの三大臣が軽妙なやりとりで姫とカラフの噂話をしている。そのうち、帝の出御となり群衆が集まる。万歳の叫び声の中、皇帝アルトウームがカラフに無謀な試みをやめるよう説得するがカラフは耳を貸さない。こうして姫が冷やかな表情で出てくる。
カラフの謎解きの場面。トゥーランドット姫は、何故自分がこのような謎を出題し、男性の求婚を断ってきたのかの由来を改めて述べる「かつて美しいロウ・リン姫は、異国の男性に騙され、絶望のうちに死んだ。自分は彼女に成り代わって世の全ての男性に復讐を果たす」。
第一の謎「毎夜生まれては明け方に消えるものは?」カラフ曰く「それは希望」第二の謎「赤く、炎の如く熱いが、火ではないものは?」「それは血潮」カラフは2つまでも正解を返す。最後の謎「氷のように冷たいが、周囲を焼き焦がすものは?」カラフは暫く悩むが、これも「トゥーランドット!」と正答する。
謎がことごとく打破されたトゥーランドット姫は父アルトゥーム皇帝に「私は結婚などしたくない」と哀願するが、皇帝は「約束は約束」と娘に翻意を促す。カラフは姫に対して「それでは私もたった一つの謎を出そう。私の名は誰も知らないはず。明日の夜明けまでに私の名を知れば、私は潔く死のう」と提案する。
【第3幕】
北京の街にはトゥーランドット姫の命令が下る「今夜は誰も寝てはならぬ。求婚者の名を解き明かすことができなかったら住民は皆死刑とする」カラフは「姫も冷たい部屋で眠れぬ一夜を過ごしているに違いない。夜明けには私は勝利するだろう」とその希望を高らかに歌う。ピン、ポン、パンの3大臣は多くの美女たちと財宝を彼に提供、姫への求婚を取り下げるよう願うが、カラフは拒絶する。ティムールとリューが、求婚者の名を知る者として捕縛され連行されてくる。名前を白状しろ、とリューは拷問を受けるが、彼女は口を閉ざし、衛兵の剣を奪い取って自刃する。リューの死を悼んで、群衆、3大臣など全員が去り、トゥーランドット姫と王子だけが残される。
王子は姫に熱い接吻する。姫はリューの献身を目の当たりにしてからその冷たい心にも変化が生じており、彼を愛するようになる。ここで王子ははじめて自らの名がカラフであることを告げる。「名前がわかった」と姫は人々を呼び戻す。
トゥーランドットとカラフは皇帝の玉座の前に進み出る。姫は「彼の名は……『愛』です」と宣言する。群衆は愛の勝利を高らかに賛美、皇帝万歳を歌い上げる。
゚★☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・☆★゚
さてこうして、1001日間にわたって物語が語られることになるはずなのだが、190日目の話が終わると、その次は960日目の話となって、日数の上では770日近く欠けている。
最後の1001日目になっても、乳母の話によっては王女の心は一向に変わらず、非常に長い結末が続く。
その概要は次の通りである。
カシュミールの国では、王子が不治の病にかかり、王女も物語を聞くどころの状況ではなくなった。
国王はあらゆる手を尽くすが、王子は一向に直らない。
ある日、ケサヤ神殿の祭司を呼ぶと、その祈祷によって王子の病気が治る。
王女はその祭司に会いたいと思うが、王女は会うことを許されない。
神の意志に反して男性を嫌悪し続けているというのが、その理由である。
王女は次第に考えを改めると、祭司と会うことを許される。
神殿に入ると、壁に雌鹿の絵が描かれているのを見た。
雌鹿がわなにかかった絵、牡鹿が雌鹿を助けようとしている絵、そして牡鹿がわなにかかったのに、それを何もせずに見ているだけの雌鹿が描かれた絵である。
王女は自分の夢とは正反対の絵を見て愕然とする。
改心した王女は、祭司に何をすべきかを尋ねる。
ペルシアの美貌の王子ファリュヒシャドが、夢の中でファルヒナス王女を見て恋焦がれたが、王女の男性嫌悪ゆえに悩み苦しんでいる。
この王子のもとへ行くべきだと祭司は答える。
娘の心変わりに喜んだ王は、ペルシアの王子のもとへ、王女と乳母と祭司の三人だけで出かけることを許す。
こうして3人は旅に出るが、あるきれいな庭園のある場所へやってくると、突然、祭司の体が震え始め、まるで死んだようになる。
祭司はこれから命をかけた重大な任務があると言い残し、庭園の奥の家へと出かけるが、やがて無事に王女らのところに戻ってくる。
そして、これまでの経緯を話し始める。
私は本当は祭司ではなく、ファリュヒシャド王子の腹心シモルグである。
王子は原因不明の病にかかり、一向に治る気配がない。
王子からの信頼の厚い私に国王はその訳を尋ねさせた。
すると、王子はある王女の夢を見たという。
しかし王女は夢で牡鹿の不実な振る舞いを見て、すべての男性を嫌悪し、結婚する気がないという。
夢の中でこの王女にすげなくされた王子は、それ以来、病気になっている。
私は国王に、王子の病が治るには、旅に出てこの王女を探すしかないと告げた。
王子と私はまずガズニンの国に着いた。
ここで、息子を失ったばかりの王に歓待された。
ガズニンの国の王子は、カシュミールの王女に恋したものの、彼女は不実な牡鹿の夢によってあらゆる求婚を受け入れない。
それで王子は落胆して死んだのだと言う。
ファリュヒシャド王子は、夢に見た王女が実在の王女で、カシュミールにいることを知って喜んだ。
それで、私はカシュミールの国へ出かけたのである。
旅の途中、この魔法の庭園で、邪悪な魔女メーレファの手にかかり、動物に変身させられてしまった。
ある日、メーレファの妹ギュルナーゼが、私を動物の体から人間の姿に戻してくれたのだった。
感謝した私は、自分の本来の目的を彼女に告げた。
すると彼女は助力を申し出てくれ、私にカシュミールで祭司となることを勧めた。
カシュミールで私は、毎晩、神殿で彼女の指示を仰いだ。
ファリュヒルス王子の病気を治すことができたのも、彼女のお陰である。
あなたとのやり取りについても、すべて彼女の指示通りに動いたのだった。
今日、ここまで無事にやってこれたのだが、メーレファは私が逃げたことに気がついたのである。
先程、私は奥の家へ行き、ギュルナーゼに会いに行ったが、私を人間の姿に戻して逃げさせた罰として、彼女は鎖につながれていた。
私は寝ていたメーレファの首を剣で斬り落とし、鎖のカギの入った袋を無事に取り返してきた。
こうして、邪悪な魔女をかたづけることができたのである。
こう語り終えると、シモルグはファルヒナス王女を連れて庭園の奥の家まで行く。
ギュルナーゼが迎えてくれ、シモルグの勇気を称える。
やがて、これまでメーレファによって動物の姿に変えられていたたくさんの男女が、人間の姿に戻され、皆大喜びで自分の国に帰って行く。
もとの姿に戻った人間の中に、ファリュヒシャド王子もいることがわかる。
シモルグは歓喜し、早速、ファルヒナス王女と対面させる。
二人は結婚し、シモルグもギュルナーゼと結婚する。
ガズニンの国に戻った一行は、王の希望で、ファリュヒシャド王子が王となる。
その後、この国の統治は、シモルグにまかされ、ファリュヒシャド王子は故郷のペルシアの国に戻り、そこで王位を継ぐ。
゚★☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・☆★゚
以上が『千一日物語』の結末です。
男性を嫌悪していた王女が最後には改心し、結婚して幸福になるという点では、女性を憎悪していた王が改心してハッピーエンドとなる『千一夜物語』と鏡のような相対を持っていることがわかります。
゚★☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・☆★゚