前回、”乙女「心の傑作」鳥の女代官の物語”からの続きです。
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昔、エジプトのカイロにアル・マリク・アル・ザヒル・ロクン・アル・ディーン・バイバルス・アル・ブンドゥクダーリという帝王(スルタン)がいたが、民衆の暮らしぶりを知るため、カイロの警察隊長たちを集めて、それぞれ話をさせた。
【第一の警察隊長の語った物語】
第一の警察隊長は名をモイン・アル・ディーンといい、アラム・アル・ディーン・サンジャルが警察の長をしていた時に隊長になった者だったが、次のように語った。
ある日、モインが奉行(ワーリー)の屋敷の中庭に座っていると、100ドラクムの入った財布が落ちてきた。
次の日も同じ場所に座っていると、100ドラクムの入った財布が落ちてきたが、誰が投げたものかは分からなかった。
その次の日、同じ場所にいると、美しい女が現れ、頼みを聞いて欲しいと言って来た。
モインが承諾すると、女は次のように話した。
その女は、法官(カーディー)の若い娘と恋仲であったが、法官が気付き、同性の恋愛を許さなかったので、会えなくなってっしまった。
そこで明日の夕方、ベールで顔を隠し法官の家の近くにいるので、「夜道を女一人帰るのは危険だ」と保護し、法官の家に一晩預けて欲しい。
モイン隊長は女に言われた通りにし、女を法官の家に連れて行き、一晩泊めるよう頼んだ。
法官は、ベールのため女が誰であるかに気付かず、女を泊めたが、翌朝、女は6千ディナールを盗んで法官の家から消えていた。
法官はモイン隊長を呼びつけ、3日以内に女を捕まえ6千ディナールを弁償するよう言った。
モインは女が誰なのかを知らなかったため、探すのを諦め、3日目の朝に覚悟して法官の家に向かったが、途中で例の女を見つけた。
女は、モインに大量の宝物を見せ、頼みを聞いてくれれば宝を渡すと言い、次のように頼んだ。
法官の家に行ったら、女はこの家を出ていない可能性があると言って法官の家を探し、最後に台所の油の大甕のふたを開けなさい。
すると、そこには血の付いたその女の服が入っているので、それを法官が女を殺した証拠としなさい。
すると法官は大金を払い口止めをするので、受け取って法官の家を出なさい。
モイン隊長は言われた通りにすると、計画通り事が運んだ。
その後数日して、法官は怒りと悲しみのあまり死んでしまった。
謎の女と、法官の娘は、ナイル河のタンターの地に移り、幸せに暮らした。
【第二の警察隊長の語った物語】
第二の警察隊長は、結婚する際、妻の求めで「ハシーシュを使わない。西瓜を食べない。椅子に座らない。」と誓い、その条件で結婚した。
しかし、警察隊長はその理由が知りたくて、あえて誓いを3つとも破ってしまった。
妻は怒り、法官(カーディー)の所に行き、離婚を申し立てた。
法官は離婚の権利を認めつつも、夫を赦すことを勧めたので、妻は「初めは骨で、次は筋、次は肉になるものは何か」と問い、翌日までに答えられたら夫を赦すと言った。
法官は答えが分からず困っていると、法官の14歳半の娘が「それは男性の一物で、15歳から35歳までは骨のように硬く、35歳から60歳までは筋のようであり、60歳を過ぎると肉のように役に立たない。」と教えてくれた。
翌日の法廷で法官がなぞなぞの答えを言うと、警察隊長の妻は「答えを見つけたのは法官の娘なのでしょうけど、若いのにそちらの方面に詳しいのね。」と笑い、法官に恥をかかせた。
【第三の警察隊長の語った物語】
第三の警察隊長エズ・アル・ディーンは、次のような話をした。
昔、ある国の漁師が病気になったので、普段は家から出ない妻が道具を持って漁師と一緒に魚を獲りに行ったが、丁度、宮殿にいた帝王(スルタン)に見られてしまい、帝王は美しい漁師の妻を自分の物にしようと考えた。
帝王は漁師を召し出し、大広間を敷き詰められる大きな絨毯を献上するよう命令し、献上できなければ殺すと言った。
漁師が困っていると、妻が公園の井戸に住む女魔神から紡錘を借りてくるように言い、漁師がその紡錘を持って宮殿に行くと、紡錘が大広間を敷き詰められる絨毯を作り出した。
帝王は、再び漁師を召し出し、今度は生まれて一週間の赤子で、初めから終わりまで嘘の話をできる者を連れてくるように命令した。
漁師が困っていると、妻が公園の井戸に住む女魔神から昨日生まれた赤子を借りてくるように言い、漁師がその赤子を連れて宮殿に行くと、赤子は「西瓜の中の町のナツメヤシの木の上の農園の百姓たちが割った卵から生まれた雛と、そのナツメヤシの枝の上の驢馬が運んでいた胡麻菓子」の話をした。
帝王は「西瓜の中の町など聞いたことがない」と言ってしまい、嘘の話であることを認めた。
帝王は、女魔神が漁師に味方していることを知り、漁師の妻を諦めた。
【第四の警察隊長の語った物語】
第四の警察隊長モヒイ・アル・ディーンは次のように語った。
第三の警察隊長の語った漁師と妻には「利口者ムハンマド」という美しい子がいた。
ムハンマドが学校に行く年になると、学校にいた帝王スルタンの子が先生に命じてムハンマドを鞭打ったので、学校を辞めて漁師になった。
漁師になって初めて網を打つと、小さな魴鮄が取れたが、その魴鮄は人の言葉で命乞いをしたので、逃がしてあげた。
帝王はムハンマドに漁師の妻の一件の復讐をしようと思い、遥か彼方の国「緑の地」の帝王の姫君をつれてくるように命じた。
ムハンマドが困っていると、魴鮄が現れ「王に黄金の屋形船を作らせ、それで行けば良い」と言い、ムハンマドは黄金の屋形船で出航した。
ムハンマドが「緑の地」に着くと、黄金の屋形船の珍しさに多くの人が見に着たが、帝王の姫君も見に来た。
ムハンマドは姫君が船内を見ているすきに船を出航させた。
ムハンマドは町に帰り、姫を帝王に謁見させた。
帝王は姫に結婚を申し込むが、姫は「来る途中で海に落とした指輪が見つからなければ結婚しない」と言ったため、帝王は指輪の探索をムハンマドに命じたが、指輪は魴鮄が見つけていた。
姫は「火の中を歩き身を清めた者としか結婚しない」と言ったため、帝王はムハンマドに火の中を歩かせたが、ムハンマドは魴鮄に教えてもらった呪文のため無傷であった。
それを見た帝王と帝王の息子と大臣は同じように火の中を歩いたが、呪文を言わなかったので焼け死んだ。
ムハンマドは姫君と「緑の地」に行き結婚し、「緑の地」の帝王となり、両親を呼び寄せ幸せに暮らした。
【第五の警察隊長の語った物語】
第五の警察隊長ヌール・アル・ディーンは次のように語った。
昔、ある国の帝王(スルタン)が大臣に命じて、「余の機嫌が良ければ怒らず、怒っておれば喜ばぬ印章」を彫るように言ったが、大臣も都の印章職人たちも、どうすれば良いか分からなかった。
大臣が困り郊外を歩いていると、農夫と出会い、農夫の娘ヤスミーンが「苦にせよ楽にせよ、あらゆる情はアッラーより我らに来る」と印章の文を教えてくれた。
王は喜び、ヤスミーンをお妃にした。
しかし、王宮に入ったヤスミーンは体調を崩し、医師の見立てで、田舎から都に環境が変わったことが原因とのことで、海岸に御殿を建てて住むことになった。
体調が回復したヤスミーンが窓の外に漁師を見つけ、網を打つように命じると銅の瓶が取れたので金貨で買い取ろうとすると、漁師は金貨よりキスを求めたが、そこに通り掛かった帝王が早合点し漁師を殺し、ヤスミーンを都から追放した。
ヤスミーンはある町で行き倒れるが、通りがかった商人に助けられた。
しかし、商人の妻が嫉妬し、ヤスミーンを屋上の鳥小屋に監禁してしまった。
ヤスミーンが漁師の取った銅の瓶のふたを開けると、水差しと食事と10人の女の白人奴隷が出てきて、踊りを踊り、黄金の詰まった財布を1人10個ずつ置いて瓶の中に戻って行った。
瓶を開けるたびに同じことが起きたので、鳥小屋は金の財布であふれそうになった。
商人はヤスミーンが鳥小屋に監禁されていることを知り、ヤスミーンに謝罪し解放し、妻を罰した。
ヤスミーンは金で豪華な城を建て、男装して城の主として振る舞った。
帝王は豪華な城の出現に驚き、街に来て城の主と会見したが、ヤスミーンとは気づかなかった。
ヤスミーンは帝王の前で瓶のふたを開け、瓶の魔法を見せてやり、この瓶が欲しければ身を売るようにと言うと、帝王は承知し裸になった。
ヤスミーンは正体を明かし、「この瓶のためにご自身はそこまでするのに、漁師がキスを求めたくらいで殺すとは」と言いった。
帝王とヤスミーンは仲直りし、幸せに暮らした。
【第六の警察隊長の語った物語】
第六の警察隊長ガマル・アル・ディーンは次のように語った。
昔ある帝王(スルタン)にダラルという幼い王女がいた。
ある日ダラルは虱(シラミ)を一匹台所の油の大甕に入れて蓋をした。
何年も経ってダラルが15歳の美しい姫になったとき、虱は水牛ほどの大きさになり、甕を割って出てきた。
王は虱を殺し、皮を剥いで、門の外に掛け、この皮が何であるかを当てた者はダラルと結婚できるが、外れた者は死刑にすると宣言した。
何人もの男が挑戦したが、皆外れて死刑になった。
ある日、美しい若者が現れ、虱の皮であることを言い当て、ダラルと結婚し、しばらく一緒に暮らしたが、ダラルを連れて国へ帰ると言い去って行った。
実は若者は食人鬼(グール)で、人里離れた家にダラルを連れて行き、毎日人を殺してその肉を食べ、ダラルには羊の肉を与えていた。
食人鬼はダラルを試すため、ダラルの母親の姿になり家に来て、ダラルに「お前の夫は本当は食人鬼ではないのか」と聞いたが、ダラルは「食人鬼ではなく美しい王子です」と答えた。
食人鬼は更にダラスを試すため、ダラルの叔母の姿になり同じことをした。
三度目に、食人鬼がもう一人の叔母の姿で来たとき「ムハンマドに懸けて言えるか」と聞かれたので、ダラルは本当のことを言ってしまい、食人鬼は姿を現し、ダラルを食おうとした。
ダラルは食われる前に浴場(ハンマーム)に行きたいと言い、食人鬼もその方が旨くなると思い、ダラルを浴場に連れて行き、女湯の前で待っていた。
ダラルは女湯にいた豆売りの老婆と服を取り換え、豆売りの姿で、気づかぬ食人鬼の前を通り過ぎ逃げて行った。
逃げて来たダラルがある王の御殿の前で休んでいると、ダラルの美しさのため王妃が招き入れようとし、呼びに来た王子とダラルは互いに一目ぼれしてしまい、2人は結婚した。
しかし、結婚式の日に食人鬼は進物の羊の姿で御殿に入り込み、夜になるとダラルをさらった。
ダラルは便所に行きたいと言い、便所で預言者の娘ザイナブに祈ると、使いの女鬼神(ジンニーヤー)が現れ、食人鬼を殺し、助けてくれた。
女鬼神はダラルに「息子の病気を治すため、エメラルドの海の水を一杯すくってほしい。
」と頼み、ダラルが承知すると、空を飛びエメラルドの海に行き、ダラルに水を一杯すくわせた。
ところが、ダラルの手の水に濡れた所は緑色になってしまった。
女鬼神はダラルを御殿に帰し、水をもらうと去って行った。
一方エメラルドの海の番人は、水が減ったことに気づき、犯人を捜すため、腕輪商人の姿をして旅に出て、町々で腕輪を試させ手が緑色の人がいないか見て歩いた。
ある日、番人はダラルの住む町に来て、ダラルの手を見てダラルを捕まえ、空を飛び、エメラルドの海の王のところにダラルを連れて行った。
エメラルドの海の王はダラルの美しさに魅了されてしまい、結婚すれば水を盗んだことを許すと言ったが、ダラルは既に結婚しているので、代わりにダラルの10歳の娘と結婚することにし、みな幸せに暮らした。
【第七の警察隊長の語った物語】
第七の警察隊長ファハル・アル・ディーンは次のように語った。
昔、ある農家に泥棒が入ったと聞いてファハルが捕まえに行くと、泥棒はどこかに隠れて見つけられなかった。
ところが、大きな屁の音が聞こえ、見ると泥棒が見つかった。
泥棒は、「屁が役に立った。」と言ったので、ファアルは「人の役に立つ屁などあるか。」と言ったが、泥棒が「あなたが泥棒を見つけるのに役立ったでしょう。」と言ったので、ファハルは感心して泥棒を許してやった。
【第八の警察隊長の語った物語】
第八の警察隊長ニザム・アル・ディーンは次のように語った。
昔、ある笛吹き男の妻が男の子を出産したが、笛吹き男には金がなかったので外を歩いていると、雌鶏を見つけた。
雌鶏が卵を産んだので市場で売ると、あるユダヤ人が卵1個を20ディナールもの大金で買ってくれた。
笛吹き男はその金で産婆への支払いをし、妻に栄養のある食べ物を買い与えた。
そのユダヤ人は毎日卵を1個20ディナールで買い続けたので笛吹きは大金持ちになった。
何年かして、子が大きくなったある日、笛吹き男は一人メッカへ巡礼の旅に出かけたが、その留守にユダヤ人が雌鶏を売ってくれと笛吹き男の妻に言ってきた。
妻は鞄一杯の金貨と引き換えに雌鶏を売り、ユダヤ人に言われたようにその雌鶏を料理したが、子が肉を一切れ食べてしまった。
ユダヤ人は怒り、子を殺そうとしたので、子は逃げるため旅に出た。
子はユダヤ人に追いつかれるが、雌鶏の肉の魔力で怪力になっており、ユダヤ人を返り討ちにして殺した。
子は旅を続け、ある王宮に着いた。
その王宮では、姫とレスリングをして勝てば姫と結婚できるが、負ければ死刑になるということであった。
子は姫に挑戦するが、姫も怪力で勝負はつかず、翌日再試合となった。
御典医たちは子を麻酔で眠らせて体の秘密を調べ、胃を切り開き胃の中から雌鶏の肉片を取り出し、切り口を元に戻した。
子は怪力を失い、再試合をせずに王宮を逃げ出した。
するとあるところで、3人の少年が絨毯を取り合っていた。
それは魔法の絨毯で、中央を棒で叩くと空を飛び、どこでも行けるというものであった。
子は少年たちを仲裁し、子が投げる石を最初に拾ってきた者が絨毯を取るとして争いをやめさせ、石を投げたが、少年たちが石を拾いに行っている間に絨毯に乗って飛び去り、姫の王宮に戻った。
子は再び姫にレスリングを挑み、絨毯の上で試合を始め、姫が絨毯の上に乗ると、絨毯を飛ばし、遥か離れたカーフ山の山頂で絨毯を下した。
姫は王宮を離れたことを悲しみ、子に負けを認めるが、子のすきを見て絨毯から子をはじき出し、絨毯を飛ばして一人王宮に帰った。
山頂に一人置き去りにされた子は、なんとか山を下りると、ナツメヤシの木を見つけた。
黄色い実を食べると頭から蔓が伸び、木に絡みつき動けなくなってしまった。
赤い実を食べると蔓は取れた。
子は実を集めて、姫の王宮まで旅をし、ナツメヤシ売りに変装して、姫の御殿の近くで売り口上を述べた。
姫は侍女にナツメヤシの実を買いに行かせ、子は黄色い実を売った。
姫が実を食べると、頭から蔓が伸び姫が動けなくなってしまった。
王様は、姫を助けた者は姫と結婚できるとし、子は赤い実を食べさせ姫を助け、姫と結婚し、幸せに暮らした。
【第九の警察隊長の語った物語】
第九の警察隊長ジュラル・アル・ディーンは次のように語った。
昔、ある若い夫婦がいたが、子が授からなかったので「たとえ亜麻の匂いで死ぬような子でも良いから子が欲しい」と祈ったところ、女の子が生まれ、シットゥカーンと名付けた。
シットゥカーンが10歳のとき、王子がシットゥカーンに一目ぼれし、ある老婆に手引きを頼んだ。
老婆はシットゥカーンに亜麻の紡ぎ方を習うように説得し、シットゥカーンは従ったが、亜麻の切れ端が指に刺さってシットゥカーンは死んでしまった。
老婆は両親に亭を建ててシットゥカーンを安置するように説得した。
実はシットゥカーンは死んでおらず、王子が刺さった亜麻を抜くと息を吹き返し、その後、二人は毎日亭で逢引した。
しかし、大臣が王子を諌めたので、王子は会いに来なくなってしまった。
シットゥカーンは悲しみ、さまよっているとスライマーンの指輪を見つけた。
指輪を擦り、大きな宮殿と、もっと美しい顔に変わることを願うと、それは現実になった。
王子は宮殿の出現に驚き、そこに住む別の顔になったシットゥカーンに一目ぼれしてしまった。
王子は贈り物をして気を引こうとするが相手にされず、シットゥカーンから「結婚したいのなら、死んだと偽って自分の葬儀をし、例の亭に安置されるように」と言われた。
王子は従い、死んだものとして亭に安置され、そこでシットゥカーンとともに邪魔されずに幸せに暮らした。
【第十の警察隊長の語った物語】
第十の警察隊長ヘラル・アル・ディーンは次のように語った。
昔、ある国にムハンマドという王子がいたが、年頃になり、結婚相手を探すために旅に出た。
王子は韮を作っている農家の娘と出会い、気に入り、結婚を申し込むが、娘は「手に職のない男とは結婚しない」と言って結婚を承諾しなかった。
それを聞いた父王は、都の職人を集め、最も短時間で手に職をつけられる職業を聞いたところ、機織りの職人の長が「一時間で一人前にできる」と言ったので、王子を任せた。
機織りの職人の長は、王子に機織りを教え、王子は一時間で立派な機織りになった。
王子が再度韮作りの娘に求婚すると、娘は承諾し、みな幸せに暮らした。
【第十一の警察隊長の語った物語】
第十一の警察隊長サラー・アル・ディーンは次のように語った。
昔、ある帝王(スルタン)の妻が王子を産んだ時に、王宮の厩の牝馬が仔馬を産んだので、帝王はその馬を王子の物とした。
何年かして、王子の母親が亡くなり、帝王は後妻を娶ったが、その後妻にはユダヤ人医師の情夫がいた。
後妻は王子を疎ましく思い、食事に毒を入れるが、王子の馬が言葉をしゃべり、王子に毒のことを教えたので、王子は難を逃れた。
後妻は今度は馬を殺そうと、病気のふりをし、ユダヤ人医師が王様に「後妻の病気を治すには王子の馬の心臓から作る薬が必要」と申し上げたが、王子は馬に乗って逃げて行った。
王子はある国の水車小屋で働くが、その国の末の王女の目に留まった。
その国の7人の王女たちは、婿選びをすることになり、国中の若い男たちが宮殿の窓の下を通り、王女たちは夫を選んで行き、末の娘は水車小屋で働く王子を選んだ。
しかし、その国の王は、末の王女の相手のみすぼらしさに落胆し、病気になってしまった。
御典医は「処女の熊の皮の袋に入れた熊の乳を飲めば治る」と言い、王女の夫たちは探すが、見つけることができず、ただ末の王女の相手である王子だけが馬の助けを借りて見つけ、王の病気は治り、王は王子を見直した。
その後、王子は王の軍を借り、自分の国に帰ると、父王は既に亡く、後妻とユダヤ人医師の治世となっていたが、これを攻め滅ぼし、国を回復し、みな幸せに暮らした。
【第十二の警察隊長の語った物語】
第十二の警察隊長ナスル・アル・ディーンは次のように語った。
昔、ある王は子がないのを悩んでいたが、ある日マグリブ人が現れ、子が生まれる魔法の飴を出し、生まれてくる長男を渡すと約束するなら飴を渡すと言うと、王は承諾し、王が緑、王妃が赤の飴を舐めると、ほどなく子が生まれ、長男はムハンマド、二男はアリ、三男はマハムードと名付けられた。
長男のムハンマドは聡明な子であったが、アリとマハムードは暗愚であった。
10年後、そのマグリブ人が長男をもらいに来たが、王は聡明なムハンマドではなく、暗愚なアリを渡した。
マグリブ人はアリを連れて半日歩き、アリに空腹かと聞くと、「半日あるいて空腹でないはずがないだろう」と答えたので、マグリブ人はアリを聡明でないと思い、王の元に連れて帰り、本当の長男を要求し、王はムハンマドを渡した。
マグリブ人はムハンマドを連れて半日歩き、空腹かと聞くと、「あなたが空腹なら私も空腹です。」と答えたので、マグリブ人は満足し、旅を続け屋敷に帰った。
マグリブ人は実は拝火教徒で、ムハンマドに1冊の魔法書を渡し30日で暗記するように言ったが、ムハンマドはその言語が分からず読むことすらできなかった。
29日目に困って屋敷の庭にいると、木に自分の髪で吊り下げられている少女を見つけた。
それはマグリブ人に捕えられたある国の王女で、ムハンマドは王女の髪を解き助けた。
王女は魔法書の読み方をムハンマドに教えたが、「マグリブ人には暗記できなかったと答えるように」と言い、再び髪で木に吊り下げるよう言った。
30日目ムハンマドが暗記できなかったと言うとマグリブ人は怒り、ムハンマドの右手を切り落とし、もう30日で暗記するよう言った。
ムハンマドは再び王女と会うと、王女は魔法で右手を直し、魔法でラクダを2頭出して、「国に帰ったら、求婚しに訪ねてくるように」と言って、それぞれラクダに乗ってそれぞれの国に帰った。
ムハンマドは国に帰り、王と再会した。
ムハンマドは、宦官にラクダの手綱は売らないように言ったが、宦官はラクダとともに手綱を売り、買った商人の元から魔法のラクダは消えたが手綱は残った。
商人は驚いたが、そこに例のマグリブ人が来て、手綱を高額で買い取った。
マグリブ人が魔法の手綱を使うと、ムハンマドはラクダになり、手綱につながれてしまった。
マグリブ人はムハンマドのラクダに乗り、王女の国まで旅をしたが、王女の国に着くと、ムハンマドは手綱を食いちぎり逃げ出し、王宮の柘榴の木の実に変身した。
マグリブ人はムハンマドを捕まえるため、その国の王に会い柘榴を求めるが、柘榴を取ろうとした瞬間、変身を解いたムハンマドに刺殺された。
ムハンマドは王女と結婚し、幸せに暮らした。
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次回は、海の薔薇とシナの乙女の物語です。