人類の歴史に大きな影響を齎した本で、古代から現代までの知の饗宴を楽しみましょ その9

”古代から現代までの知の饗宴。
 孔子、プラトンからアインシュタイン、ケインズまで、人類の歴史に大きな影響をもたらした世界の名著100冊を、縦横無尽に論じた驚嘆のブックガイド。”
といううたい文句を冠に沿えた、「人類の歴史に大きな影響を与えた」という観点でマーティン・セイモア・スミスが選んだ人文学の入門ガイド本『世界を変えた100冊』。
4764105292
ここでは、マーティン・セイモア・スミスが選んだそれぞれの本について触れてみたいと思います。
今回は、その第九弾。

81 Pragmatism – William James 1907
ウィリアム ジェイムズ著、プラグマティズム

プラグマティズム(実利主義)は、もっともアメリカ的なものの考え方であり、今日のアメリカ資本主義社会とその文化を築き上げてきた基調である。
本書は、このような考え方を初めて体系づけ、ヨーロッパの伝統的な思考方法を打破した点で不朽の功績をもつ。
第1講では哲学における現代の袋路、第2講プラグマティズムとは何か、第3講プラグマティズム的、に考察されたいくつかの形而上学的問題、第4講一者と多者、第5講プラグマティズムと常識、第6講プラグマティズム的真理観、第7講プラグマティズムとヒューマニズム、第8講プラグマティズムと宗教、以上から構成されている。
アメリカ的なものの見かたの核心は、じつにこの一冊に圧縮されている。
4861825016

81+ Elie Metchnikoff 1915
エリ・メチ二コフ著、近代医学の建設者

パストゥール,コッホにならぶ細菌学の貢献者の一人で、喰細胞説によってノーベル賞を受けた免疫学者メチニコフが、死の前年に近代医学の発展と医学者達の思出を語ったもの。
今日この分野はめざましい学問的進歩をとげているが、著者が示した医学の基本思想や学問研究の態度についての教えは瑞々しさを失っていない。
4003391713

82 Relativity The Special and General Theory – Albert Einstein 1920
アルバート・アインシュタイン著、相対性理論

物理法則はどの慣性系でも同一であるという『相対性原理』そのものは、アンリ・ポアンカレやジョゼフ・ラーモア、ヘンドリック・ローレンツなどによってその可能性が直観的なアイデアとして示されていたが、アインシュタインは『光速度不変の原理』と『特殊相対性原理』を指導原理の前提として導入することで、論文『運動物体の電気力学(1905年)』において特殊相対性理論(special relativity theory)を証明した。
『光速度不変の原理』というのは、真空中の光の速さは、光源の運動状態に影響されない一定値cを示すというものである。
『特殊相対性原理』というのは、お互いに等速度で運動しているすべての慣性系において、すべての物理法則は同一であり特別な法則は成り立たないというものである。
特殊相対性理論における『特殊』というのは、等速直線運動をする慣性の法則が成り立つ『慣性系』での運動のみを取り扱っているからである。
4003393414

83 The Mind and Society – Vilfredo Pareto 1917
ヴィルフレド・パレート著、一般社会学大綱

それまでの経済学における研究業績を応用し、実証主義的方法論に基づいて社会の分析を行っていった。もともと自然科学を出発点として経済学・社会学の分野へと進んだパレートは、実験と観察によって全体社会のしくみ、および変化の法則を解明しようとした。
特に、経済学における一般均衡の概念を社会学に応用し、全体社会は性質の異なるエリート集団が交互に支配者として入れ替わる循環構造を持っているとする「エリートの周流」という概念を提起したことで知られている。そしてパレートは、2種類のエリートが統治者・支配者として交代し続けるという循環史観(歴史は同じような事象を繰り返すという考え方)に基づいて、19世紀から20世紀初頭のヨーロッパで影響力を持っていた社会進化論やマルクス主義の史的唯物論(唯物史観)を批判した。
さらに、人間の行為を論理的行為(理性的行為)と非論理的行為(非理性的行為)に分類し、経済学における分析対象を人間の論理的行為に置いたのに対し、社会学の主要な分析対象は非論理的行為にあると考えた。つまり現実の人間は、感情・欲求などの心理的誘因にしたがって行動する非論理的傾向が強く、しかも人間の非論理性が社会の構造を規定しているとみなしたのである。このような行為論は、その後アメリカの社会学者タルコット・パーソンズの社会システム論に影響を与えることになった。
パレートは、初期の総合社会学にはない新しい視点に立ち、独自の社会学理論を構築したところから、マックス・ヴェーバーやエミール・デュルケームと並ぶ重要な社会学者の1人として位置づけられている。
4250870448

84 Psychological Types – Carl Gustav Jung 1921
カール・グスタフ・ユング著、心理学的類型

内向型・外向型といった人間の類型を提示し、それを文学作品や歴史上の人物たちの中に探る。
ユングはS.フロイトとアードラーの学説の差に注目し、同一の事象が二人にとって異なった理論により説明されるのは、二人の基本的態度が異なるからであると考え、内向introversion―外向extraversionという概念をたてた。
分析心理学以外の分野にも寄与する書。
4121601319

84+ Causality and Complementarity – Niels Henrik David Bohr 1933
ニールス・ボーア著、因果性と相補性

原子構造の解明から量子力学の形成と発展、原子核研究の開拓、核分裂の理論的解明と、20世紀の物理学をリードしてきたニールス・ボーアによる、量子力学の基礎づけと解釈をめぐる論文集。
ボーアの理論は、アインシュタインとの論争や多くの物理学者たちとの議論のなかで形づくられ、練りあげられていった。
4003394011

84+ Conditioned Reflexes – Pavlov, I.P. 1927
イワン・パブロフ著、条件反射

条件反射(あるいは条件反応)とは、動物において、訓練や経験によって後天的に獲得される反射行動のこと。
ソ連の生理学者イワン・パブロフによって発見され、パブロフの犬の実験で有名になった。
パブロフの犬のような唾液分泌の条件付けは、長い間、哺乳類などの高等生物にのみ起こる、と考えられていたが、条件付けのモデル生物としての意味ではアメフラシなどにも起こる。
B000064R34

84+ Course of Theoretical Physics – L.D. Landau, E.M. Lifshitz 1932-37
ランダウ、リフシッツ、等著、理論物理学教程

『ランダウ=リフシッツの理論物理学教程』とも呼ばれ、レフ・ランダウ、エフゲニー・リフシッツおよびレフ・ピタエフスキー(ロシア語版)らによる物理学の教科書。
力学(第3版)
場の古典論(第6版)
量子力学(第3版)
量子電気力学(第2版)
統計物理学(第3版)
流体力学(第3版)
弾性理論(第4版)
媒質中の電気力学(第2版)
量子統計物理学
物理学的運動学
4489011601

84+ The Foundations of Geometry – David Hilbert 1930
ダーヴィッド・ヒルベルト著、幾何学基礎論

20世紀の数学はヒルベルトを抜きにしては語れない、と言われるドイツ数学界の巨峰37歳の処女作。
ユークリッド幾何学の全公理を結合・順序・合同・平行・連続の5種の公理群にまとめ、相互の独立性を完全に証明した。
公理論的方法が成功を収めた典型例であり、数学全般の公理化への出発点となった記念碑的著作。
またユークリッド「原論」同様、影響は数学にとどまらなかった。
4480089535

84+The Protestant Ethic and the Spirit of Capitalism – Max Weber 1930
マックス・ヴェーバー著、プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

プロテスタントの世俗内禁欲が資本主義の「精神」に適合性を持っていたという、逆説的な論理を提出し、近代資本主義の成立を論じた論文。
営利の追求を敵視するピューリタニズムの経済倫理が実は近代資本主義の生誕に大きく貢献したのだという歴史の逆説を究明した画期的な論考。

85 I and Thou – Martin Buber 1923
マルティン・ブーバー著、我と汝・対話

世界は人間のとる態度によって〈われ‐なんじ〉〈われ‐それ〉の二つとなる。
現代文明の危機は後者の途方もない支配の結果であって、〈われ〉と〈なんじ〉の全人格的な呼びかけと出会いを通じて人間の全き回復が可能となる。
対話的思惟の重要性を通じて人間の在り方を根元的に問うた主著。
4622078546

86 The Trial – Franz Kafka 1927
フランツ・カフカ著、審判

理由の分からないまま裁判を起こされた男ヨーゼフ・Kが、様々な立ち回りもむなしく無残に処刑されるまでを描いている。
生前は発表されず、死後1927年にマックス・ブロートによって編集・公刊された(ただし作中の一挿話のみ、生前に「掟の門前」のタイトルで独立して発表されている)。
結末部分が書かれているものの、途中の章は断片に留まっており全体としては未完の作品である。
400324382X

87 The Logic of Scientific Discovery, Karl Popper 1935
カール・ライムント・ポパー著、科学的発見の論理

ポパーの独創的で透徹した思考の深さは、その驚嘆すべき視野の広さ、現実的問題への豊かな関心と緊密に結びついている。
ポパーの基本姿勢である宇宙論を基礎とした科学的方法論の原理を、残らず記述した本書は現代哲学の古典的名著。
4769902549

88 The General Theory of Employment, Interest and Money – John Maynard Keynes 1936
ジョン・メイナード・ケインズ著、雇用、利子、お金の一般理論

経済学の歴史に「ケインズ革命」と呼ばれる一大転機を画した書。
新古典派理論の特殊性と決別し、それに代わる包括的な「一般理論」を打ち立てた。
資本主義の抱える大量失業と不安定な経済循環への処方箋として、雇用と有効需要、利子率と流動性とを組み合わせた独自の体系を構想。
ケインズは自らも通暁する古典派経済学の誤謬と限界を徹底的に見据え、ついに現代経済学の基礎となる本書に至った。
現実世界に直面し理論をラディカルに(皮肉とユーモアも効かせて)更新する、科学という営みの理想形。
現代経済学の出発点にして、今なお必読の古典。
4062921006

88+ Mati re et Lumi re – Louis de Broglie 1938
ルイ・ドゥ・ブロイ著、物質と光

今世紀における物理学の発展は目ざましいが、一般の人にとってその理解は容易ではない。
本書はヨーロッパの思想的伝統を背景にふまえ、ほとんど数式を用いずに量子論、派動力学等の発展を跡づけ、その核心を専門外の人々に解説しようと試みたものである。
4003392612

89 Being and Nothingness – Jean-Paul Sartre 1943
ジャン=ポール サルトル著、存在と無(現象学的存在論の試み)

人間の意識の在り方(実存)を精緻に分析し、存在と無の弁証法を問い究めた、サルトルの哲学的主著。
根源的な選択を見出すための実存的精神分析、人間の絶対的自由の提唱など、世界に与えた影響は計り知れない。
フッサールの現象学的方法とハイデッガーの現存在分析のアプローチに依りながら、ヘーゲルの「即自」と「対自」を、事物の存在と意識の存在と解釈し、実存を捉える。
20世紀フランス哲学の古典として、また、さまざまな現代思想の源流とも位置づけられる不朽の名著。
440903040X

90 The Road to Serfdom – Friedrich von Hayek 1944
フリードリヒ・ハイエク著、隷属への道

本書は第一次大戦、第二次大戦、その間の大恐慌を契機にファシズム、社会主義がゆっくりと確実に浸透していくさまを、克明に分析した古典的名著。
「ケインズとハイエク」、「大きな政府と小さな政府」といった昨今よく聞く対立軸は本書を契機に生まれたといってよい。
そうしたステレオタイプから、イデオロギー的対立から、本書は読まずに批判、中傷、誤解されつづけてきましたが、現在ではその思想は正鵠を射たものとして、評価されている。
4488013031

90+ What is life – Erwin Schrodinger – 1944
エルヴィン・シュレディンガー著、生命とは何か

量子力学を創造し、原子物理学の基礎をつくった著者が追究した生命の本質―分子生物学の生みの親となった20世紀の名著。
生物の現象ことに遺伝のしくみと染色体行動における物質の構造と法則を物理学と化学で説明し、生物におけるその意義を究明する。
負のエントロピー論など今も熱い議論の渦中にある科学者の本懐を示す古典。
4003394615