【千夜一夜物語】(3) 荷かつぎ人足と乙女たちとの物語(第9夜 – 第18夜)

前回、”【千夜一夜物語】(2) 漁師と鬼神との物語(第3夜 – 第9夜)”からの続きです。

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バグダードのある荷かつぎ人足の所に、美しい乙女ファヒマが来てこれを雇い、市場で買った豪華な料理や菓子を大きな館まで運ばせた。
館には、上の姉ゾバイダと中の姉アミナがおり、荷かつぎ人足は雄弁の才能を気に入られ、客として迎えられ、4人は全裸で戯れた。

すると、3人の托鉢僧(カランダール)が訪ねて来て、さらに、商人に変装した教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシード、大臣ジャアファル・アル・バルマキー、御佩刀持ちマスルールの3人組が訪ねて来た。
全員が「汝に関わりなき事を語るなかれ、しからずんば汝は好まざることを聞くならん」と誓うと、客として迎えられる。
食事が済むと、上の姉ゾバイダは2匹の牝犬をムチで打ちはじめた。
次に、中の姉アミナは琵琶を弾き詩を歌い、感極まって服を破ってしまうが、体にムチの痕があるのが見えた。
客たちは、不思議に思い、誓いにもかかわらず、姉妹に質問してしまった。
すると7人の黒人剣士が現れ、客を全員縛ってしまった。
そこで、客たちが身の上話をすることになり、「第一の托鉢僧の話」「第二の托鉢僧の話」「第三の托鉢僧の話」が語られた。
乙女たちは話に感動し、客全員を許し解放した。

翌日、宮殿に帰った教王は、3人の乙女と3人の托鉢僧を呼び出し、乙女たちに話をさせ、「第一の乙女ゾバイダの話」と「第二の乙女アミナの話」が語られた。
教王は、女鬼神を呼び出し2匹の牝犬を2人の乙女に戻し、ゾバイダとこの2人の乙女を3人の托鉢僧と結婚させた。
中の姉アミナは教王の息子アル・アミーンと結婚させ、末の妹ファヒマは教王自身と結婚させた。
荷かつぎ人足は侍従長に任命した。
彼らは、教王の庇護の下、幸せに暮らした。

【第一の托鉢僧の話】

私はある国の王の息子で、父王の弟は別の国の王で、私はその国に遊びに来ていた。
ある夜、弟王の王子に頼まれて、王子とある女と3人で墓場まで行き、王子と女が地下階段を下りたら、階段に蓋をして分からないように土で埋め、そのことを秘密にするように言われ、その通りにした。
しかし、私は秘密を守ることが負担になり、自分の国に帰ろうとした。

ところが、自分の国では大臣が反乱を起こして父王を殺しており、私は捕らえられてしまった。
以前、私は大臣の目を誤って矢で潰しており、その復讐として大臣に左目を潰され、さらに処刑されることとなった。
しかし、父王の恩を知る者により逃がしてもらった。

私は、弟王の都に行き、弟王に全てを話した。
弟王は、地下階段を見つけ、下りていくが、王子といっしょにいた女は実は王子の妹であり、近親婚が許されないため地下に食料を蓄えそこで暮らそうとしたものであったが、地下の寝台で神の怒りに触れて抱き合ったまま炭になっている2人を発見した。

そのとき、自分の国の大臣の軍が弟王の国に攻めてきて、これを滅ぼした。
私は托鉢僧(カランダール)となり、バグダードに逃げることとなった。

【第二の托鉢僧の話】

私はある国の王子であったが、インドへ向う旅の途中、盗賊に襲われ、一人見知らぬ町に逃げ延びた。
国に帰ることができず、木こりとして生活するが、ある日、森で斧が地中に埋もれた銅の輪にひっかかり、それを掘り上げると、地中に繋がる階段が現れた。
それを下りると、豪華な広間に通じ、寝台に美しい乙女がいた。
乙女はインドの黒檀島の王アクナモスの王女で、12歳の時、結婚式の前夜、魔王の息子ラジモスの息子ジオルジロスにさらわれて、以来20年間ここに監禁されて、10日に1晩、鬼神ジオルジロスの相手をさせられていた。
私は鬼神の不在を良いことに王女と交わるが、結局鬼神に見つかってしまい、王女は折檻の末殺され、私は猿にされて、ある山の頂に捨てられた。

猿になった私は、山の頂から転げ落ち、海岸に着き、通りがかった船の船長に拾われた。
船がある港に入ったところ、猿になった私は紙に見事な筆跡で詩を書いたので、港の王は驚き、王は船長から猿になった私を買い取り、宮殿で飼うことにした。
宮殿では姫君が私の正体を見破り、私を元の姿に戻そうと、鬼神ジオルジロスと激しい魔法の戦いを始めた。
戦いで火と火がぶつかり合い、鬼神ジオルジロスと姫君は焼け死に、王は顔の下半分を焼かれ、私は左目を焼かれて失うが、人間の姿に戻ることができた。

姫君を失った悲しみに、王は私に去るように言い、私は托鉢僧(カランダール)になって、バグダードに来た。

【第三の托鉢僧の話】

私はある国の王子であり、父王カシブの死後、王となった。
あるとき領地を巡る船の旅に出たが、嵐で進路を失い「磁石の島」に船は引き寄せられ分解し、私は「磁石の島」に打ち上げられた。
すると声が聞こえ、
「足元を掘ると弓と3本の矢が見つかるので、それで島の頂上にいる銅の馬に乗る銅の騎士を撃て。すると銅の騎士は海中に落ちるので、弓と矢を足元に埋めよ。
 島は沈むが、銅の男を乗せた船が通りかかるので、その船に乗り10日の旅の後、救いの海に至る
 。しかしアラーの名を唱えてはならない。」
と告げられた。
私はその通りに行動したが、10日目に思わずアラーに感謝の言葉を捧げてしまい、その瞬間銅の男は私を海に投げ捨てた。

私はある無人島に漂着した。
私が見ていると、船が来て、土を掘って地中に埋めた階段を開き、食料と美しい少年をその中に残し、階段を再度埋めて、船は去っていった。
私は、土を掘り返し、階段を降りたところ、少年は豪商の息子で、占い師から「磁石の島が沈んで40日後に、カシブの息子に殺される」というお告げを聞たので、ここに隠れに来たと話してくれた。
私は少年といっしょに地下で暮らしたが、予言の日、私の持った包丁が少年の胸に刺さり、少年は死んでしまう。
そこへ少年を迎える豪商の船が来たので、私は隠れた。

海を見ると、引き潮で島と陸が繋がっているのが見えたので、私はそこを渡って陸に逃げた。
陸には巨大な真鍮の宮殿があり、そこに左目の潰れた10人の奇妙な若者と一人の老人がいて、老人に左目の理由を聞くと「羊の皮をかぶり露台にいると、ロクという巨鳥が羊と間違えさらって遠い山の上まで連れて行くので、そこで逃げ出し、歩いて黄金の宮殿まで行けば分かる」と言われた。
言われたとおりにして黄金の宮殿に入ると、美しい40人の乙女たちがいて、非常な歓待を受け、40人と順番に夜を共にした。
ある日、40人の乙女は「40日間宮殿を離れるが、庭の奥の銅の扉だけは開けてはならない」と言い、私だけを残し出かけてしまった。
私は40日目に銅の扉を開けてしまうが、中に馬がいて、それにまたがると馬は空を飛び、真鍮の宮殿まで来て、私を落馬させ、そのはずみで私の左目が潰れてしまった。

私は、10人の奇妙な若者と一人の老人と別れ、托鉢僧(カランダール)となり、バグダードまで来た。

【第一の乙女ゾバイダの話】

私には、同じ父母から生まれた2人の姉と、父は同じだが母が異なる妹アミナとファヒマがいた。
父が死んだとき、財産を姉妹で分け、私は姉2人といっしょに暮らしたが、姉2人はそれぞれ結婚し、商売の旅に出、夫が破産し離婚されて帰って来た。
私は、姉2人を養ったが、1年後再び姉2人はそれぞれ結婚し、商売の旅に出、夫に捨てられて帰って来た。
再度、私は姉2人を助け養うが、1年後、今度は3人で船旅に出た。

船は進路を失うが、住民がみな石になっている町にたどり着いた。
私は宮殿の奥に入り込み、生きている若者を発見し尋ねると、若者は「この町の者は皆、ナルドゥンの神の信者であったが、アラーの神の怒りに触れ、全員石にされたが、イスラム信者である王子の私だけが助かった」と話した。
私と若者は、バグダードに帰り結婚することを約束した。
しかし、姉2人は嫉妬し、帰りの船から若者と私を海に投げ捨て、若者は水死した。

私は、ある島に打ち上げられた。
ふと見ると、アオダイショウがマムシに追いかけられていたので、石をマムシに投げてマムシを殺した。
アオダイショウは実は女鬼神で、女鬼神は助けてくれたお礼に、私を船の宝といっしょにバグダードまで連れて行き、姉2人を牝犬に変え、毎日この2匹の牝犬を300回ずつムチでたたくように言って去った。

【第二の乙女アミナの話】

私は、父が死んだ後、裕福な老人と結婚したが、すぐ夫は死に、多額の遺産を相続した。

ある日、私のところに醜い老婆が来て「家で結婚式があるので、賓客として来て欲しい」と言うので行ったところ、非常に大きな館で、結婚式はなかった。
それは、以前私を見て好きになった館の主である美しい若者と、私を会わせるために、若者の乳母の老婆がしくんだウソだった。
私は若者を見て好きになり、私は「他の男には心を傾けない」と誓い結婚した。

ある日、醜い老婆をつれて市場の絹織物商人の店に行き、最も高価な商品を買おうとしたところ、商人が「金は受け取れない。かわりに頬にキスをさせてくれ」と言ってきたので、断った。
しかし、醜い老婆が「キスをさせた方が良い」と説得するので、キスをさせたところ、頬に歯で傷をつけられた。
家に帰り、夫に見つけられ、誓いを破ったとして殺されそうになったが、醜い老婆のとりなしで命は助かり、裸にされ一生消えない傷がつくようムチで打たれ、館から追い出された。
その後、若者も館も消えてしまった。

後に、教王ハールーン・アル・ラシードが呼び出した女鬼神により、美しい若者は教王の息子アル・アミーンであることが分かった。

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次回は、斬られた女と三つの林檎と黒人リハンとの物語です。

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