【千夜一夜物語】(52) 「真珠華」の物語(第814夜 – 第819夜)

前回、”ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語”からの続きです。

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昔、アッバース朝の第16代教王(カリーファ)で、第5代教王ハールーン・アル・ラシードの孫の第10代教王アル・ムタワッキルの更に孫のアル・ムータディド・ビルラー教王が、物語師アフマード・イブン・ハムドゥンとバグダードの町を散歩していると、美しい前庭を持った館を見つけた。
二人は旅の商人と偽って、館の主に会うと、主は快く2人を夕食に招いた。
館の内部は実にすばらしく、美しい歌姫、舞姫たちが舞い踊り、豪華な料理が振舞われた。
しかし、教王は突然館の主に「家具や主の服にアル・ムタワッキル教王の印がついているのはどういう理由か」と怒りを露わにして問い正した。
館の主アブール・ハサン・アリ・ベン・アフマード・アル・ホラーサーニは次のように答えた。

アブール・ハサンはバグダードの豪商の一人息子として生まれ、若くして父が死んだ後も手堅く商売を続けた。
ある日、アブール・ハサンの店に美しい14歳ほどの乙女が来て300ディナールを渡して欲しいと言った。
アブール・ハサンは一目惚れし、300ディナールを渡してしまった。
アブール・ハサンは理性を失った行動を後悔したが、翌日同じ時刻に再びその乙女が来て、今度は500ディナール渡すように言うと、言われるがままに渡してしまった。
その翌日今後はその乙女が宝石を渡すように言うと、アブール・ハサンは言われるがままに渡した。
アブール・ハサンが乙女の後を付けると、乙女は教王アル・ムタワッキルの宮殿に消えた。

アブール・ハサンは困惑し、父の代からの番頭に相談すると、宮殿に出入りしている仕立屋を紹介してくれた。
アブール・ハサンが仕立屋の店に行き金を渡し相談すると、その乙女は教王の琵琶弾き「真珠華」に違いないことが分かった。
ちょうどその時「真珠華」の召使の少年宦官が仕立屋の店に来て、「真珠華」もアブール・ハサンのことを愛していることを伝え、後宮に忍び込む手引きをしてくれた。

アブール・ハサンは教王の服を着て後宮を進み「真珠華」の部屋の手前まで来たが、突然教王の行列が見え、アブール・ハサンは後宮を逃げ回り、自分がどこにいるのか分からなくなってしまい、ある部屋の中に入り込んだ。
そこは「真珠華」の姉の「アーモンドの練粉」の部屋であった。
「アーモンドの練粉」はアブール・ハサンを匿い、「真珠華」を部屋に呼んだ。
アブール・ハサンと「真珠華」は再会を喜んだが、その直後教王が「アーモンドの練粉」の部屋に来たため、アブール・ハサンは衣裳箱の中に隠れた。

教王は、「真珠華」が部屋にいたことを喜び、歌を所望すると「真珠華」は見事に歌った。
教王は褒美として何でも与えると言ったので、「真珠華」が自由を願うと願いは許された。
「真珠華」は自分の部屋の家具や服、そしてアブール・ハサンが入っている衣裳箱をかつがせて、後宮を後にした。
これが、この館の家具や服に教王ムタワッキルの印がある理由であった。

教王アル・ムータディド・ビルラーは話を聞き、疑ったことを恥じ、アブール・ハサンの租税を免除し、侍従長に任命した。
アブール・ハサンは教王の庇護のもと幸せに暮らした。

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次回は、帝王マハムードの二つの世界です。

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