【千夜一夜物語】(23) 智恵の花園と粋の庭(第373夜 – 第393夜)

前回、”地下の姫ヤムリカ女王の物語”からの続きです。

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【アル・ラシードとおなら】

アル・ラシードはバスラへ続く街道へ散歩に出る。
老人が歩いているので事情を聞かせると、眼病の薬を求めてバグダードへ向かっているという。
ジャアファルがでまかせの処方を教えると、老人は返礼とともにくさい屁をこき、しわだらけの女を贈ると約して立ち去った。
アル・ラシードらは笑い転げた。

【若者とその先生】

ヤマーンの大臣バドレディンの弟は美しすぎるため、人目から離して家庭教師をつけることにした。
しかし教師の老人も弟にまいってしまい、兄の目を盗んで逢引きしようとする。
大臣はそれに気づいたが、老人が兄をたたえるみごとな詩を即興でうたったため、見ぬふりをした。

【不思議な袋】

ペルシア人のアリは、袋を万引きしようとしたクルド人をつかまえた。
しかしクルド人は、これは自分のものであると主張する。
法官(カーディー)が袋の中身を問うと、クルド人は千頭の家畜やら何棟の家屋やらありえないことを言う。
対するアリも、何千の軍隊とか何個の国家など、どんどん話がエスカレート。
実際に袋を開いてみると、中にはみかんの皮が数枚と、オリーブの実が若干あるだけだった。
あきれはてている法官をよそに、それはクルド人のものだと言いのこしてアリは立ち去った。

【愛の審判者アル・ラシード】

アル・ラシードはメディナの女とクーファの女の間に寝ていた。
このふたりはどちらも甲乙つけがたく、アル・ラシードの体をどちらが勝ち取るかは、そのときどきの手管によるのである。
その夜、アル・ラシードの一物をもてあそんで元気にさせたメディナの女は「土地はそれを蘇らせた者のもの」という文句を引用する。
対してクーファの女は「獲物は追う者ではなく狩った者のもの」という言葉を引用する。
アル・ラシードは機知をよろこび、ふたりとも愛した。

【いずれを選ぶか?青年か、はたまた壮年か?】

隣家の妻ふたりがなにやら話している。
このふたり、それぞれに愛人がおり、互いに自慢しあっているのだ。
若いほうの妻の愛人は青年で、ひげがなく卵のような顔をしている。
対して年上の妻の愛人はひげもじゃの中年男なのだが、その話を聞いているうちに、もうひとりの妻も毛の濃い男に興味をもってくるのであった。

【胡瓜の値段】

太守モイーン・ベン・ザイダが狩りに出ていると、太守に胡瓜を売りに来たという老人に出会う。
いくらで売るつもりか、だんだん値切って尋ねると、最初は千ディナールと言っていたが、三十ディナールまでになる。
そして三十ディナール以下なら驢馬を宮殿につっこませてやる、と息巻いた。

そしらぬ顔で御殿へもどった太守は、胡瓜売りを引見してどんどん値切り、三十ディナールから、まだ値切った。
ここで老人は太守が道で出会った男だと気づき、驢馬は外につないであるぞ、三十ディナールで買うべし、と言った。
太守は笑い、千ディナールから値切っていった値段をすべて足した価で胡瓜を買った。

【白髪】

アバ・スワイードが果樹園に行くと、美しい顔立をした白髪の女が髪をくしけずっていた。
なぜ髪を染めないのかと聞くと、女はこう答えた。

「以前は染めてみたこともあったが、必要のないことだ。
 やろうと思えばいつでも腰を振ってみせることができるのだから」

【悶着解決】
大臣ジャアファルは最近美しい女奴隷を手に入れていた。
アル・ラシードは、女奴隷を我に売るか贈るかいずれかにせよといい、それがならぬならセット・ゾバイダと離縁するとの誓いを立てる。
ジャアファルもまた譲らず、手放すようなことがあったら自分の妻と離縁するとの誓いを立てた。

合い成り立たぬ誓いを、言ってしまってから気づいたふたりは、あわてて法官アブー・ユースフを呼び出す。
法官は女奴隷を半分売り、半分贈ればよいと判定。
さらに離婚法(女がいったん離婚すると、別の男と結婚し離婚した後でないと復縁できない)についてだが、いったん白人奴隷に結婚させてからすぐに離婚すればよいと結論づける。
白人奴隷は結婚したあとに離婚を拒否したが、法官は白人奴隷の所有権を女奴隷に渡すことでそれを反古にした。

【アブー・ヌワースとセット・ゾバイダの浴み】

アル・ラシードは、宮殿内に泉水を設けて周囲を森でつつみ、セット・ゾバイダの湯浴みのために供していた。
ある夜アル・ラシードが宮中を散策していると、まさにセット・ゾバイダが入浴しているところである。
明るいところでその豊満な肉体を見たことがなかったアル・ラシードは、どぎまぎしてその場を脱けだした。

アル・ラシードはその光景がわすれられず、詩を詠もうとするが、うまい詩句が出てこない。
そこでアブー・ヌワースを呼ぶのだが、湯浴みの現場をすべて見ていたアブー・ヌワースは、みごとにアル・ラシードのイメージどおりの詩句をつむぎだす。
アル・ラシードはよろこび、詩人に多くの褒美を与えた。

【アブー・ヌワースの即詠】

女奴隷と事に及ぼうとしたアル・ラシードだが、今日はダメよと拒否され、明日の約束をして帰る。
しかし次の日、なんとなく体調の悪かった女奴隷は「昼は夜の言葉を消す」との詩句を引用し、また拒否した。

アル・ラシードは、エル・ラカーシ、アブー・モッサーブ、アブー・ヌワースの三人の詩人を呼び、この文句をテーマにして詩をうたわせるが、アブー・ヌワースだけはこの顛末を知っているような詩を唱えるではないか。
アル・ラシードは一部始終を見ていたのだろうと怒ったが、詩人とは人の話を聞いてすべてを知るものだとアブー・ヌワースが主張すると、納得した。

【驢馬】

ある泥棒が正直男の驢馬を盗みだした方法である。
泥棒は、男が引いている驢馬と入れ替わり、男が気づくとこう言った。
自分はかつて放蕩者の人間だった。
ある日泥酔して帰り、母親に手をあげたため、母から呪いをかけられて驢馬の姿になっていたのだ。

男は泥棒を解放してやり、次の日あたらしい驢馬を買いに市場へでかける。
しかしなんと、自分の驢馬が売り物としてつながれているではないか。
男はまた放蕩をおこなったのだろうと驢馬をなじり、驢馬の父母から生まれたであろう、違う驢馬を購入した。

【セット・ゾバイダの現行犯】

アル・ラシードはセット・ゾバイダのベッドにまあたらしい精液があるのを見つけた。
法官アブー・ユースフは機転をきかし、部屋のすみにいたコウモリをたたき落とし、コウモリの精液は人間のものにそっくりなのだと証言する。

そのあと果物がふるまわれ、法官はバナナとめずらしい果物の優劣を問われたが、またも機知をはたらかせ、それに答えることなく両方の果物をいただいた。

【雄か、雌か?】

ペルシア王ホスローは魚がすきで、漁師がみごとな魚を持ってきたので四千ドラクムのほうびを与えた。
后シリーンはそれが高すぎるとし、魚が雄か雌かを問い、雄と答えれば雌がほしかった、雌と答えれば雄がほしかったのだとして金を取り返せという。
しかし漁師は機転のきいた男で、魚は雌雄同体だと答えた。
ホスローはさらに四千ドラクムを漁師に与えるが、その帰りに漁師が銀貨一枚を落として拾ったことをシリーンがみとがめ、貧乏人へほどこすべきものを奪ったのだと糾弾する。
漁師は、銀貨を拾ったのはそれに王の肖像があるからだと答えた。
ホスローはもう四千ドラクムを漁師に与え、国中に「女のいうことを聞くなかれというのは、ひとつの過ちの半分を取り返そうとしてふたつの過ちを犯すからだ」と触れをだした。

【分け前】

アル・ラシードがいつものように不眠に悩んでいると、太刀持ちマスルールが、イブン・アル・カラビーというものはおもしろい洒落を言うのだと紹介する。
その裏でマスルールは、褒美をもらったら礼として三分の二をいただく約束をしていた。
しかし、もしつまらなければ鞭打ちにすると言われたイブン・アル・カラビーは萎縮してしまい、おもしろいことが言えず、足の裏を百回棒打ちされることになった。
打数が三十を越えるとイブン・アル・カラビーはマスルールを指し、褒美の三分の二はマスルールのものだという。
アル・ラシードの合図でマスルールを捕らえて足を打ち始めると、マスルールはすぐに音を上げた。
アル・ラシードは爆笑し、ふたりに千ディナールずつ与えた。

【学校の先生】

ある読み書きのできない男が、学校の先生になろうと思いたった。
というのも、学校の先生というのはただ大学者であるかのようにふるまっていれば成り立つ商売だからだ。
容儀をととのえて学者然として教室を構えると、近所の師弟たちが男の門下に入ってくる。
男は多少読み書きのできる子供が下のものを教える方式をとり、うまくやっていた。

ところがある日、ひとりの文盲の女が、夫からの手紙を読んでくれとやってくる。
男は困って、読めない手紙をさかさまに持ってむずかしい顔をしていると、それを見た女は、手紙はかなり悪い知らせで夫は死んだに違いないと思い、泣き帰った。
しかし女の親戚が手紙を読むと、もうすぐ旅先から帰ってくるという、無事を知らせる便りである。
なぜ夫が死んだと言ったのかと質されると、男は、あわててさかさまに読んだので方向を間違えたのだ、と答えた。

【下着の縫取り文】

教王アル・マアムーンの弟アル・アミーンは、叔父の家で美しい女奴隷に心を奪われる。
気をきかせた叔父は彼に女奴隷を贈るが、叔父の手がついているに違いないと思ったアル・アミーンは、女を送り帰した。
叔父は女奴隷を下着一枚の姿にし、再度アル・アミーンに贈る。
その下着には「我に隠された財宝は何人にも触れられていない。
ただ眼で調べ、見とれられたのみである」と縫い取りがしてあった。
アル・アミーンはありがたく受け取り、かわいがった。

【盃の彫り込み文】

教王アル・ムタワッキルの病気の快癒祝いにたくさんの品物が贈られてきたが、イブン・カーカーンからの贈り物はかわっていて、完璧な乳房をした娘だった。
娘は片手に金の盃を持っていたが、そこには「いかなる薬もこの万能薬にかなうものか」との彫り込み文があった。
それを見た侍医は、笑って同意した。

【籠の中の教王】

モースルの歌手イスハークは、教王アル・マアムーンの宴会の帰り、酔っぱらって立ち小便をしていた。
すると頭上から、クッションをしいた籠がロープにつるされてするすると降りてくる。
試しに籠の中に入ってみるとたくし上げられ、女たちが大勢いる家の中に招かれた。
主人とおぼしき美しい乙女はイスハークを歓待し、彼の持ち歌をすばらしい歌声でうたう。
イスハークは自分を機織り職人と自称し、それが自分の歌だとは言わなかった。
やがて朝になると宴会も果て、ふたたびかごに乗って地上におろされ、イスハークは帰宅する。

次の夜、イスハークは教王の宴会を無視して女の家に向かう。
帰りがけ、本当のことを言わねば教王が許すまいと思ったイスハークは、次はいとこを連れてくると乙女に告げる。
案の定教王は怒っていたが、事情を話すと乗り気になる。
自分の名を言わぬよう打ち合わせ、教王とふたりで女の家で遊んでいたが、教王はついイスハークの名を口に出してしまった。
すると乙女は、顔をかくして奥に隠れる。

正体を明かして調べさせると、乙女は大臣ハサン・ベン・セヘルの娘カディージャだった。
教王は乙女を召し出し、正妻として迎えた。

【臓物の掃除夫】

カアバの聖なる壁に向かい「あの女と寝られますように」と願っていた男が逮捕された。
巡礼長官は縛り首の判決を出すが、男はつぎのように弁解する。

男は羊の臓物を洗って売る仕事をしていたが、ある日未処理のくさい臓物を驢馬に引かせていると、御内室(ハリーム)の一行に出くわし、黒人の宦官につかまって豪華な屋敷に連れ込まれた。
風呂と着替えをあてがわれてこざっぱりとすると、貴婦人があらわれてごちそうを供し、ふたりは朝まで抱き合って過ごした。

それが一週間もつづいたころ、ある若者がその屋敷にあらわれる。
男は階上の部屋に押し込められ、若者と貴婦人が交歓しているのを聞くはめになった。
若者が帰ったあとに貴婦人が言うには、若者は彼女の夫であり、以前夫が皿洗いのみすぼらしい女中と浮気をしたために、その復讐として自分も最低に小汚い男と浮気することにしたのだという。
そして夫が帰ってきたからには、男はもう用済みなのであった。

巡礼長官は、その話を聞くと男を無罪放免した。

【乙女「涼し眼」】

アル・ラシードの息子アブー・イサーは、ヘシャームの子アリの屋敷にいる女奴隷「涼し眼」を気に入り、売ってもらおうとしていろいろ手をうってみたが、うまくいかない。
そこで兄の教王アル・マアムーンと一緒にとつぜん屋敷をたずね、おどかしてやることにした。

アリはふたりを歓迎し、盛大に祝宴を張る。
十人ずつの歌妓が四組、次々とあらわれ、いずれもみごとな歌を披露する。
そして最後に「涼し眼」が出てきて、これもすばらしい歌をうたった。
アブー・イサーは感激し、彼女に対し返歌をおくる。
アブー・イサーの心を知ったアリは、教王が許すなら「涼し眼」を譲ろうと申し出、教王はそれを許した。

【乙女か?青年か?】

バグダードにて「先生の中の女先生」と賞されたセット・ザヒアは、弟とハマーに巡礼に来ていた。
そのころハマーには各地から学識者が集まってきており、セット・ザヒアは彼らとの討論や、質問のやりとりなどを楽しんでいた。

賢者オメル・アル・ホムシは老人エル・サルハーニーとともに、議論を戦わせようとセット・ザヒアを訪ねた。
エル・サルハーニーが美しい弟にみとれたことから、彼が乙女よりも若い男を好むとみてとったセット・ザヒアは、女より男がすぐれていることについて鋭い論陣を張る。
しかし最後には、エキサイトして聴衆の紳士たちにいささか礼儀を失したことを詫びるのであった。

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次回は、奇怪な教王です。

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