前回、”スレイカ姫の物語”からの続きです。
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【頑固な頭の少年と小さな足の妹】
ある村の男は一男一女を設けていたが、亡くなるとき、息子の言うことをかならず聞くようにと遺言した。
ほどなく母親も亡くなったが、枕頭に娘を呼び、兄の言葉にさかわらぬようきつく言いつける。
両親が死ぬと、少年は遺産をあつめて燃やすのだと宣言。
少女はこっそり財産を村の各家へ隠したが、兄はそれを察し、村中を放火して回った。
怒った村人たちに追われた兄妹は、ある農夫に拾われて働くことになる。
しかし兄は農夫の子供たちを叩き殺し、また逃走。
巨鳥ロクの足に取り付いて、食人鬼が君臨する暗黒の国へ降り立った。
兄妹が焚き火をして暖をとっていると、食人鬼があらわれる。
少年はあわてず落ち着いて薪を投げつけると、食人鬼はからだをまっぷたつにして死んでしまう。
すると暗黒に包まれていた島にふたたび太陽がさした。
その地の王様は、食人鬼をたおした少年に娘をめあわせ、少女を妃とした。
【足飾り】
糸紡ぎの三姉妹のうち末の妹はもっとも器量がよく手先も器用で、ふたりの姉は末妹を妬んでいた。
末妹は市場で買った壷を持っており、姉らはそれを馬鹿にしていたが、それは望みのものを何なりと出してくれる魔法の壷だった。
あるとき姉たちが王様の誕生パーティにでかけると、末妹は壷からすばらしい衣装とガラスの足輪を受け取り、自分も会場へ向かう。
そして姉たちが帰る前に戻ろうとした末妹は、あわてて会場に足輪を置き去りにしてしまった。
王子は残された足輪を見て、素晴らしい足の持ち主と結婚したいと熱望。
人をやって探させると、足輪にぴったりの足を持っているのは末娘だけであった。
婚礼は40日にわたって盛大に行われたが、最終日、姉らがやってきて、祝福するふりをして魔法のピンを末娘の頭に刺す。
すると末娘は一羽の雉鳩に変わってしまった。
末娘の姿が消え、王子は嘆き悲しむ。
すると毎夜雉鳩があらわれ、悲しげな声で鳴く。
雉鳩をとらえた王子が頭に刺さっているピンを抜くと、鳩は末娘の姿に変わった。
【王女と牡山羊の物語】
インドの帝王は三人の娘の結婚相手を天運にまかせようと、めいめいハンカチを窓から投げさせて決めることにする。
ふたりの姉のハンカチはそれぞれ高貴な若者へ渡ったが、末姫だけは三度やりなおさせても三度とも牡山羊の上に落ちた。
これも天命と、牡山羊との結婚を受け入れた末姫だったが、じつは牡山羊の皮の下には美しい若者が隠れていたのである。
若者は、自分の秘密を守るよう末姫に約束させた。
しばらくして王宮では、盛大な野試合を開催することになった。
試合では姉姫の婿らが活躍するが、それを上回る成果を上げたのは、牡山羊が姿を変えた若者である。
末姫は自分の夫に愛を示して応援。
それを見咎めた王が詰問すると、あの若者こそ自分の夫であると供述。
その日から若者は姿を消してしまった。
失意の末姫は、あらゆる不幸話を集めて気をまぎらわせようとするが、ある老婆は、牡山羊と人間とに姿を自在に変える若者たちの国へ迷い込んだという話をする。
四十人の若者とその主人らしき若者は、女主人を待って悲嘆にくれているというのだ。
老婆に案内させて地下の国へ入ってみると、はたして主人の若者は彼女の夫であった。
女主人となった末姫は、しばらくのちにふたりして宮殿へ帰った。
【王子と大亀の物語】
ある国の王には長男シャテル・アリー、次男シャテル・フサイン、三男シャテル・ムハンマドという三人の王子がいた。
結婚適齢期に達した三人の王子に妻を探すために王が思いついた方法は、目隠しをした王子たちに宮殿の高い窓から弓で矢を射させ、矢が落ちた家の娘を息子たちの妻とするというものだった。
アリー王子、フサイン王子の射た矢はそれぞれ大貴族の家に落ちたが、ムハンマド王子の射た矢は大きな亀が住んでいる家に落ちた。
再度試みても同じ家に落ち、アッラーの御名を唱えてその恩寵にすがってから三度試みても同じ家に落ちた。
王はムハンマド王子は独身のままでいるべきだという結論を出そうとしたが、ムハンマド王子は「三度とも大亀の家に矢が落ちたからには、私が大亀と結婚することは運命の書に記されている」と主張して、大亀と結婚することを求めた。
王はこの求めを拒むことができず、鼻にもかかわらず(嫌々ながら)大亀との結婚を許可する。
かくしてアリー王子とフサイン王子の婚礼の儀は王族と大貴族の娘の結婚にふさわしく盛大に執り行われるが、ムハンマド王子と大亀の婚礼の儀はごく一般的な平民の結婚程度のみすぼらしいもので、しかも誰も参列しなかった。
王は三人の婚礼のしばらく後、寄る年波に勝てず衰弱してしまう。
王子たちは各々の妻の料理を献上して精をつけてもらおうと語り合い、王子たちの妻は腕に縒りを掛けて料理を作り始める。
ムハンマド王子の妻は兄王子たちの妻に使いを出し、「鶏の糞」「鼠の糞」を料理の香り付けに使うから分けてほしいと頼むが「あんな大亀より私の方がうまく使える」と断られる。
この策謀の結果、兄王子の妻たちは悪臭紛々たる料理を献上して王を激怒させてしまう。
一方、ムハンマド王子の妻は美食の粋を凝らした見事な料理を献上し、王は旺盛な食欲でこれを平らげて元気を回復した。
王の快気祝いの宴が催されることになり、王子たちは妻同伴でこれに出席することとなった。
ムハンマド王子の妻はまたも兄王子たちの妻に使いを出し、宴に出席する乗り物として「暴れ山羊」「駝鳥」を借りたいと頼むが「あんな大亀より私の方がうまく乗れる」と断られる。
この策謀の結果、兄王子の妻たちは暴れる駝鳥と山羊にまたがり、御することもできずに散々な体たらくで王宮にやってくる羽目になった。
一方ムハンマド王子の妻は大亀の甲羅を脱いで美しく着飾り、非の打ち所がない貴婦人の姿で、しとやかに歩いて王宮に入った。
ムハンマド王子の妻が宴席のバター飯と青豆のポタージュの器を自分の頭に向けて傾けたところ、髪の毛に触れたバター飯はおびただしい数の真珠に、ポタージュはおびただしい数のエメラルドに変わって床に落ち、並み居る人々を驚嘆させた。
兄王子たちの妻もこれに張り合って頭にバター飯やポタージュを浴びせかけたが、飯粒まみれ・ポタージュまみれの無様な姿を晒してしまう。
幾度となく失態を重ねたアリー王子・フサイン王子の妻は王の不興を買い、王位継承権を剥奪された夫共々追放された。
以後、唯一の王位継承権者となったムハンマド王子は、かつて大亀の姿をしていた妻(大亀の姿で居る必要がなくなったため、甲羅は燃やしてしまった)と、父王とともに幸福に暮らした。
【エジプトの豆売り娘】
エジプト豆売りに三人の娘がおり、帝王の王子は末娘に懸想していたが、娘たちは王子をからかい通していた。
王子が豆売りを脅して難題を仕掛けてくると、軽く解き明かしてみたばかりか、間髪をいれず逆襲し、魔神の姿をして脅かし気を失った王子に馬糞を食わせ、両眉、方髭、方髪をそり落としてしまい、さんざんに嘲弄する。
思いあまった王子は、豆売りの首をはねると脅して末娘との結婚を承諾させると、姉妹は砂糖菓子で末娘の人形をつくり、寝室に寝かせた。
これまでの侮辱の数々を思い出した王子が剣を抜いて砂糖菓子の頭に一撃を加えると、菓子はこなごなに砕けてそのかけらが王子の口に入る。
思いがけない甘露に後悔を催した王子が腹を切ろうとすると、本物の末娘があらわれる。
彼らはお互いを許すことにし、以後繁栄を極めた。
【解除人】
ダマスの若い商人は、店にあらわれた美しい母娘から結婚をもちかけられた。
婚資も一切の出費も免除し、安楽な暮らしを保証、結婚式もその他諸々もすべて省略し、一刻もはやく結婚しようという。
うまい話だ。
結婚の翌日、仕事を終えて新居に戻った男は、妻がひげのない若い男と同衾しているのを目撃。
反射的に離婚を口走る。
だが、ひげのない少年と見えたのは、若い女であった。
実は妻であった女は、かつて相思相愛の男と結婚していたのだが、喧嘩をしたあげくに男のほうが離縁を宣言してしまったのだ。
イスラム法では、離縁した女は一度結婚して離縁された後でないと、もとの夫と復縁できない。
母娘は、離縁の言葉の解除人を探していたのである。
【警察隊長】
カイロに容貌魁偉なクルド人の警察隊長がいた。
結婚するにあたり、女が引き込む諸々の災いを避けるため、母親のもとから離れたことのない初心な処女を所望する。
条件にあう娘がみつかって結婚するが、妻はさっそく隣家の肉屋の息子を家に引き込むようになった。
ある日早く帰った警察隊長は、家の様子がおかしいことに気づく。
妻はとっさに機転をきかせ、言葉たくみに現在の状況を他人事のように話してみせ、警察隊長に目隠しをしているあいだにまんまと男を逃してしまう。
鈍感なクルド人の男はまったく気づかず、幸福な男として世を送った。
【誰がいちばん寛大か】
バグダードに相思相愛の従兄妹どうしがいたが、家が没落してしまい、娘は長老へ嫁入りすることになった。
長老は新妻が嘆き悲しんでいるのを見て、わけを知ると、愛する男のもとへ帰りなさいと娘を送り出す。
道の途中で盗賊が娘を見つけるが、彼女の身の上と長老の話を聞くと、娘を護衛して従兄のもとへ送り届ける。
従兄妹たちが長老の家を訪ねると、長老は財産をふたりのものとし、自分は別の都へ住むこととし旅立って行った。
【去勢された床屋】
カイロの百人隊長は剛勇の士であらゆる女を満足させる資質を有していたが、その妻はむしろ柔弱な若者がタイプで、愛する男を持っていた。
ある日百人隊長がでかけると、さっそく使いをやって若者を呼び込む。
たまたま床屋にいた若者が一ドラクムをはずんで屋敷にかけつけると、気前のいい上客とみた床屋は、後を追って屋敷の前で若者が出てくるのを待った。
百人隊長が思いがけず早く帰ってみると、床屋が屋敷の前にいて、若い男が中に入って行ったと証言する。
百人隊長は床屋をつれて家探しするが、騒ぎを聞いていた妻が男を雨水桶の中に隠していたため、姿はみつからない。
最後に雨水桶を調べようとすると、妻はたくみに百人隊長を焚きつけて懲らしめるように言い、焼き付けた鉄棒で精管を焼き切って追放した。
若い男は騒ぎがおさまるまで待ち、無事に逃走した。
【ファイルーズとその妻】
家来ファイルーズの妻に懸想した王様は、ファイルーズを使いに出している間に思いをとげようと妻を訪ねるが、妻は王の要求を拒絶した。
いったん旅立ったファイルーズだが、書状を忘れたことに気づいて家に戻ると、王のサンダルが自分の屋敷に落ちているのを見つける。
王のたくらみに気づいた彼は、使いを果たして戻ると、理由をつけて妻を実家へ帰し、あとは口をつぐんで何もいわなかった。
妻の兄が仲裁を王に申し出ると、ファイルーズはたくみな例えで王の行動を示唆する。
そしらぬ顔で聞いていた王も、拒絶されたことをそれと聞こえないように知らせる。
ファイルーズは納得して妻を呼び戻し、この事件は王とファイルーズのほかに知る者はなかった。
【生まれと心】
カイロでひと儲けしようとした欲深なシリア人は、市場で若い三人の女を見てスケベ心をおこし、隊商宿に招いて宴会をひらく。
三人の名前を聞くと、それぞれ「あなたは私のようなものを見たことはないでしょう?」「あなたは私に似た人など見たことがないでしょう!」「私を見てください。そうしたら私が分かるでしょう!」と答えた。
泥酔したシリア人が目覚めてみると、彼の持ち物はことごとく奪われ、丸裸にされている。
あわてて道に出て、女たちから教えられた名前を連呼するが、人々はシリア人を狂人あつかいするばかりであった。
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次回は、不思議な書物の物語です。