【千夜一夜物語】(62) 不思議な書物の物語(第895夜 – 第904夜)

前回、”のどかな青春の団欒”からの続きです。

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寝苦しさで目覚めた教王アル・ラシードは、大臣ジャアファルの勧めにしたがって読書をした。
すると教王は、本を読みながら、笑いながら泣きはじめる。
なぜそのようなことになったかジャアファルがたずねると、教王はいたく怒り、書物の内容を最初から最後まで解き明かせるものを連れてこないかぎり首をはねると言いつけた。
ジャアファルは三日の猶予を取りつけて、賢者を探しにでかけた。
ダマスに至ったジャアファルは、裕福な若者仁者アタフが家の前にテントを張り、美しい乙女に見事な詩を歌わせているところへ通りかかり、歌に耳をかたむける。
若者はジャアファルを誰とも知らずに屋敷へ招き、大いに歓待。
ジャアファルは身分と本名を隠し、教王との約束を気にかけながらも、若者との親友の交わりのうちについつい時を過ごす。

四か月がたち、約束を思い出して鬱々としていたジャアファルは、気晴らしに散歩にでかけ、美しい乙女に恋をする。
恋わずらいに陥ったジャアファルから話を聞き出してみると、恋の相手は、じつはアタフの妻なのであった。
それを知った彼は、妻のもとに行ってただちに離縁を言い渡すと、大臣ジャアファルを名乗って妻に迎えに来たことにしろと策をさずける(アタフはジャアファルが大臣その人であることを知らない)。
ジャアファルはダマスの教王代理の前で結婚契約をおこない、アタフが整えた隊列を連れてバクダードへの帰途についた。

新妻は、アタフとジャアファルが旧知であることを知ると、アタフが身を引いて自分をジャアファルの妻としたことに気づく。
彼女から話を聞いたジャアファルもアタフの行動を知り、以後彼女に護衛をつけて、預かりものとして丁重に扱った。
一時の怒りでジャアファルが出奔したことを後悔していた教王は、彼の帰国を歓迎。
仁者アタフとその妻の話を聞くと、庭園の中に家をたて、彼女を住まわせた。

一方アタフは、ジャアファルを頼って教王代理を失脚させようとしたのだと、彼を妬む輩から讒訴され、獄につながれる。
脱獄した彼は乞食同然の姿となってバクダードまでたどりつき、ジャアファルが大臣その人で、アタフの仁者ぶりを事々に語っていることを知ると、屋敷へ行ってメモの言付けを頼む。
しかしメモをみたジャアファルが動転して気を失ってしまったため、家僕の奴隷たちはけしからぬメモを見せたとしてアタフを捕らえ、土牢にぶちこんでしまった。

二か月がたち、教王に子供がうまれたために恩赦が行われ、解放された囚人たちの中にアタフの姿があった。
途方にくれていた彼は、祈りをささげようと寺院へ向かうが、他殺死体につまづいて転んでしまう。
そこへ警察官がかけつけ、血まみれになっているアタフを見て、殺人の現行犯として逮捕する。
翌日アタフは斬首されかけるが、その判決に疑問を持ったジャアファルの仲裁で一命をとりとめる。
最初はあまりの変わりように気づかなかったジャアファルだが、これまでの話を聞くに、アタフその人であることがわかり、ふたりは再会の喜びをわかちあった。
その場には真犯人もあらわれる。
無類の放蕩者であったため成敗したのだという老人である。
ジャアファルは話を聞いてその罪を許し、事件は解決した。

宮殿に招かれたアタフは、教王より莫大な富を下賜され、妻をもとのままに返される。
そしてダマスの太守として凱旋し、市民から熱烈に歓迎された。
もとの教王代理は死罪になるところであったが、アタフのとりなしで終生追放のみですんだ。

そして、この騒動のおおもとである書物については、もはや誰も問題としなかった。

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次回は、金剛王子の華麗な物語です。

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