無形文化遺産考!日本の手漉和紙技術の独創性について

文化庁が先の10月28日に発表したところによると、国連教育科学文化機関(通称ユネスコ)の補助機関が「和紙 日本の手漉(てすき)和紙技術」を無形文化遺産に登録するよう勧告したということです。
このままでいくと、11月24日からフランス・パリで開かれるユネスコ政府間委員会で登録が決まる見通しとことで、これでまたひとつ日本の伝統技術が文化遺産として登録されることになります。

11/27 追記:
 ユネスコは11月27日、日本政府が推薦した「和紙 日本の手漉和紙技術」を無形文化遺産に登録することを決めました。
 ・和紙が無形文化遺産に 登録された3つの和紙は他と何が違う?

そもそも無形文化遺産は、芸能や祭り、伝統工芸技術や社会的慣習などが対象です。
日本の無形文化遺産は、2013年登録の「和食 日本人の伝統的な食文化」のほか、「能楽」、「歌舞伎」など22件が登録されています。
※)こうした伝統文化も、後日整理していきたいと思っています。

そんな日本の紙漉技法ですが、紙漉を発明した中国の技法をそのまま模倣して踏襲してきただけでなく、長年に渡ってあらゆる改良と発明を加えてきたものです。
 その主要な事項をあげると、
 1.中国から伝来した旧法の溜め漉き法から、新法の流し漉き法による抄造技術を開発したこと。
 2.原料として、わが国産の繊維である楮(こうぞ)、雁皮、三椏を活用して、和紙に独特の特色を持たせたこと。
 3.紙漉(抄造)の際、原料に混合するネリを発見し、有効に使用したこと。
 4.紙漉用具を改良し、精緻な工夫を加えたこと。
といったものがあり、これらの独創的な発明工夫が、今回日本の伝統的な文化財として認められることになりそうだということです。

こうした未来に継承すべき伝統技術は、もっともっと認知して貰うと共に、その技術もきちんと伝承しておきたいものです。

以下は、参考までに、一連の手漉き和紙の製造技術プロセスを整理してみました。
こうして整理してみると、細やかな工夫や改善があるものの、長い経験や熟練の技なしにはなしえない高度な技法であることに、改めて気づかされます。
一朝一夕で伝承できるようなものでもない技術であるからこそ、それを未来永劫どのように存続させるかがいい気な課題でもあるのだと思います。

[amazonjs asin=”4900175161″ locale=”JP” title=”和紙の歴史―製法と原材料の変遷”]

【収穫】
 楮は落葉した後11月か12月に収穫され、1.2mに切り揃える。
 樹皮を簡単に取るために、独特な用具を使い蒸する。下から上に向かって、一気に剥がす。
 剥がされた黒皮は一握りの束にされ、風通しのよいところで乾燥する。
 乾燥したのち15kg束に梱包される。
 黒皮のまま保存し、必要な量だけ取り出して使用するか、暖かくなるのを待って白皮に加工する。

【黒皮取り- 繊維の下準備(白皮作り)】
 柔らかくするために、乾燥した皮を数時間から一晩水に漬けておくこと。
 柔らかくなった黒皮を除去するために、水の中で皮を踏む。
 足のふくらはぎで皮の表面をこするように交互に踏み、黒皮を落とす。
 皮(靭皮部)は黒皮、青皮、白皮の三つから成り立っており、塵入り紙 のように黒皮を残して漉く場合もあるが、上質紙ほど黒皮、青皮を取り去り白皮のみにする。

【皮剥ぎ】
 ナイフで下から上に向かって、青皮を丁寧に削り取ること。
 芽、枝の痕あるいは枝と枝がこすれて傷になったところが、茶褐色に変色して堅くなっている。
 これらはゴミとして残るため、すべて取り去る。
 ただ、出来るだけ他の部分は傷つけないように注意をはらい、ばらばらにならないように丁寧に扱う。
 出来上がった白皮は、乾燥して次に使うまで冷暗所に保管する。

【煮熟】
 不純物を除く手段として、一般にアルカリ性の溶液を加えて、高温で加熱し、不純物をできるだけ水に溶ける物質に変え、水に流し去って、比較的純粋な繊維素だけを抽出する作業が、この煮熟である。
 紙の原料である楮(こうぞ)や三椏(みつまた)を煮て、繊維質だけを取り出すこと。
 保管してあった楮を煮熟前に一昼夜流水に侵積する。
 水の中で十分に洗い、繊維に着いている取り残しの黒皮やゴミを洗い去る。
 次に、アルカリ液で繊維を煮る。
 石灰(水酸化カルシウム )、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)又は苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を用途により使い分ける。
 火加減は煮沸するまでは強火で、煮沸後は沸きまけない程度の火加減に保つ。
 煮沸後繊維は柔らかくなり液中に没すると、上下をひっくり返し、炊きむらにならにようにする。
 煮沸後2時間位に煮熱の打愛を検査する。

【灰汁(あく)抜き】
 煮熟の目的は、原料の植物中の非繊維物を鹸化して水に溶ける物質にすることである。
 従って、煮熟を終えた原料を釜から取り出し、籠に入れて水中に放置するか、底の浅いコンクリート製のタンクに清水を満たして、原料を均等に広げてひたし、絶えず水がかわるように流水量を加減して灰汁抜きを行う。

【漂白】
 煮熟と灰汁抜きを終えた紙料を未晒紙料というが、すでに不純物の大部分が除去されているが、なお幾分かは残っている。
 未晒紙料が淡褐色なのは、その不純物が残っている証拠である。
 手漉き和紙ではこの未晒紙料を用いる場合が少なくないが、日が経つにしたがい、その色相が濃厚になるのが普通である。
 これは紙料中の有色非繊維物が空気に触れて自然に酸化するためである。
 そこで純白な紙を作るには、これらの有色非繊維物を完全に除去することが必要になってくる。

 前に記した灰汁抜きの川晒しは、原料が清水中にある間に、水中の酸素が日光の紫外線の作用によって生成する過酸化水素およびオゾンの働きで自然に漂白されるものである。
 また同様の漂白法としては北陸地方など雪の降る地方で行われている、晴天の日の雪上に原料を薄く雪をかぶせて広げ、時折ひっくりかえしながら一週間ほども放置しておく雪晒しの方法もある。
 薬品による漂白には主に晒粉(カルキ)が使用されるが、これは明治末期以後から行われてきた方法である。 晒粉を水に溶解し、この中に常に原料が液面の下にあるように注意しながら十時間あまりおく。
漂白した原料は煮熟後と同じように清水中で十分に水洗いする。
 このような方法では漂白にかなり時間がかかるので、漂白液をあたためたり、漂白液に酸を加えたりするなどの手段で、漂白時間を短縮し、漂白効力を高めたりする方法もとられている。
 なお、煮熟と漂白とは、きわめて密接な関係があって、煮熟の不完全なものは非繊維質も多量に含まれているから、どれほど漂白剤を多くし、長く煮てもとうてい純白にするのは不可能である。
 つまり漂白を完全に行うには、やはり煮熟を完全に行い、非繊維物をなるべく完全に除いてしまうことが必要となる。

【塵取り】
 打解・叩解に先だって、灰汁抜き、あるいは漂白の工程を終えた原料から手作業で塵を取ること。
 塵とは降雹、霜害、病害虫などによる繊維の傷痕や芽跡や付着した塵埃などであるが、楮は繊維の性質上、機械的な方法による塵取りがむずかしいので、一本一本確かめながら取り除く。
 なお三椏や雁皮は、手作業による塵取り作業を省き、スクリーンと称する除塵機で行うことが普及しているが、場合によっては繊維を損ねることもある。

 焚くとアク(灰汁)が出る。
 本来はアクとは水に灰を混ぜて作った上澄み液を言うが、煮熱液を総してアクという。
 煮熱完了後、一昼夜放置し蒸らす。
 その後流水中に浸しアク抜きをし、アルカリ液に溶出した非繊維物質を取り去る。
 次に、丁寧に塵取りをする。
 楮の場合は機械的な除塵が難しいので、すべて手作業で行う。
 水中にかごをれ、その中に適量の繊維を入れて塵を取る。

【打解・叩解】
 繊維質をさらに細かくほぐすこと。
 打解・叩解は原料の調製の作業で、煮熟とともに最も重要な工程の一つである。
 塵取りされた原料は打解されます。打解はたたき棒で石板か堅木の板の上で丁寧にたたいて、束になっている繊維を一本ずつばらばらに離解する。
 今は打解作業も機械化されて、動力臼でたたいたり、水の中でナギナタ状の刃を回転させて繊維を分散させるビーターなどが使われる場合が多い。
 共に繊維を水中に遊離分散するために行う。
 紙は繊維のからみ合いと膠着によってできるが、均質でしかも強靱な紙を作るには、このからみ合いと膠着が十分に行われなければならない。

 植物体の繊維は、多数集まって繊維束とよばれる集合体を形作っているが、この繊維束は煮熟や漂白などの処理を行っても、なお集団を保っているから、漉く前に個々の繊維に分離し、さらに分離した繊維を適当な長さに切断したり、適当な幅に砕裂したりして、各繊維が十分にからみ合い、膠着するように準備するのが叩解の作業工程である。
 繊維束から繊維を分離させる段階の作業が「離解」であって、この状態で紙を造ると、紙面が荒い。
 繊維を切断したり砕裂したりする段階が「叩解」である。
 三椏の叩解は、元来が粘状になりやすい繊維であるため、極度の叩解を行うと、非常に漉きにくい状態となってしまう。
 雁皮の叩解も三椏の場合と違いはないが、雁皮を原料とする紙類は、多くが薄い紙であるから、繊維を多少粘状にする。
 そのため普通、三椏よりやや長く叩解を行う。

【紙漉き】
とろろあおいを混ぜた溶液を船(木枠とすだれからできている)に流し込み、紙を漉くこと。
 漉槽(すきぶね)の中の紙料を、漉簀(すきす)と桁(けた)を操作して紙を漉く、いわば中心的な作業工程を、全体の紙漉作業から特にせまく限って、抄造とよぶ場合がある。

 紙漉に使用する水の条件としては、次のような事項があげられる。
 1.水が不足すると優れた紙を漉くことができないので、常に十分な水量が確保されていなければならない。 2.水質は、色、浮遊物、鉄分およびマンガンなどを含んでいない清水であること。
 3.ネリが十分な働きをするには軟水が望ましい。

【紙漉き用具】
・漉槽
 漉舟(すきぶね)ともいい、その大きさは、抄造する紙の種類や寸法によって違ってくる。
 大半の漉槽の大きさは、長さは180cm前後、幅100cm前後、深さ40cm前後のものになる。
 なお、舟水(ふなみず)の動揺および簀桁の汲み上げを容易にするために、漉槽の上部は底部より少し広く作られている。
 材質はマツ、ヒノキ、スギ、ツガなどであるが、近年はコンクリート製のものが多くなった。
 漉槽の左右には「馬鍬かけ(ませかけ)」という二本の軸受けが立っていて、馬鍬を使うときの主柱としている。槽の左右の内側には、簀桁をのせる「桁持たせ」あるいは「桁橋(けたはし)」とよばれる二本の棒が手前から向かい側にかけて置かれている。

・馬鍬
 別名を、まが、まんが、まぐわ、さぶり、などといっている。
 漉槽の中に叩解した紙料と清水と、それにネリを加えて攪拌し、紙料の濃度を均一にしてから紙漉き(抄造)を行うのであるが、この攪拌を行う用具が馬鍬である。
 刀状に削った竹べらを櫛状に並べて木枠に取り付けた構造で、漉槽の両側に立てた馬鍬かけにかけて、手で前後に激しく動かして水と紙料を攪拌して繊維を分散させる。
 漉槽に紙料を入れるたびごとに数百回、激しく動かすのは厳しい労働であるため、電動のスクリュー式攪拌機も普及している。
 なお馬鍬で攪拌が終わったら、ネリを加え、さらに竹棒で攪拌して、漉槽の紙料濃度を一定にして、紙漉作業に移る。

・漉簀
 紙料を漉槽の中からすくい上げるのが漉簀である。
材料は竹を細く丸く削った片子(ひご)を絹糸で編んで簀(竹簀)としたものであるが、かつては萱(かや)で作った簀(萱簀)を使用した。
 漉簀で紙料を汲み上げると、繊維だけが簀にさえぎられて薄い湿紙層をつくり水は簀の目を通って漏れ落ちる。
 簀の目の大きなものは水漏れが速く、したがって非繊維物その他の微細物をとどめないから、いわゆる冴えた紙を得るが、柔軟になりやすい。
 また、片子(ひご)が太ければ、簀の面があらく、紙に大きな片子(ひご)跡をつけ、編糸も太いものを使うことで、紙面が粗雑で編糸の跡が目立つ。
 一般に厚紙向けには片子(ひご)を太くし、簀の目の大きなものを、薄紙向けには細片子(ひご)で簀の目の細かいものを用いる。

・漉桁
 漉簀を支えて紙を漉き上げる用具が漉桁である。桁はヒノキで作った木枠で、上桁と下桁に分かれ、蝶番でつなぎ、上桁には二個の「にぎり(手取り)」が付けてある。
 漉き手はこのにぎりを持って簀桁を操作する。
 漉桁は、毎日水中に漬けて酷使されるので、特に念入りに良材を選択して作製される。桁にたゆみやひずみがあると、平らな紙が漉けない。 水を吸収しないように漆塗りにした高級品もある。
 手に漉桁を持って紙料を汲み上げると、簀桁の目方と、水および紙料の目方が合わさって相当の重さになり、漉き手に大きな負担となるので、これを助けるために桁を天井から「弓」あるいは「釣り」とよぶ竹の棒で釣っている。 弓の先から紐糸が垂れており、これを上桁のにぎり部か、下桁の先端に結びつけ、竹棒の弾性を利用して桁の重さの大部分を持たせている。

・漉紗
 薄くて、簀の目や糸目などのない平滑な紙を漉くときに、漉簀の上に取り付けるのが漉紗である。
 典具帖紙・雁皮紙・図引紙・箔打ち紙などを漉くとき、この漉紗を用いた紙漉を行う。
 漉く紙の種類によって絹紗の編み目が異なっており、耐久性を与えるために柿渋を塗っている。
これら高級な和紙の製法に不可欠な用具の製作技術者は、日の当たらない状態におかれたまま、不安定な需要、材料の入手難、低い利潤、後継者の絶無のために急速に姿を消している。

・その他の紙漉用具
 ●紙床(しと)あて板(湿紙堆積板、しきづめ)
=漉き上げた湿れ紙を次々と積み重ねるために用いる板で、湿れ紙から漏出する水の流れをよくするために、周囲に溝を掘ったり、多数の穴をあけたり工夫が施されている。
 ●紙床紙台(しとがみだい)・敷詰台(すいづめだい)
=紙床(しと)あて板を置く台
 ●紙料槽
=桶その他の容器 

【ネリ】
 手漉き和紙が、洋紙の原料と異なり、十分に叩解しない長繊維で、厚い紙から薄い紙まで、きわめて変化に富んだ紙を漉きわけられるのは、植物粘液のネリの使用を発見したところにある。
 ネリの働き、効果については次のような事項がある。
・繊維の配列が優美になる。
 ネリを加えることにより、繊維は分散して凝集のおそれがなく、紙料液が簀の上に残っている間に簀桁を動揺させて、繊維の配列を均整することができる。
・紙の強度が増す。
 繊維の配列が均整され、同時に繊維が十分に絡み合って、紙の強度が増す。
・薄い紙を抄造するのに便利である。
 ネリの使用で水漏れがきわめて遅くなり、特に流し漉き法の特徴である残液の捨て水が可能となるから、ネリを使用しない溜漉き法とくらべて、薄紙の抄造が効果的に行われる。
・紙の硬度が増す。
 ネリの量が多いと、簀上の水切れがゆるやかになるので、紙層の構造が緊密となり、さらに簀桁を動揺させる際に紙面が受ける水の圧力も強くなるので紙の硬度も大きくなるといえる。
・湿れ紙の剥離が容易となる。
 漉きあげた湿れ紙を積み重ねた紙層を圧搾しても、上下の紙が密着しないで一枚一枚容易に剥離できる。これはネリを使用したからで、ネリを使用しない溜め漉き法では、各湿れ紙の間に毛布などを交互に挿んで剥離できるようにしている。
・繊維の沈殿を防ぐ。
 繊維の比重はだいたい1.5程度であるから、漉槽の繊維はそのままでは羽毛状に集まって、たちまち漉槽の底に沈殿してしまう。 しかし、ここにネリ液を多量に入れると、羽毛状の集合がなく、いつとはなしに繊維が沈降して、その境界がはっきりしない。
・紙の光沢を良くする。
 ネリの使用量が多いほど、紙の光沢が良くなる。

【紙の漉き方】
紙の漉き方には、流し漉き法と溜め漉き法の二方法がある。

(1) 流し漉き
 最も和紙の特長を発揮するのは流し漉き法である。
 もともと溜め漉きの名称は、捨て水の操作をあまりしない、薬袋紙、間似合紙、泉貨紙などの抄造法につけられたものである。
 やがて、このネリを使用しない方法を溜め漉きと名付け、一般の和紙のネリを使用する普通の方法を流し漉きと総称して区別するようになった。

 流し漉きで和紙を漉くときに「掛け流し・初水(うぶみず)」、「調子(ちょうし)」、「捨て水(すてみず)」の三つの工程がある。

掛け流し・初水(化粧水、数子(かずし)などともいう)
 最初に紙料液を汲み上げる操作。
 最初は浅く汲み込み、簀全面に繊維が薄く平均にゆきわたるようにすばやく操作する。
 簀をはめた桁のにぎりを両手で持ち、紙料液を浅く汲み、すばやく、しかも均一に簀面全体に広がるようにして、繊維の薄い膜を形作る。
 すばやい動作は、表面に塵などの雑物がつくのを防ぐ。
 紙の外観、見栄えの良否はこの初水の操作で決まるので、慎重に行う必要がある。

調子
 次に二回目の紙料液を汲み込む。
 初水よりもやや深くすくい上げ、簀桁を前後に振動させると(紙質によっては左右にも振動させる)、繊維同士がからみ合い、紙の厚さを形作る。(繊維を絡み合わせる)
 この汲み込みは、求める紙の厚さによって数回くり返されるが、これを「調子ずき」といっている。
 天井から吊った竹の弾力を利用して、汲み込まれる水の重さを軽減しながらバランスよく揺り動かす。(漉かれる紙の種類や地域で動かし方が異なる)
 一枚の紙層を全体に均一にするには、できる限り強い揺りを避けることであるが、あまりにゆるやかにすると締まりのない紙になる。

捨て水(払い水ともいう)
 紙が漉きあがったら、簀は桁からはずして紙または毛布をしいた紙床板(しといた)の上の定規に合わせて、間に空気を入れないように伏せていく。
 汲み上げた紙料が、簀の上で適当な厚さとなると、簀桁の手元をさげ、水面に対し30度くらい傾けて、沈降しないで残っている簀面上の紙料液を半分ほど手元に流しおとす。
 残った紙料液は、桁を反対に前方に傾けて、押すようにして向こう側の桁の上から流し出す。
 この捨て水の操作が流し漉きの大きな特徴で、これによって簀上の液面に浮いている塵や繊維結束などの不純物が除かれる。
 捨て水が不完全であると、紙料液が簀上に残って向こう側が厚くなり、慣れない者が大きな動作で捨て水を行うと、せっかくかたちづくられた紙層をこわすことになる。
 漉き上げられた湿れ紙は、水分をできるだけ除いた後(水切り)、漉桁の上桁をあげ、簀を持ち上げて紙床(しと)板の上に一枚ずつ積み重ねて、紙床を作る。
 湿れ紙をまっすぐに揃えて、気泡の生じないように整然と重ねていく。

 流し漉きでは一枚の紙が、掛け流し・初水、調子、捨て水の三つの動作が一体となって、はじめて仕上がる。

(2) 溜め漉き
 溜め漉きは古来から行われてきた方法で、「ねり」を使わず、水中での分散をよくするため繊維が短くよく打解された原料を使っていた。
 打解度の高い原料は1回の汲み込みで地合いを作ることが出来た。
 現在、溜め漉きにより作られている紙に、はがきや卒業証書用紙などがあるが、これらの原料はあまり打解をしない、流し漉き用のものを使っているため、簀からの水漏れを遅くするため「ねり」を加えている。
溜め漉きは、簀に汲み上げた紙料液全部を簀の上に留めて、紙層とするのが特徴である。
 乾燥は湿紙同士がくっつかないように間に紙を入たり、すぐに脱水をして板に貼り付けて乾かす。

 局紙は元来、三椏を原料としてきたが、現在は三椏の他化学パルプなどの補助原料も用いている。
 粗と密の二枚の金網を張った簀桁の上に紙料をすくい上げ、桁を水平にして、前後左右に揺り動かして繊維をからみ合わせる。
初水、調子、捨て水の作業はなく、紙層の厚薄はおもに紙料液の濃度と桁の汲み込みの深浅とによって決めている。
 漉き網を通して漏れ去る水がなくなると紙床に移すが、湿れ紙の間に一枚ごとに毛布を重ねて紙層の密着するのを防ぐ。

【湿れ紙の圧搾】
 乾燥の前工程として紙床を圧搾して脱水を行う。
 湿紙を重ねて出来た紙床(しと)を一晩そのまま置き自然に水分を流したあと、さらに残った水分を取るために少し大きめの板で挟み圧搾機で重力を加えて脱水する。
 昔は石を積み重ねた石圧法だったが、近年は油圧式、水圧式、ジャッキ式が普及している。
 圧搾の弱い紙は柔軟になる。
 一般に圧搾不足のものよりは、むしろ少し強めに圧搾し、乾燥の際に外側から水をかけて適当に水分を与える。

【紙の乾燥】
 圧搾作業をしてもなお60~80%の水分を含んでいるので、圧搾を終えた紙は一枚ずつ干し板に張り付け天日で乾かしたり、蒸気を用いた乾燥器を使って乾かす。
 干し板は、松、とち、桧の木などを用いる。
 自然(板干し)による天日乾燥と強制(蒸気等)による火力乾燥では自ずと仕上がりの紙に違った結果がでる。

(1) 天日乾燥
 板干(いたぼし)ともいわれているように、張板(はりいた)あるいは干板(ほしいた)に湿れ紙を張って野外で天日で乾燥させる。
 張板の材質は緻密な木質で、しかも乾いた一枚板がよく、一般にヒノキ、カツラ、イチョウ、トチなどが用いられている。
 湿れ紙を張りつける刷毛には、ワラ、シュロ、馬のたてがみ、馬の尾毛などが用いられ、形は各地各様である。
特殊な紙ではツバキの葉でなでて光沢を与える場合がある。

 天日乾燥の長所
・和紙独特の光沢と感触を持った紙が得られる。
・日光に晒すので、多少漂白される。
・乾燥後に重量が増加することが少ない。
・燃料が不要なので経済的である。

 天日乾燥の短所
・一般に紙が柔らかくなりやすい。
・雨天や梅雨時は乾燥できない。
・天候によって紙の色沢がふぞろいになる。
・小工業的で大量生産に適しない。

(2) 火力乾燥

 金属板でできた乾燥面に湿れ紙を張り、金属板を湯または蒸気などで熱して乾燥する。
 金属板の乾燥面が固定されたものと回転するものがあり、固定したものには、断面が三角形や長方形のものと、横に平に置くものとがある。

 火力乾燥の長所
・紙面が平滑になる。
・紙質が締まり、腰の強い紙が得られる。
・統一された均整な紙が得られる。
・季節、気候、昼夜の別なく操業できる。
・大量生産ができる。(天日乾燥にくらべて)

 火力乾燥の短所
・和紙独特の味わいが多少失われる。
・乾燥後、日時を経過するにしたがい重量を増す。
・燃料を比較的多量に要する。

【紙の仕上げ】
 仕上がった紙は、用途によりドウサ、こんにゃくや柿渋を塗る。
 また化学染料や草木染料(自然染料)で染められたり、揉み紙や縮緬のような紙を作るために加工される。
 その上で、選別、裁断、包装、荷造りなどの仕上げの過程を経て出荷されていく。
 ※)和紙自体も数多の種類がありますので、その整理も改めて行いたいと思います。

作成:11/11
更新:11/27