今回は、以前に水墨画の整理の折にも少し触れた、江戸時代に生まれながらいまだに強い影響力を与え続けている「琳派」についてです。
水墨画に観る、深山幽谷と幽玄の美しさ!
「琳派」とは、本阿弥光悦と俵屋宗達が創始し、そこから100年ほど後に絵師となった尾形光琳の「琳」をとって名付けられた名称で、桃山時代後期に興り近代まで活躍した同傾向の表現手法を用いる造形芸術上の流派、または美術家・工芸家らやその作品を指す名称です。
俵屋宗達の『風神雷神図』屏風などはその代表的な作品ですが、尾形家は俵屋宗達や本阿弥家と姻戚関係にあったことから光琳は宗達の作品をよく学び、『風神雷神図』を手本に、光琳は同じ図柄の屏風絵を遺している程です。
そう、あのよく目にする『風神雷神図』は、宗達、光琳、そして酒井抱一という、それぞれ活躍した年代に100年ほどの開きがある3人が描いた「琳派」の屏風な訳です。
※)あっ、そういわれて自分が実際目にしたことのある作品は、一体誰の『風神雷神図』だったのだろうか、と確認してみるのも一興かと思います。
こうした「琳派」は、ひとつの大きな特徴を見ることができます。
それは、「琳派」が狩野派のような世襲ではなく、師弟関係もなく、直接教えを受けず、ひそかに師と仰いで、模範として学ぶことで受け継がれており、純粋に様式を指しているということです。
つまり、時代の天才画家が100年前の天才画家の画業に感動し、個人的に尊敬と才能を捧げることで出来上がった、大変稀な画派こそが「琳派」なのです。
「琳派」は日本が創造した、世界に誇る最上の美の様式です。
この国では、古代から唐を始めとする先進の国々の文化を受け入れ、それを独自の王朝文化にまで昇華させてきました。
時代は移り変わろうとも、日本人が美を求める人々の憧れと感性は四季が織りなす美しい自然風土のなかでいっそう研ぎ澄まされていき、京や江戸を中心にして桃山時代後期から近代にいたるまで、暮らしのすべて、衣食住のあらゆる側面にわたって美を意識し、洗練を極めていった素晴らしい文化を持つ国なのです。
「琳派」はこのような背景で生まれ、それは海外でも高い評価を受け、グスタフ・クリムトやアンディ・ウォーホルも「琳派」の流れを受けているとさえいわれています。
こうした万人に愛され、受け継ぎたくなる素晴らしさが、「琳派」には潜んでいるのではないでしょうか。
今年は琳派誕生400年を記念して各地で催し物が開かれており、2015年10月10日(土)~11月23日(月・祝)には特別展覧会「琳派 京(みやこ)を彩る」が京都国立博物館で開催されます。
琳派 京(みやこ)を彩る – 琳派誕生四〇〇年記念 [特別展覧会]
秋の紅葉の中、改めて「琳派」をじっくりと味わう機会を持ってみてはいかがでしょう。