21世紀の歴史を読む!ジャック・アタリの描く未来予測とあなたが必要な覚悟!

21世紀の政治・経済の見通しを予測して書かれたジャック・アタリの「21世紀の歴史」。
フランス語の原題は『未来についてのある簡潔な歴史(物語)』(Une brève histoire de l’avenir, 2006)。
資本主義と民主主義を人類史の中心テーマと捉え、過去の歴史から発展力学のパターンを抽出したうえで、大胆な近未来予測を行ったのが本書の内容です。

ざっと、本書の趣旨をまとめてみます。

①第一の波 「アメリカ支配の崩壊」
 アメリカは、自国の赤字解消やインフラ整備のため、世界から撤退。
 アメリカにとってかわれば、悲劇が起こる。
 民主主義・政治・国家を破壊する「超帝国」について言及。
 超帝国は、すべてマネーで決着がつく、級よくの市場主義が支配する世界。
 民主主義は雲散霧消し、国家権力は骨抜きとなり、稼いだものが勝ちという社会になる。
 まずは公共部門の解体を行い、医療・教育・文化など、公益を確保しなければならない部門までがマネーに汚染されてしまう。
 公害問題に対する取組みなども、排出権取引の導入などでマネーゲームの対象となる。

②第二の波 「多極型秩序」
 従来の戦争や紛争を超える「超紛争」が発生する。
 国境を跨いで跋扈する様々な暴力集団による破壊的衝突。
 非合法組織同士の殺し合いはもちろん、多極化構造による勢力争いをめぐった紛争、度を超えた拝金主義や科学万能信奉に対する反動からの宗教紛争、水・エネルギー・食料といった死活物資の争奪戦による地域紛争、貧困を逃れるための大規模な民族移動による民族紛争などが勃発する。
 これらすべてがごちゃ混ぜとなって混沌とした泥沼の紛争に突入する有様。
 市場と民主主義、その興亡の未来史が第一と第二の波である。
 国家はグローバルな市場よりも弱いため、各国間の国際協調はグローバルに勝てず、自国の国益を守るのに精一杯。
 現在も進行中の学校や軍事など公共サービスの民営化は、先進国が軒並み財政危機にあえぐなかでは、さらに推進されていく。
 そこに出現するのは、市場の勝利と民主主義の敗北である。
 21世紀の第二の波は、第一の波と同時進行で進展する。

③第三の波 「超帝国」
 21世紀の第三の波は、第一と第二の波と同時並行的に進行していくであろう。
 グローバル市場が帝国になり、全てが民営化。
 ますます「市場」の力は強くなり、やがて警察、軍隊、司法、医療、福祉、教育といった行政分野も
 「市場」の力の増大とともに民間で運営されるようになり、国家は衰退していく。
 個人の「自由」の拡大は個人の責任の拡大と同義であり、更なる個人主義の進展は個人の「孤立」を助長する。
 その中で、二つの力が強大になる。
 一つ目は、「エンターティメント」国民を大事な物事から目をそらさせるため。
 二つ目は、「保険の世界」リスクから身を守るため。
 インターネットが人を監視する技術革新が行われる。
 政府からインターネットを通じて、厳しく監視される社会になる。
 個人の日々の行動、嗜好、健康、財産、教育、労働は、ありとあらゆるデバイスを通じて情報化され、収集される。
 個人についてありとあらゆることが情報化され、それを他人・民間企業や自分自身が利用する世の中となる。
 今は「情報収集」の方法やツールが進化しつつある段階だが、今後は「情報の活用方法」が更に発展していくだろう。
 監視の対象は、あくまでも「物」であり、「個人」の自由を損ねるものであってはいけない。

④第四の波 「超紛争」
 気候やエネルギーの変化が起こり、様々な地域で紛争がおきる。
 誰もコントロールができず、市場は無秩序化される。
 市場メカニズムによる方法は失敗し、その痛みで国が混乱。
 全人類において貧困層の拡大がおこる。
 紛争において、ノマド(遊牧民族=定住しない人々)が重要な役割を果たし移動する人が増える。
 未来、人は移動する流浪の民になる。
 紀元前、人間が狩猟生活をしていた頃のように、石器や石槍を携帯電話やPCに変えて、より条件の良い場所に移動し始める。
 世界はより狭くなり、多くの人が移動しながら、働く場を得ることになる。
 ノマドは三種類に分けられる。
 A)超ノマド(エリートビジネスマン・学者・芸術家・芸能人・スポーツマンなど世界中どこでも行ける人、全世界で1千万程度)
 B)下層ノマド(生き延びるために移動を強いられる非常に貧しい人達、全世界で30億人)
 C)パーチャルノマド(定住民でありながら超ノマドに憧れ、下層ノマドになることを恐れて、ヴァーチャルな世界に浸る人達)
 2020年頃には、人だけでなく企業もノマドのような存在になる。
 <ノマド>が愛する持ち運び可能なグッズ、ノマド・オブジェがさらに注目される。
 歴史的にはお守りや本に始まり、ウォークマン、携帯電話、ノートパソコン、小型ビデオといったように、いつの時代でも大ヒット商品となっている。
 今後も様々なノマド・オブジェ・グッズが爆発的に売れることから、この市場を制する企業が躍進する。
 サングラス、旅行カバン、ノマド向け保険といったノマド関連商品にも流行の兆しあり。
 市場のパワーをどこまで制御できるかが、理想社会実現のカギなのである。

⑤第五の波 「超民主主義」2060年頃~
 別の統治方法として、民主主義を超える「超民主主義」が出現する。
 同時進行で利他主義にもとづいて第三の波に向けて活動を続けることが、資本主義以降の未来を創るために不可欠である。
 <市場民主主義>をベースとした利他愛にもとづく人類の新たな境地としての「超民主主義」。
 これまでの営利追求団体である企業とは異なり、企業活動の究極目的は利潤追求ではなく、社会の調和を目指す調和重視企業が出てくる。
 利潤追求自体に大きな意味はなくなり、人類全員があたかも家族のように、他者の幸せが自分の幸せと感じられる世の中となる。
 それは、「利他主義」=人は他人を援助することによって幸せになれること。
 トランスヒューマンが重要な役割を担い、新しいエリートとなる。
 トランスヒューマンは、愛他主義者で21世紀の歴史や同時代の人々の運命に関心をもつ世界史民であり、人道支援や他社に対する理解に熱心であり、次世代によりよい世界を残そうとする<超民主主義>における主人公にして、新たなる<クリエイター階級>となる人々。
 愛他主義とは、無料奉仕、お互いの寄付行為、公共サービス、公益からなる経済で、調和重視が希少性の法則に縛られることはない。
 彼らは定住民の美徳(用心深さ、歓待の精神、長期的展望)とノマドの美徳(頑固さ、記憶力、直感力)を実践していく心積もりができている。
 市場において他者とはライバルである一方、トランスヒューマンにとって他者とは、自分自身の存在の証であり、孤独でないことを確認する手段である。
 トランスヒューマンは、自分への愛から始まる他者への愛が、人類の存続条件であることを、他者を通じて理解する。
 トランスヒューマンは、全員が競争しあう市場経済と平行して愛他主義経済を作り出す。

他、日本について
 人口の高齢化に歯止めがかからず、国の相対的価値は低下し続ける。
 日本はますます自衛的、保護主義的路線をとり、核兵器を含めた軍備を増強させながら、必ず軍事的な解決手段に頼るようになる。
 こういう戦略は、経済的に多大なコストがかかる。

とまあ、ざっとこんな内容です。

はたして、著者の言うように未来は「利他主義」だけで可能なのでしょうか。
21世紀後半は、まさにブッダの世界になるのでしょうか。
人間の欲望は、変遷してくことができるのでしょうか。
地球レベルでマネー暴走を制御するための仕組みができるのでしょうか。

ビジネスパーソンは、今後メインになるのが保険業とエンターティメント産業だということは、頭の片隅に入れておくべきでしょう。
未来は、プライバシーの境界線が無くなり監視が強まる中で、あらゆる強まる不安を解消するニーズに大きく傾いていくこということだからです。
現時点で可能な未来予測で、今後の困難な時代へ向かう覚悟を決め、そのなかで私達ひとりひとりがいかなる行動をすべきかについて考えるための良書です。

未来は怯えて待つものではなく、より良くなると信じて獲得していくものでありたいですね。
そのためにも、もっともっと自分の頭で考え、そして行動を起すことが肝要です。

現実をしっかりと直視していきましょう。

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