【千夜一夜物語】(0) はじまりのはじまり。

アラビアン・ナイトの物語が何故『千一夜物語』とか『千夜一夜物語』と呼ばれるようになったのでしょう?
それは、このアラビア語の原題が「アルフ・ライラ・ワ・ライラ」と言い、これがもともとたくさんの物語を話すという「千の夜と一つの夜」という意味だったことから来ているようです。
そして、この膨大なる書物は、大別すると以下のような物語群から構成されているようです。
・10世紀以前のペルシア系の物語とインド系の物語
・10世紀から12世紀くらいにバグダードでアラビア語で書かれた物語
・11世紀以降にカイロやアレクサンドリアでまとめられた物語
しかも、私達が良く知っている「アリ・ババと四十人の盗賊」や「アラジンの不思議なランプ」、「シンドバードの冒険」などは、元々のアラビアン・ナイトの物語には入っておらじ、17世紀に西洋に向けて初めて翻訳したフランス人アントワーヌ・ガランが、追加して出版したそうなのです。
設定が寝物語ということもあって、いろいろな物語を存分に差し込めるだけの仕組みを始めから備えていた、という点では、進化する物語としてこれほど優れたものはないでしょう。
しかも、寝物語であるがゆえに猥雑な話も後から加えられており、それが却って現代まで読み継がれてきた理由になっているのかもしれません。

では、こうした『千夜一夜物語』アラビアン・ナイトを早速始めることに致しましょう。
今回は、まずそのイントロからです。

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昔々、インドとシナを支配する王に二人の息子がいた。
兄のシャハリヤールと弟のシャハザマーンはそれぞれの国を治めていた。
あるとき兄は弟に会いたくなり、使いをやって呼び寄せた。
出発してすぐ兄への贈り物を忘れた事に気付いたシャハザマーンが宮殿へ取って返すと、妃が一人の奴隷と浮気の最中であった。
彼は妃と奴隷の首を刎ね兄の国を訪れたが、傷心のためひどく塞いでいた。
しかし兄の留守の間、シャハザマーンは兄の妃が二十人の男奴隷と二十人の女奴隷を相手に痴態の限りを尽くすのを目撃し、自分に起きた出来事はこれに較べればましだと思って元気を取り戻した。
帰ってきたシャハリヤールは弟がすっかり明るくなったのを見て理由を尋ねた。
弟が目撃した事を聞き、さらに自分の眼でそれを確かめると、シャハリヤールは衝撃のあまり弟と共に宮殿を後にして流浪の旅に出た。

ある海辺の一本の木の下で二人が休んでいる時に魔神ジンがやってきた。
二人が木に登って見ていると、魔神は頭の上の櫃から非常に美しい乙女を出し、その膝枕で眠り始めた。
木の上の兄弟に気付いた乙女は二人に自分と交わるよう言い、しなければ魔神を起こして二人を殺させると脅した。
怯えた二人は言うとおりにした。
事が済むと乙女は、自分は婚礼の夜に魔神にさらわれきて七重に鍵がかかる箱に閉じ込められ今に至ること、これまで魔神が眠っている隙に570人の男たちと交わってきたこと、なんとなれば女が何かをしたいと思えば何者もそれを抑える事など出来ないことを語って聞かせた。
兄弟王は魔神でさえ女に裏切られ自分達よりも酷い不貞に遭っているのだから、我々がそうなってもしょうがないのだと慰めて、二人はそれぞれの都へ帰っていった。

宮殿に戻った兄のシャハリヤールはまず妃と件の奴隷達の首を刎ねさせた。
けれどもこうなると、どんな女も信用できなくなった。
そして大臣に毎晩一人の処女を連れて来るよう命じ、処女と寝ては翌朝になるとその首を刎ねるようになった。
三年もすると都から若い娘は姿を消してしまったが、それでも王は大臣に処女を連れて来るよう命じた。
この大臣には娘が二人いたが、恐怖と悩みにやつれた父を見て、姉娘のシャハラザードは自分を王に娶合わせるよう父に言った。
王のもとに参上したシャハラザードは妹のドニアザードを呼び寄せた。
王とシャハラザードの床入りが済むと、ドニアザードはかねて姉に言い含められたとおり姉に物語をねだった。

さっそく『商人と鬼神(イフリート)との物語』を話してみると、妹がまず熱中して、続きをねだる。
姉のシャハラザードは王さまの許しがあれば、話そうと言う。
王も十分にその続きが聞きたくなっていて、シャハラザードを殺すことを一日延期することにした。
次の夜もシャハラザードは話の続きをするが、夜明けが近くなると、話を中断してしまう。
王は話が聞きたいので、また一夜を殺さないでおく。
古今の物語に通じているシャハラザードは国中の娘達の命を救うため、自らの命を賭けて王と妹を相手に一夜また一夜と夜通し語り始めた。
こうして物語は次から次へと続いて、千一夜を重ねるにおよんだ。
そのあいだに、シャフリヤールとシャハラザードには3人の子宝が恵まれた。
王はいつしか賢明で優しく、しかも美しいシャハラザードを心から愛するようになり、それとともに世の女たちへの激しい怒りも失せ、王も王妃も幸福な人生をおくることになった。

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では次回からは、千一夜の間語り継がれた『千夜一夜物語』アラビアン・ナイトの本編に入ることと致しましょう。

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