『山海経』は著者未詳にして、18巻から成る中国最古の空想的地理書ですが、その内容は洛陽を中心に山川の地理、動植物や鉱物、山岳祭祀、辺遠の国々と異形の民、伝説上の帝王の系譜、風俗、神話・伝説など多岐に渡っています。
最初の『南山経』『西山経』『北山経』『東山経』『中山経』のいわゆる「五蔵山経」が東周時代の作で最も古く、そのほかは戦国時代の作を漢の劉秀が校訂して『海外南・西・北・東経』(海外四経) (4巻) 、『海内南・西・北・東経』(海内四経) (4巻)、『大荒四経、海内経』(大荒海内経)(5巻) を付加したといわれています。
その内容ですが、中には奇怪な姿の動植物や神々も多く記されており、後世には専ら怪物事典として娯楽の用に供されることから「奇書」扱いされており、現在でも「山海経」でサイトを検索すると、怪物マニアの作った興味本位なサイトが多数引っ掛かる状況ではありますが、こうした空想の世界ははあくまでも『山海経』の一部に過ぎません。
こうした『山海経』ですが、これは知識人の思想や行動の規範となった経書、より良い政治を目指して論争が繰り広げられた諸子の書とは全く違うところに位置付けられ、豊かな想像力の源泉ともいうべきこの書は、神話、伝説の研究にも不可欠の資料となっています。
更に『山海経』に膨大な注釈を施したのは、西晋末に出現し、卜筮の才を以て東晋の王室を導いたという、詩人の郭璞です。
郭璞は『注山海経序』において、奇異な事物を「異」と見なすのは人間の主観であり、もの自体が「異」なのではないと述べ、『山海経』に記されるものが「異」と見えるのは、常識の外に有るからであり、この書が記録する世界はこの世に実在する、と主張しているのです。
どうですか。
機会があれば、一度触れてみてはいかがでしょうか。
『山海経』の構成は以下のとおりです。
「五蔵山経」 巻一 南山経(南山経・南次二経・南次三経)
巻二 西山経(西山経・西次二経・西次三経・西次四経)
巻三 北山経(北山経・北次二経・北次三経)
巻四 東山経(東山経・東次二経・東次三経・東次四経)
巻五 中山経(中山経・中次二経~中次十二経)
「海外四経」 巻六 海外南経
巻七 海外西経
巻八 海外北経
巻九 海外東経
「海内四経」 巻十 海内南経
巻十一 海内西経
巻十二 海内北経
巻十三 海内東経
「大荒海内経」巻十四 大荒東経
巻十五 大荒南経
巻十六 大荒西経
巻十七 大荒北経
巻十八 海内経
「五蔵山経」
五蔵山経は山の名を掲げ、前の山からの里程や、そこから流れる川、そこに住む動植物、そこで産出する鉱物等を一定のパターンに従って記載する形を取る。
「海外四経」
海外四経は中国の周縁に位置する海外諸国の様子を描いたもので、異形の民の住む国々や、太陽を追って死んだ夸父、帝に首をはねられてなお盾と鉞を持って踊り続ける形天などの奇怪な記事に目を奪われる。
「海内四経」
海内四経の記述は、中国の辺境に関する記述や、崑崙山に関する記述など雑多なものを含む。
しかしその最大の特徴は、戦国末期に実在した地名が多く見えることである。
「大荒海内経」
大荒海内経は本来の『山海経』には含まれていなかったと考えられている。
他の部分では「南西北東」の順で巻が進むのに対して、大荒経は「東南西北」の順で進み、さらに海内四経と名前の重複する「海内経」が続くことから、大荒海内経が他の部分と由来を異にすることは容易に想像がつく。
その内容は海外四経や海内四経と重複するものが多く、古くは大荒海内経は海外・海内四経を注釈したものという考えもあった(畢沅)。
しかし大荒海内経の記述よりも海外・海内四経の記述の方が細かい場合や、両者で全く異なる内容の説明をしている場合も少なくはなく、そう単純には言い切れない。