【千夜一夜物語】(37) ハサン・アル・バスリの冒険(第576夜 – 第615夜)

前回、”カリーフと教王(カリーファ)の物語”からの続きです。

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昔、ペルシャとホラーサーンの王で、インドとシンドとシナ(中国)の国々とオクスス河(アムダリヤ川)の彼方を領有するケンダミル王という王がいた。
王は物語好きだったが、ほとんどの物語を聞いてしまったので、新しい物語を物語師アブー・アリに所望したところ、アブー・アリは1年の猶予を求め、1年以内に新しい物語を見つけられなければ死刑になることになった。
アブー・アリは5人の白人奴隷を呼び、一人をインドとシンドの地域、一人をペルシャとシナの地域、一人をホラーサーンの地域、一人をマグリブの国々、最後のムバラクをエジプトとシリアの国々に派遣し、「ハサン・アル・バスリの冒険」という物語を探すよう命じた。
最初の4人は11ヵ月後虚しく帰った。
ムバラクは、エジプトでは見つけられず、ダマスで物語の名人イスハーク・アル・モナッビー老人を見つけ、お願いしたところ、イスハーク老人は、条件として「無知の者、偽善者、学校教師、馬鹿者、不信者には物語の価値が分からないので物語を聞かせない」ということで「ハサン・アル・バスリの冒険」を教えてくれた。
ムバラクは書き取り、アブー・アリの元へ急いで帰り、1年の猶予ぎりぎりで物語を届けた。
その物語とは次のようなものであった。

昔、バスラにハサンという名の青年がいた。
父が死に多額の遺産を相続したが放蕩で使い果たし、母から金をもらい金銀細工の店を始めていた。
ある日、店にペルシャ人の男が来て、銅の盆に魔法の粉を掛け金に変えて見せ、ハサンに錬金術を教えてやると言ったので、ハサンは弟子入りしたが、ペルシャ人はハサンを麻酔薬で眠らせ、箱に入れ、船に積み込んで出帆した。
ハサンがいなくなったので母は嘆き悲しんだ。

ペルシャ人は拝火教徒で、名はバーラムと言った。
バーラムは「雲が峰」の麓で船から降り、ハサンを箱から出した。
バーラムが雄鶏の皮を張った銅の小太鼓を叩くと大きな黒馬が現れ、黒馬は2人を乗せて切り立った「雲が峰」を登り、2人を頂上に置いて消えた。
バーラムがハサンに「ここからは逃げられないぞ」と言ったので、ハサンはバーラムから小太鼓を奪い取り、峰から突き落として殺した。
頂上の回りは切り立っていたが、高原に続いていたので、そちらに歩いていくと黄金の宮殿があった。

ハサンが黄金の宮殿に入ると、2人の美しい乙女「薔薇の蕾」とその姉「天人花の実」がいたが、「薔薇の蕾」はハサンを気に入り、義弟にすると誓った。
そこへ上の姉たち「暁の星」「宵の星」「紅瑪瑙」「エメラルド」「アネモネ」の5人が狩から帰ってきた。
7人の姉妹は魔神(ジン)の王の娘で、魔神の王は、娘たちを男から隔離し、結婚させないために、「雲が峰」の頂上の宮殿に住まわせていたのであった。
7人の姉妹はみんなハサンを気に入り、姉弟のように宮殿で暮らした。

ある日、乙女たちは、父である魔神の王の宮殿に出かけることになった。
「薔薇の蕾」はハサンに「留守中どの部屋に入っても良いが、ただトルコ石の鍵の部屋だけは入ってはならない」と言い残し、ハサンを一人残して7人の姉妹は出て行った。
ハサンは禁じられた部屋が気になって、ついに言い付けを破りその部屋に入ってしまった。

部屋には梯子があり、屋上まで続いていた。
ハサンが屋上に出ると、そこは美しい空中庭園で、中央には大きな湖があった。
ハサンが庭園の美しさに見とれていると、突然10羽の大きな白い鳥が湖に舞い降り、羽衣を脱ぎ捨てると、10人の美しい全裸の乙女たちになり水浴びを始めた。
水浴びが済むと、10人の中で最も美しい乙女が湖に面した玉座に裸のまま座り、他の乙女たちはそれに従った。
ハサンは隠れて玉座に座る乙女を見つめ、恋に落ちてしまった。
しばらくすると乙女たちは再び羽衣を着て鳥の姿になり飛び立ってしまった。

その日からハサンは毎晩空中庭園に行ったが、再び乙女たちが来ることはなく、ハサンは恋の苦しみからやつれてしまった。
そこに7人の姉妹が父の宮殿から帰って来た。
「薔薇の蕾」はやつれたハサンを見つけ理由を聞くと、ハサンは始め言い付けを破ったことを恥じて答えなかったが、ついに本当のことを話した。
「薔薇の蕾」は、乙女が座った場所から、その乙女が「薔薇の蕾」の父を遥かに上回る魔神の大王の7人の娘の末っ子の「耀い姫」であり、毎月新月の日にこの湖に遊びに来ること、姫を捕まえるには羽衣を奪い、髪の毛を掴んで引っ張れば言うことを聞くということをハサンに教えた。

次の新月の日、ハサンが空中庭園に隠れていると、鳥の姿の乙女たちが飛来し、羽衣を脱ぎ水浴びを始めた。
ハサンが「耀い姫」の羽衣を奪うと、気付いた「耀い姫」は叫び声を上げ、驚いたお供の乙女たちは我先に羽衣を取り、鳥の姿になって、「耀い姫」を一人残し飛び立って行ってしまった。
ハサンは裸の「耀い姫」を追いかけ、髪を掴んで宮殿の自分の部屋に連れて行った。
「薔薇の蕾」ら7人姉妹は「耀い姫」にハサンの長所を説いて説得し、ハサンも美しい詩を吟じたため、「耀い姫」もハサンの長所を認め結婚に同意した。
「薔薇の蕾」は「耀い姫」に美しい服を着せ、結婚の儀式を行った。
ハサンと「耀い姫」はそれから40日間愛し合ったが、ハサンは残してきた母が気になり、家に帰ることにした。

ハサンは魔法の小太鼓を使い何頭かの馬を呼び出し、「耀い姫」と大量のお土産を持ってバスラに帰り母と再会した。
ハサンの母は魔神の大王の王女にはバスラよりバグダードの都の方が良いと考え、バグダードに引っ越し、「耀い姫」はそこでナセルとマンスールという双子の男の子を産んだ。
ある日、ハサンが「薔薇の蕾」に会うため一人出発し留守にしたとき、「耀い姫」が公衆浴場(ハンマーム)に行ったところ、あまりの裸身の美しさに都中の女の噂になり、教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシードの正后ゾバイダの耳にまで達し、ゾバイダ妃は「耀い姫」を召し出した。
謁見した「耀い姫」が「空を飛ぶことができる」と言ったので、ゾバイダ妃は見たいと言い、ハサンの母はしかたなく隠してあった羽衣を「耀い姫」に渡したところ、「耀い姫」は2人の子どもを連れて飛び立ってしまい、「会いたければワク・ワク諸島に来てください」と言い残して消えてしまった。

帰ってきたハサンは嘆き悲しみ、ワク・ワク島へ行く方法を聞きに再び「薔薇の蕾」の所に行った。
しかし、7人の姉妹も行き方を知らなかったので、長女「暁の星」を可愛がっている叔父の魔神アブド・アル・カッドゥスに助力を頼んだが、彼にも行くことができない所であった。
そこで、魔神アブド・アル・カッドゥスはハサンを乗せて三日三晩空を飛び魔法の馬の洞窟に行き、魔神「羽の父アリ」の助力を願う手紙をハサンに渡し、ハサンを魔法の馬に乗せて送り出した。
魔法の馬は10日間走り続け「羽の父アリ」の洞窟に着いた。

「羽の父アリ」は助力を応諾するが、ワク・ワク島は、彼でも行くのが困難な所であった。
「羽の父アリ」は魔神ダハナシュ・ベン・フォルクタッシュを呼び出し、ハサンを連れて途中の「白樟脳の地」まで行くように命じた。
「白樟脳の地」に着いたハサンは歩き出すが、巨人に捕まり、巨人族の王に献上され、王から王女に下賜された。
巨人の王女はハサンを鳥かごに入れ、ハサンの男性を玩んだが、ある日ハサンは鳥かごから抜け出し、「羽の父アリ」からもらった毛を燃やして彼を呼び出し助けてもらい、ワク・ワク諸島の海岸まで連れて行ってもらった。

すると地響きを立て、恐るべきワク・ワク島の娘子軍の美しい乙女の騎兵の一団がやって来た。
ハサンは隊長の老婆「槍の母」に気に入られ、「輝い姫」を探す協力をしてもらうことになり、娘子軍の中に「輝い姫」がいないか調べるため乙女の騎兵たちが甲冑を脱いで水浴びをするところを隠れて見ることになり、娘子軍の全ての乙女たちの裸身を見たが「輝い姫」はいなかった。

老戦士「槍の母」は、「輝い姫」はワク・ワク諸島の大魔王の7人の王女の一人に違いないと思い、7人の王女のなかの長女のヌール・アル・フダ姫に助力を要請したが、逆に激怒されてしまい、ヌール・アル・フダ姫はハサンを捕らえ、誰がハサンと関係を結んだか調べるため、ワク・ワク諸島の7つの島にそれぞれ住んでいる妹を一人ずつ呼び出した。
次女から6女までの王女「一族の尊貴」「一家の幸」「夜の微光」「御空の清浄」「白い曙」をそれぞれハサンに会わせたが、いずれも「輝い姫」ではなかった。
最後に、末の妹「世界の飾り」をハサンに会わせると、実は「輝い姫」であり、ハサンは感激のあまり気絶してしまった。
ヌール・アル・フダ姫は、「世界の飾り」が人間と関係を結び、さらに夫とした者を捨てて子供と逃げ帰ったことに激怒し、「世界の飾り」を捕らえ、ハサンを町の外に捨てた。

ハサンが町の外を歩いていると、2人の女の子供が帽子の取り合いをしていたので仲裁し、「今から投げる石を拾ってきた者を帽子の持主にしよう」と言い石を投げた。
その帽子は体が見えなくなる魔法の帽子で、ハサンが帽子を被ると、石を持ち帰った子供もハサンが見えず、ハサンの声に驚き逃げて行った。

ハサンは魔法の帽子を被り、ヌール・アル・フダ姫の宮殿に入り、「槍の母」を見つけ、「輝い姫」を牢から助け出し、「輝い姫」の島の宮殿に行きナセルとマンスールに再会し、3着の羽衣をハサン、「輝い姫」、「槍の母」が着て、2人の子供を抱えて空を飛んでバグダードに帰った。
彼らはバグダードで幸せに暮らし、また年に1回は「雲が峰」の7人の王女の所に行き、再会を喜び、幸福のうちに人生を送った。

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次回は、 陽気で無作法な連中の座談集です。

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