【千夜一夜物語】(57) 細君どもの腹黒さ(第847夜 – 第851夜)

前回、”九十九の晒首の下での問答”からの続きです。

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昔、ある国の帝王(スルタン)の道化役が、帝王の勧めで結婚したが、新妻は菓子屋、八百屋、肉屋、竪笛吹きと浮気を始めてしまった。
ある日、道化役が家を出て宮殿に向かうと、家に菓子屋がやって来て妻に求愛したが、そこに八百屋がやって来たので菓子屋は便所に隠れた。
八百屋が求愛していると、そこに肉屋がやって来たので八百屋は便所に隠れた。
肉屋が求愛していると、そこに竪笛吹きがやって来たので肉屋は便所に隠れた。
竪笛吹きが求愛していると、そこに急な腹痛を覚えた道化役の夫が帰って来たので、竪笛吹きは便所に隠れたが、道化役が便所に飛び込むと4人の男とはち合わせになった。
道化役は、4人対1人では危険だと思い一計を案じ、菓子屋を預言者アイユーブ、八百屋を緑の預言者ヒズル、肉屋を双角のイスカンダール(アレクサンダー大王)、竪笛吹きを天使イスラーフィールと呼び、聖人たちを帝王の所に案内した。

帝王は一目見て、誰が誰か分かり、他人の妻を寝取った罪で4人を去勢しようとするが、4人はそれぞれ面白い話をするので罪を許して欲しいと願い出て、菓子屋の話した物語、八百屋の話した物語、肉屋の話した物語、竪笛吹きの話した物語が語られ、帝王は4人を赦した。

【菓子屋の話した物語】

昔、ある帝王(スルタン)の都に、都の長官である代理官(カーイム・マカーム)がいたが、房事が不能であったため妻は馬丁を愛人としていた。
しかし、代理官は貞淑な妻だと思い込んでいた。
あるとき、妻は「実家の近所で葬式があったため3日間手伝いに行きたい」言い、夫の許しをもらい、馬丁に驢馬を引かせて出て行った。
妻は実家には行かず、馬丁の家で3日間肉欲に耽ったが、それでも足らず更に3日間肉欲に耽った。
妻は7日目に家に帰り、葬式の手伝いが大変で、3日間延びてしまったと話した。
夫は妻を信じ切っていたため、帰りが遅くて心配したと妻を許した。

【八百屋の話した物語】

昔、ある天文学者がいて、妻の貞淑を信じており、ことあるごとに自慢していた。
あるとき、天文学者が妻の自慢をしていると、ある男が、天文学者の妻は淫乱だと言い、嘘だと思うなら、数日留守にすると言って家を出て、何が起こるか見れば良いと言った。

天文学者は妻に、4日ほど留守にすると言って家を出て、すぐに誰にも気付かれずに家に戻り、隠れていた。
すると、砂糖黍売りがやって来て妻と交わり、続いて鶏屋がやって来て妻と交わり、続いて驢馬曳きがやって来て妻と交わった。
天文学者は怒りの余り死んでしまった。
妻は、定められた待婚期間が過ぎると、驢馬曳きと結婚した。

【肉屋の話した物語】

昔、カイロにある男がいたが、その妻には情夫がいた。
男の家では鵞鳥を2羽飼っていたが、密会に来た情夫が食べたいと言ったため、妻は一計を案じた。
妻は「今まで家に客人を呼んだことがないのは情けない」と夫に言い、夫が客人を呼んで鵞鳥を食べることになった。
夫は鵞鳥の肉詰めの材料を買って来て妻に渡し、客人を呼ぶために出て行った。
妻は2羽の鵞鳥を焼いて肉詰めを作ると、情夫に渡してしまった。

しばらくすると、夫は客人を一人連れて来たが、妻は「2羽の鵞鳥を焼いたのに客人が1人とは少なすぎる」と言い、夫にもっと客人を連れてくるよう言うと、夫は客人を呼びに出て行った。
すると妻は客人に対し「夫は食事を出すためではなく、あなたを去勢するためにここに呼んだのです。
」と言ったので、客人は驚いて逃げ出した。
そこに夫が別の客人を連れて帰って来たが、妻は夫に「さっきの客人が鵞鳥を2羽とも持って出て行ってしまった」と言った。
夫は客人を追いかけ、鵞鳥を1羽返してもらおうと思い「一つだけで良いから」と叫んだが、客人の方は睾丸を一つ取られると思い、逃げていった。

【竪笛吹きの話した物語】

昔、エジプトに、年頃の息子を持つ父親がいて、15歳の若い娘と再婚したが、自分の息子が妻に手を出すことを恐れ、もう一人若い娘と結婚し、妻同士互いに守らせた。
ある日、父親が出かけようとすると、草履を忘れたことに気付き、息子に草履を持ってくるように言った。
息子は、父の2人の妻の所に行き、「父が2人を抱くように言った」と言った。
2人の妻は信じなかったので、息子は父に「片方ですか、両方ですか。
」と大声で聞いたが、父親は草履のことだと思い「両方に決まっている」と大声で答えた。
妻たちは勘違いして、2人とも息子に抱かれた。

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次回は、アリ・ババと四十人の盗賊の物語です。

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