歌舞伎は世界に誇る、日本の伝統芸能です。
しかし、元々400年前に登場したときには、大衆を喜ばせるための一大エンターテイメントだったのです。
なんとなく難しそうなので、ということで敬遠されている方も多いのかもしれませんが、そもそもは庶民の娯楽だったもの。
一度観てみれば、華やかで心ときめく驚きと感動の世界が広がっているのです。
しかも歌舞伎は、単に400年もの間、ただただ伝統を受け継いできただけではありません。
時代に呼応して常に変化し、発展・進化してきているのです。
This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(4) 演目の分類と一覧について
前回は歌舞伎の演目をざっと整理してみましたので、ここからは具体的な演目の内容について触れてみましょう。
今回は、時代物の中から『平家女護島』です。
『平家女護島』は、近松門左衛門が五段の浄瑠璃として書き、享保四年竹本座にて女平家女護島として初演されました。
現在では、平清盛へ謀反を企てた罪により、鬼界ヶ島に流された俊寛らをめぐる二段目の「鬼界ヶ島」の段が主に上演されるため、通称『俊寛』とよばれています。
歌舞伎や前進座でも現在では「俊寛」の件りのみが上演され、通し上演は初演以来行われていないようです。
話しは、都からの赦免船が俊寛・丹波少将成経・平判官康頼の3人の流人を迎えにきます。
しかし俊寛は、都に残してきた妻が殺されたことを知って絶望し、使者の瀬尾太郎を殺して、自分の代わりに成経の妻となった海女の千鳥を船に乗せます。
1人島に残った俊寛は、遠ざかる船を見送ります。
島に1人残る俊寛の絶望感を表現するため、「廻り舞台」と波を描いた「浪布」が効果的に使用され、俊寛が沖へと遠ざかっていく船を見送るために、岩山を登りはじめると「廻り舞台」が廻りはじめます。
回転して客席から見えるようになった部分には、「浪布」が敷き詰められており、あたかも海上には、俊寛が登った岩山しか存在しないかのように見えるため、俊寛の孤独感・絶望感が、一層鮮明に表現されます。
映像のように、岩山から身を乗り出そうとしたとき松の枝が折れ、俊寛はしゃがみ込み、放心したように沖を見つめる俊寛の様子が、幕切の余韻を残す時代物となっています。
『平家女護島』
鹿ケ谷の陰謀を企て平家転覆を企んだ俊寛・成経・康頼の三人は、鬼界ヶ島に流され早三年。
彼らの流罪には刑期がなく、死ぬまでこの島にいなければならなかった。
食べるあてもなく、たまにくる九州からの船に硫黄を売ったり、海草を食べたりして食をつないでいた。
物語は、この地に住む海女千鳥と結婚することを成経が打ち明けるところから始まる。
島にきて以来の絶望的な状況の中起こった、数少ない幸福な出来事を歓びあう三人と千鳥。
そして形ばかりのことながら、成経と千鳥は俊寛と康頼の前で祝言の杯を交わすのだった。
するとそこへ、大きな船が島を目指してやってくるのが見える。
何事かと皆は驚くがそれは都からの船であった。
船が浜辺に着くと中から上使の妹尾が降りてくる。
妹尾は彼らの流罪が恩赦されたことを伝える。
建礼門院が懐妊したため、平清盛が恩赦を出したのだ。
夢かと喜びあう三人だったが、妹尾が読み上げる赦免状の中に、なぜか俊寛の名前だけ無い。
俊寛は赦免状を手に取り何度も内容を確認するが、やはり自分の名前だけが見当たらない。
俊寛は清盛から目をかけられていたにも関わらず裏切ったので、清盛の俊寛に対する怨みは深く、それゆえ俊寛だけが恩赦を受けられなかったのだ。
妹尾はそう憎々しげに俊寛に伝えた。
喜びの後の突然の暗転に打ちひしがれて俊寛は泣き叫ぶ。
だがそこへもう一人の上使である基康が船から降りてきて、俊寛にも赦免状が降りたことを伝える。
俊寛にだけ恩赦が与えられないのを見兼ねた平重盛が、別個に俊寛にも赦免状を書いていたのだ。
これで皆が帰れる。
そう安堵して三人が船に乗り込み、千鳥がそれに続こうとすると、妹尾がそれを止める。
妹尾がまたも憎々しげに言うには、重盛の赦免状に「三人を船に乗せる」と書いてある以上、四人目に当たる千鳥は乗せることはできないというのだ。
再び嘆きあう三人と千鳥に、妹尾が追い撃ちをかける。
妹尾が言うには、俊寛が流されている間に、清盛の命により俊寛の妻の東屋が殺されてしまったのだ。
しかも東屋を斬り捨てたのは妹尾であるという。
都で妻と再び暮らす、そんな夢さえも打ち砕かれた俊寛は、絶望に打ちひしがれる。
妻のない都にもはや何の未練もなくなった俊寛は、自分は島に残るから、かわりに千鳥を船に乗せてやるよう妹尾に訴える。
しかし妹尾はこれを拒絶し、俊寛を罵倒する。
思い詰めた俊寛は、妹尾の指していた刀を奪って妹尾を斬り殺す。
そして妹尾を殺した罪により自分はここに留まるから、かわりに千鳥を船に乗せるよう、基康に頼む。
こうして千鳥の乗船がかない、俊寛のみを残して船が出発する。
しかしいざ船が動き出すと、俊寛は言い知れぬ孤独感にさいなまれ、半狂乱になる。
船の手綱をたぐりよせ、船を止めようとするが、無情にも船は遠ざかる。
孤独への不安と絶望に叫び出し、船を追うが波に阻まれる。
船が見えなくなるまで、船に声をかけ続けるが、声が届かなくなると、なおも諦めずに岩山へと登り、船の行方を追い続ける。
ついに船がみえなくなる。
そして俊寛の絶望的な叫びとともに幕となる。