歌舞伎は世界に誇る、日本の伝統芸能です。
しかし、元々400年前に登場したときには、大衆を喜ばせるための一大エンターテイメントだったのです。
なんとなく難しそうなので、ということで敬遠されている方も多いのかもしれませんが、そもそもは庶民の娯楽だったもの。
一度観てみれば、華やかで心ときめく驚きと感動の世界が広がっているのです。
しかも歌舞伎は、単に400年もの間、ただただ伝統を受け継いできただけではありません。
時代に呼応して常に変化し、発展・進化してきているのです。
This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(4) 演目の分類と一覧について
前回は歌舞伎の演目をざっと整理してみましたので、ここからは具体的な演目の内容について触れてみましょう。
今回は、新作歌舞伎の中から『鰯売恋曳網』です。
『鰯売恋曳網』は、昭和を代表する作家・三島由紀夫作による新歌舞伎の演目です。
三島由紀夫は、生涯6編の歌舞伎作品を書いたことでも知られており、その中の一編、六代目中村歌右衛門のために書き下ろしたのが『鰯賣戀曳網』。
読んで字のごとく鰯売りが登場するこの作品は、三島歌舞伎の中でも特に人気が高い、遊女に一目惚れした鰯売り(魚売り)が大名に化けて郭へ行く物語。
三島の純文学とは全く趣きの異なる娯楽的作風ですが、余裕を感じさせるファルスで秀逸なナンセンスと、晴れやかな祝祭性、健康な笑いが溢れた作品として高評価されています。
室町時代の御伽草子『猿源氏草子』をもとに、『魚鳥平家』、『小夜姫の草子』などの部分を取り入れているとのことです。
『鰯売恋曳網』
【五條橋の場】
ここは京の五條橋近く、隠居の海老名なあみだぶつが息子・鰯売りの猿源氏に会いにやってくる。
ところがどうしたわけか猿源氏の鰯を売る声が弱々しく、今にも鰯が腐りそうな有様。
心配したなあみだぶつが訳を尋ねると、実はある上臈を見染め、恋の病におちたのだという。
よく話を聞くと、それは上臈ではなく都で人気が高い遊女・蛍火だった。
しかし蛍火は位の高い遊女なので、とても鰯売りなどには相手にしてもらえそうもない。
なあみだぶつは一計を案じ、猿源氏を大名・宇都宮弾正に化けさせることにする。
立派な馬を持つ博労の六郎左衛門を家老にしたて、一行は蛍火のところへと向かう。
【五條東洞院の場】
東洞院 では蛍火が貝合わせをして朋輩の遊女と遊んでいる。
そこへなあみだぶつたちが偽の大名行列を作ってやってくる。
猿源氏は首尾よく蛍火に会うことができ有頂天。
そこで酒宴がはじまるが、初めての客は何か座興をするのがこの家の定法だという。
軍物語をと所望され狼狽した猿源氏だが、鯛や平目など魚ばかりが登場する珍妙な話をでっちあげてなんとかその場をしのぐ。
やがて酔って蛍火の膝を枕に寝入った猿源氏は、寝言で「伊勢国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯かうえい」と鰯売りの口上を呟く。
蛍火は急いで猿源氏を起こして、「もしやそなたは鰯売りではないか」と尋ねる。
しかし猿源氏は和歌にこじつけてごまかす。
ところがそれを聞いて蛍火が泣き出してしまうので、猿源氏が訳を尋ねると、実は蛍火は紀伊国・丹鶴城の姫で、ある日鰯売りの声に魅せられて、城を抜け出し後を追ったが、悪者につかまって廓に売られたのだという。
これを聞いた猿源氏は、自分こそその鰯売りだと素性を明かす。
すぐには信じられない蛍火だったが、現れたなあみだぶつたちから、猿源氏が本物の鰯売りだと聞いてようやく納得する。
そこへ庭男に身をやつして姫の行方を捜していた家臣の次郎太が、蛍火に城へ帰ることを薦める。
蛍火は次郎太から支度金をもらうと、亭主に身請けの金として200両、博労の六郎左衛門に馬の代金として50両渡し、その馬を次郎太へ与える。
そして自らは城へは帰らずこのまま鰯売りの女房になると宣言し、売り声の練習を始めた。
姫はその場にいる者たちにも、「見習やいなう」と命じ、皆も一斉に、「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯かうえい」と声をあげる。
一同が驚く中、猿源氏と蛍火は幸せ一杯、手を取り合って鰯売りの呼び声をあげながら立ち去っていくのだった。
せか