【千夜一夜物語】(20) イブン・アル・マンスールと二人の乙女の物語(第346夜 – 第353夜)

前回、”青銅の町の綺談”からの続きです。

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教王アル・ラシードはその夜、眠れなくて退屈をもてあましていた。
アル・ラシードと太刀持ちマスルールは、いたずらじじいイブン・アル・マンスールをつかまえて、おもしろい話を所望する。

イブン・アル・マンスール老がバスラの町を散策していると、迷って大きな屋敷の前に出た。
門の前で休んでいると、中にいた乙女が悲しげな様子で歌をうたっている。
のぞき見したことを責める乙女と言葉を交わしていると、老は、ここがもと親友でバスラの宝石商の総代、アリ・ベン・ムハンマドの家だと思い出した。
乙女は娘のバドルで、悲しんでいたのは、恋人であるシャイバーン族の族長ジョバイール公が、彼女に女奴隷とのレズ疑惑をかけて冷たくなったためである。

仲裁を申し出た老は、ジョバイール公の屋敷を訪ねて饗応を受ける。
しかし不審なことに、盛大な宴の最中なのに、歌と音楽がいっさい聞こえてこないのだ。
理由をただすと、ジョバイール公は女奴隷を呼んで歌うようにいいつける。
しかし女奴隷は、主人が歌を嫌っていることから苦悩し、気絶して倒れ、あなたのせいで主人が苦しむのだ、と老をなじる。
老はむなしくバドルの家へもどった。

翌年、またバスラを訪れた老は、この恋の結末を知ろうとバドルの家を訪ねる。
すると家には墓が建っており、バドルは死んでしまったように思われた。
次にジョバイール公の屋敷に行くと荒れ放題になっており、公はすっかり病みついている。
明らかな恋の病であり、ジョバイール公は老に手紙を託し、仲裁を頼んだ。
ふたたびバドルの家にゆくと、バドルは生きていて、喪服姿である。
死んだのは女奴隷の方だった。

じつは、最初はバドルを突き放していたジョバイール公だったが、徐々にバドルに対する愛しさをつのらせ、逆にバドルの方は、時間とともに冷静さを取り戻していたのだった。
この一年のあいだに、すっかり立場が逆転していたのだ。
老の説得によってバドルはジョバイール公を許し、ふたりは結婚する。
老がこの騒動のきっかけを尋ねると、バドルと女奴隷が船で遊んでいたとき、ジョバイール公をからかうような歌をうたっていたと、船頭が公に報告したことが原因であった。

イブン・アル・マンスール老がここまで語ったとき、教王アル・ラシードは寝息をたてていた。

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次回は、肉屋ワルダーンと大臣の娘の話です。

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