This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(10) 歌舞伎十八番『暫』

歌舞伎は世界に誇る、日本の伝統芸能です。
しかし、元々400年前に登場したときには、大衆を喜ばせるための一大エンターテイメントだったのです。
なんとなく難しそうなので、ということで敬遠されている方も多いのかもしれませんが、そもそもは庶民の娯楽だったもの。
一度観てみれば、華やかで心ときめく驚きと感動の世界が広がっているのです。
しかも歌舞伎は、単に400年もの間、ただただ伝統を受け継いできただけではありません。
時代に呼応して常に変化し、発展・進化してきているのです。

This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(4) 演目の分類と一覧について
前回は歌舞伎の演目をざっと整理してみましたので、ここからは具体的な演目の内容について触れてみましょう。
今回は、天保年間に七代目市川團十郎(当時五代目市川海老蔵)が市川宗家のお家芸として選定した18番の歌舞伎演目・歌舞伎十八番(当初は歌舞妓狂言組十八番)の中から『暫』です。

悪人の清原武衡が、自分の意に従わない罪のない善男善女を家来に命じて斬ろうとするところに、「しばらく」という声とともに圧倒的に強い正義の味方・鎌倉権五郎が登場し、善人たちを助けて清原武衡の陰謀を暴いた上で、清原武衡の手下たちを超人的な力でなで斬りにして去っていくというストーリーです。
江戸時代、江戸の顔見世狂言に入れる約束になっていた局面を独立させたもので、現行の台本は、明治28年(1895)に九代目團十郎 が演じた時のものが固定しました。
公家姿の悪人の役(ウケ)は清原武衛、主人公の役名は、鎌倉権五郎景政になっています。

「顔見世」で上演されたさまざまな作品で、何度も演じられたこの場面は次第に洗練されていき、一定の演出が完成しました。
明治以降は、この場面を『暫』として独立させて上演するようになり、現在に至っています。
このような経緯で誕生したため、ストーリーを楽しむというよりも様式化された演出を楽しむ演目といえます。
主人公は代々の市川團十郎が得意とした「荒事」で演じられるため、『暫』は團十郎家の「家の芸」である「歌舞伎十八番」の1つに数えられています。

【暫】
・悪人・清原武衡が、家来を連れてどこか大きい有名な神社にやって来ます。
 清原武衡は、「前九年の役(奥州十二年戦役)」で安陪氏が滅んだあと、一時奥州の実権をにぎりました。
 神社は鶴岡八幡宮です。
・現政権側で、身分は高いけど権力はない人たちがいて、神社に「大福帳」を奉納しようとしています。
 ここでは「加茂次郎義綱」です。源頼義の次男、八幡太郎義家の弟にあたります。
 「大福帳」というのは商店で使う出納簿です。
 横に長い分厚い帳面です。
・「こんな、商人が使うような卑しいものを奉納するのは神社への冒涜だ」と難癖を付けた清原武衡たち、
 年寄株が「あまり横暴をするものではない」みたいな意見をします。
・さらに、加茂次郎義綱には恋人がいます。美女のお姫様・桂の前です。
 清原武衡はこの桂の前をヨメにしたいのですが、お姫様はうんと言いません。
・怒った武衡、家来の成田五郎に、一同の首を斬ってしまえと命じます。
・善人方絶体絶命の瞬間、「しばらく」と花道の奥から声がして、恐ろしげな大男が出て来ます。
・名前を聞かれて男は鎌倉権五郎影政と名乗ります。
 後三年の役で大暴れした猛将です。
・名前を名乗るとき、「ツラネ(連ね)」という形式で語ります。
 「ツラネ」というのは、主題になるものの由来や自慢を、名所や食べ物等の名前の、いわゆる「もの尽くし」を使ったりしながら「言い連ねる」文章で、ここでの内容は権五郎影政の経歴や名前の由来です。
 「暫」の「ツラネ」は、毎回この役の役者さんが自分で作るのが定例です。
・歌舞伎十八番の由来や大福帳の意味、何故大福帳を神社に奉納するのがアリなのかをとうとうと語る影政。
・強そうな男が花道に陣取って、善人たちに手出しできないようににらんでいるので困った武衡の手下たち、
 順番に出て行っては影政をどかそうとします。
 おどしたり、なだめたり、頼んだり、攻撃したりですが、男はびくともしません。
ここで出てくるのが、鯰坊主・雲斎、女鯰・照葉です。
 「暫」は、だいたい市川団十郎が主演で、女鯰が団十郎を直接説得しようとして「もうし、成田屋のお兄さん」と、役名でなく本人の屋号で呼びかけるところがあります。
・腹出しと呼ばれる、赤い太鼓腹を出している兵隊、奴さん、成田五郎など、代わる代わる出てくる悪人側の戦力が、どれもまったく相手にならない、主人公との圧倒的な力の差を、ここでは楽しみます。
 いろいろなパターンで主人公の強さが表現され、どれも絵的に非常に美しく、楽しいです。
 彼らを蹴散らした権五郎影政は、本舞台にやってきて清原武衡に詰め寄ります。
・と、そこで、「成田屋の兄さん」とか言っていた女鯰が急に寝返ります。
 いつの間にか奪ってあった地方行政菅の印章である「探題の印」を影政に渡す女鯰、
 しかも、本物の宝剣「小金丸行綱」も見つけ出してあります。
・宝剣と印章を手に入れた影政は、それを善人方の加茂義綱に渡します。
 朝廷に持って言って自分の立場を確保し、政局の混乱を収めるように言います。
・影政は巨大な刀のひと太刀で清原武衡の兵隊たちをなで斬りにすると、意気揚々と花道を引き上げて行きます。
・善人一行退場し、終幕。

【典型的な役柄】
『暫』には、一座のおもな俳優の顔ぶれを披露する意味があったため、さまざまな役柄が登場します。

・荒事
 鎌倉権五郎は、「車鬢」の鬘に力紙)という和紙をつけ、「筋隈」とよばれる「隈取」、團十郎家の三升の紋[升を三つ重ねた形]を大きく染め抜いた「素襖」という衣裳に身を包んでいます。
 これらの扮装は、すべて強くまた大きく見せるための工夫です。

・公家悪
 清原武衡は、「公家悪」とよばれる身分の高い敵役の典型で、「公家荒れ」とよばれる青い「隈取」、位の高いことを象徴する金冠白衣を身にまとっています。
 通称「ウケ」とよばれています。

・道化方
通称、鯰坊主とよばれる入道震斎は、その通称の通り、「鬢」の毛が鯰の髭のように長く伸びた鬘、同じく鯰の髭を表現した「隈取」で登場します。
衣裳には、ユーモラスな蛸の模様が染め抜かれています。

・赤っ面
武衡の横に居並ぶ成田五郎を筆頭とした面々で、腹を出しているため通称「腹出し」とよばれます。
「赤っ面」という役柄名は、文字通り顔を赤く塗った上に「隈取」をしていることに由来し、「公家悪」などの位の高い敵役とは異なり、実際に暴力を振るう敵役です。

・ツラネ
 権五郎が「花道」で一気に語る長ぜりふは「ツラネ」とよばれます。
 「荒事」の芸の1つである雄弁術を聞かせるせりふで、掛詞などをもりこんだ内容は、基本的には上演の都度変えられます。

・化粧声
 権五郎が「花道」から「本舞台」に来て両肌を脱いでいる間、舞台上では、「アーリャー、コーリャー」という声が繰り返され、権五郎の「見得」に合わせて最後に「デッケエ」という声が上がります。
 これを「化粧声」といい、「荒事」の登場人物に対してかけられる褒めことばです。
 『寿曽我対面』の曽我五郎などでも掛けられます。

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