密教特有の尊格である明王のうち、中心的役割を担う五大明王には不動明王、降三世明王、軍荼利明王、大威徳明王、金剛夜叉明王(または烏枢沙摩明王)がいますが、今回はそんな中から東方を守護する降三世明王(勝三世明王)に注目してみます。
※)全体的な整理を行っている”日本の仏像に魅せられて”や”自分を守ってくれる守護本尊!”、”アジアンユニット 招福七福神めぐり”も参考にしてください。
降三世明王はサンスクリット語でトライローキャ・ヴィジャヤ(三つの世界を収める神)といい、「三千世界の支配者シヴァを倒した勝利者」を意味します。
三つの世界とは、
・過去・現在・未来の時間であり、
・三毒(貪・瞋・癡(とん・じん・ち))であり、
・三界(欲界・色界・無色界)
を表し、これを降伏する降三世明王は過去から未来まで、むさぼり、いかり、おろかさ、という煩悩を降伏させるという誓願を表しています。
その成立は、古代インド神話に登場するシュンバ、ニシュンバというアスラの兄弟に関係し、密教の確立とともに仏教に包括された仏尊です。
また、明王は人間界と仏の世界を隔てる天界の「火生三昧」と呼ばれる炎の世界に住し、人間界の煩悩が仏の世界へ波及しないよう聖なる炎によって煩悩や欲望を焼き尽くす反面、仏の教えを素直に信じない民衆を何としても救わんとする慈悲の怒りを以て人々を目覚めさせようとする仏です。
降三世明王は三面八臂の姿が一般的で、二本の手を胸の前で小指をからめる印象的な「降三世印」を結び、残りの手煩悩を打ち砕くための弓矢や矛などの武器を構える勇壮な姿ですが、何より両足で地に倒れた大自在天(シヴァ)と妻烏摩妃(パールヴァティー)を踏みつけているのが最大の特徴です。
誰かを踏みつけた仏では四天王がそれぞれ邪鬼を踏みつけているが、降三世明王は、異教とはいえ神を倒して踏みつけているという点でひと際異彩を放つ仏です。