福翁百話より学ぶ!福澤諭吉の処世訓話から「独立」「自尊」の精神を読み解け!

最晩年の福沢諭吉が、訪問してくる客と交わした宇宙観、人生観、処世観、宗教観などといった会話・談話を書き溜めていたものの中から、選び出して独立した百話を集めた随想集『福翁百話』、ならびに続編として19話から成る『福翁百余話』(福翁百餘話)というものがあります。

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この『福翁百話』ですが、諭吉自身が生きた危うい幕末から明治維新を経て色々問題が出てきた明治政府を意識した内容となっており、宇宙(天)の精妙さについての話題が10話まで、続いて人間の内的な規範である道徳と宗教に関する話題が19話まで、その後は人生全般についての様々な話題が、相互に緩やかな繋がりを保ちつつ配列されています。

福沢曰く
「もともと人間の心は広大で限りなく、理屈の外にこそ悠然としていることができるのである」
という思想が根底にありました。
そして、その思想に基づいて、福沢は『福翁百話』を書き連ねるのです。

11話から14話:人間の道徳性の根拠は、美を愛する心に由来し、その心に従うことで、美しい人生を送ることができる。
15話から19話:各人を取り巻く環境は穢れているので、時には淫惑に迷うこともあるかもしれないが、そうした誘惑から離れて人間としての義務に思い至るべきだ。
20話から25話:美しく生きるための基本は、夫婦が仲むつまじい家庭をつくることにある。
26話から31話:子供が生まれたなら、男女長幼に関わらず彼らを平等に愛して、まずは身体の健全な発育に心を配り、子育てに際し親の価値観を押しつけてはならない。
32話から41話:教育についてはとくに実学を身につけさせるべきで、それは個人の独立のために必要なものだ。
42話から48話:人の独立を助けるための慈善事業は必要だ。
49話から61話:経済の独立を図れ。実業のための心得には、正直・節倹・忍耐など諸々の要点がある。
62話から69話:国家は常に前進する必要があり、その主要な推力となるのは富豪たちである。
70話から79話:そうした人々を創る教育の功徳は子孫まで引き継がれる。
80話から85話:学問を修めるための器としての健康な身体を、医者と相談しつつ作りあげよ。
86話から91話:政治の実践の場ではどうしても旧慣に囚われがちだが、古代は理想世界ではなかったことを思い出そう。
92話から100話:政府とは国民の公心を代表するのものであるから、国民はどしどし意見を表明して政府を良い方向に導くべきだ。

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【目次】 現代語私訳『福翁百話』 全百章

諭吉は遠い将来西洋の科学理論によって有形の自然・社会、無形の人間精神すべてを含めた天すなわち世界と宇宙全体を知り尽くすことができると確信し、それを「天人並立の有様」と称しました。
そしてその時には、自然界と人間界を問わず、自然・社会・世界だけでなく、さらに感覚・感情・情念・知性・意志を含む人間精神の真理原則を物理学によって把捉できることになり、自然界と人間社会との区別はなくなり、人間は物理学的真理原則によって統一的に人間社会を含めた宇宙全体を理解することができる、と説く訳です。
つまりこの一連の処世訓話は「独立」「自尊」の主義を説いているのですが、それは諭吉が孔子から老子へと向かった時期でもあり、『福翁自伝』と共にその思想、哲学の集大成ともいえる著書でしょう。
しかし、福沢はその主義がなかなか理解されず、ややもすれば誤解されやすく、世に行われることが難しいことを危惧しており、覇道的な解釈に終始されることを危ぶんでいたと言われています。
年齢によって読む書も解釈も変わると言われますが、確かにこの 『福翁百話』 や 『老子』、安岡正篤、ショーペンハウアーといった書などは、ある程度の年齢を経なければ心情に響かず、その味や醍醐味もわからずに、自身の人生観に重ね合わせることが難しいのかもしれないのかもしれません。
21世紀の現代においても、今なお古びておらず、ますます輝きを放っている『福翁百話』を、是非手に取ってみてはいかがでしょうか。

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福翁百話 目次
 宇  宙 (一)
 天  工 (二)
 天道人に可なり (三)
 前途の望 (四)
 因果応報 (五)
 謝恩の一念発起すべきや否や (六)
 人間の安心 (七)
 善悪の標準は人の好悪に由て定まる (八)
 善は易くして悪は難し (九)
 人間の心は広大無辺なり (十)
 善心は美を愛するの情に出ず (十一)
 恵与は人の為めに非ず (十二)
 事物を軽く視て始めて活溌なるを得べし (十三)
 至善を想像して之に達せんことを勉む (十四)
 霊怪必ずしも咎るに足らず (十五)
 士流学者亦淫惑を免かれず (十六)
 造化と争う (十七)
 人間社会自から義務あり (十八)
 一言一行等閑にすべからず (十九)
 一夫一婦偕老同穴 (二十)
 配偶の選択 (二十一)
 家族団欒 (二十二)
 苦楽の交易 (二十三)
 夫婦の間敬意なかるべからず (二十四)
 国光一点の曇り (二十五)
 子に対して多を求むる勿れ (二十六)
 子として家産に依頼すべからず (二十七)
 衣食足りて尚お足らず (二十八)
 成年に達すれば独立すべし (二十九)
 世話の字の義を誤る勿れ (三十)
 身体の発育こそ大切なれ (三十一)
 人事に学問の思想を要す (三十二)
 実学の必要 (三十三)
 半信半疑は不可なり (三十四)
 女子教育と女権 (三十五)
 男尊女卑の弊は専ら外形に在る者多し (三十六)
 止むことなくんば他人に託す (三十七)
 子弟の教育費に吝なり (三十八)
 人生の遺伝を視察すべし (三十九)
 子供の品格を高くすべし (四十)
 独立の法 (四十一)
 慈善は人の不幸を救うに在るのみ (四十二)
 慈善に二様の別あり (四十三)
 婦人の再婚 (四十四)
 情慾は到底制止すべからず (四十五)
 早婚必ずしも害あるに非ず (四十六)
 女性の愛情 (四十七)
 人事に裏面を忘るべからず (四十八)
 事業に信用の必要 (四十九)
 人間の運不運 (五十)
 処世の勇気 (五十一)
 独立は吾れに在て存す (五十二)
 熱心は深く蔵むべし (五十三)
 嘉言善行の説 (五十四)
 人を善く視ると悪しく視ると (五十五)
 智恵は小出しにすべし (五十六)
 細々謹慎すべし (五十七)
 交際も亦小出しにすべし (五十八)
 察々の明は交際の法にあらず (五十九)
 智愚強弱の異なるは親愛の本なり (六十)
 不行届も亦愛嬌の一端なり (六十一)
 国は唯前進すべきのみ (六十二)
 空想は実行の原素なり (六十三)
 言論尚お自由ならざるものあり (六十四)
 富豪の経営は自から立国の必要なり (六十五)
 富豪の永続 (六十六)
 人間の三種三等 (六十七)
 富者安心の点 (六十八)
 人心転変の機会 (六十九)
 高尚の理は卑近の所に在り (七十)
 教育の力は唯人の天賦を発達せしむるのみ (七十一)
 教育の功徳は子孫に及ぶべし (七十二)
 教育の過度恐るゝに足らず (七十三)
 教育の価必ずしも高からず (七十四)
 富者必ずしも快楽多からず (七十五)
 国民の私産は即ち国財なり (七十六)
 子孫身体の永続を如何せん (七十七)
 生理学の大事 (七十八)
 無学の不幸 (七十九)
 謹んで医師の命に従うべし (八十)
 空気は飲食よりも大切なり (八十一)
 形体と精神との関係 (八十二)
 有形界の改進 (八十三)
 改革すべきもの甚だ多し (八十四)
 人種改良 (八十五)
 世は澆季ならず (八十六)
 正直は田舎漢の特性に非ず (八十七)
 古人必ずしも絶倫ならず (八十八)
 古物の真相 (八十九)
 偏狂の事 (九十)
 人事難しと覚悟すべし (九十一)
 銭の外に名誉あり (九十二)
 政府は国民の公心を代表するものなり (九十三)
 政  論 (九十四)
 自得自省 (九十五)
 史  論 (九十六)
 鯱立は芸に非ず (九十七)
 大人の人見知り (九十八)
 人生名誉の権利 (九十九)
 人事に絶対の美なし (百)

福翁百余話 目次
 人生の独立 (一)
 博識は雅俗共に博識なるべし (二)
 独立は独り財産のみに依るべからず (三)
 金と自身と孰れか大事 (四)
 独立の根気 (五)
 独立者の用心 (六)
 文明の家庭は親友の集合なり (七)
 智徳の独立 (八)
 独立の忠 (九)
 独立の孝 (十)
 立  国 (十一)
 思想の中庸 (十二)
 人に交るの法易からず (十三)
 名  誉 (十四)
 禍福の発動機 (十五)
 貧書生の苦界 (十六)
 物理学 (十七)
 貧富苦楽の巡環 (十八)
 大節に臨んでは親子夫婦も会釈に及ばず (十九)