【千夜一夜物語】(27) 女ペテン師ダリラとその娘の女いかさま師ザイナブとが、蛾のアフマードやペストのハサンや水銀のアリとだましあいをした物語(第432夜 – 第465夜)

前回、”黒檀の馬奇談”からの続きです。

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教王アル・ラシードは盗賊「蛾のアフマード」と「ペストのハサン」を、その経歴を生かすために警備隊長に任命した。
それを聞きつけた「女ぺてん師ダリラ」とその娘「女いかさま師ザイナブ」は、自分たちと同じようなごろつきが徴用されたことに嫉妬し、さらなる功名をあげようと企んだ。

まずダリラは、近衛隊長「街の禍いムスタファ」の屋敷にいく。
その家には若妻がおり、ちょうど子供ができないことについて夫婦喧嘩をした直後であった。
ダリラは懐妊に功徳がある長老を紹介するといい、女を連れ出す。
市場にさしかかると、若い商人が女に色目を使っているので、あれは自分の娘で結婚相手を探していると言って、これも連れ出す。
市場のはずれ、両刀使いの染物屋の店舗につくと、ふたりを娘と息子であるといつわり、すけべ心を刺激して屋敷の広間を借りうける。
染物屋の屋敷に入ると、言葉たくみに若者らを丸はだかにさせ、財布や装飾品を奪う。
さらに染物屋の店へもどり、自分が店番をするので家にいるふたりの相手をするように言って主人を追い払うと、店じゅうの財産に手をつけた。
そして驢馬ひきを呼び止め、染物屋は破産したので財産をひきあげる、ついては驢馬を貸してくれ、そしてお前は借金とりがくる前に店のものをすべて打ち壊してくれと頼み、そのまま姿をくらました。

次にダリラは、商人組合総代の屋敷に行く。
ちょうど娘の結納式の日で家はごったがえしており、邪魔な幼い弟が女奴隷にあずけられていた。
ダリラは、子供の面倒をみているから喜捨の申出を取り次いでくれと言って弟を誘拐し、身ぐるみをはいで商売敵のユダヤ人の店に連れ込み、身柄を質に千ディナール相等の宝物を詐取する。

被害者たちのうち、先に老婆をとらえたのは驢馬ひきである。
まず床屋ハッジ・マスードの家にひったているが、ダリラは驢馬ひきは気が狂っていて「驢馬をかえせ」とわめきたてるのだ、治療するには奥歯を抜いてこめかみを焼くしかない、といいくるめ、あわれ驢馬ひきは床屋の手でそのとおりにされてしまった。
驢馬ひきはなおも執念深く老婆を探して再度つかまえ、今度は商人たちとともに奉行の屋敷に護送する。
しかしダリラは奉行の妻に取り入り、五人は奉行が買った白人奴隷だと言って、代金をせしめて逃走した。

次の日話を聞いた奉行は、「街の禍い」からの訴えもあったため、老婆を捕まえるよう五人に指示。
またも驢馬ひきが見つけて連行すると、奉行は城外に杭を打って老婆をつなぎ、一晩中見張っておくようにいいつける。
ところが五人は夜中寝入ってしまい、そこへ大の甘党のベドウィン人が通りかかる。
ダリラは、菓子屋と諍いをおこしたために翌日甘いものを十皿も食わなければならないのだとベドウィン人をだまし、身代わりにさせて逃げてしまった。

ここに至って一連の事件は教王に報告される。
教王は「蛾のアフマード」に捕縛を命ずるが、手柄をひとりじめにしようとしたアフマードは「ペストのハサン」の協力を求めず、部下の「駱駝の背のアイユーブ」を先頭に立てて捜査にあたった。
しかしアイユーブをはじめアフマードらは「女いかさま師ザイナブ」の手にかかって睡眠薬をもられ、全員身ぐるみをはがされてしまう。
教王はこれを知ると、ハサンに連行を命ずる。
ハサンは、彼女らが手に入れた財物を持ち主に返せば罪に問わない約束を教王にとりつけ、ダリラを教王の前に連れ出した。
事件の動機を聞くと、教王はダリラを亡父がついていた鳩の管理役の職につけ、他に四十人の黒人と四十匹の犬の指揮権を与えた。

カイロの泥棒「水銀のアリ」は気晴らしに市場に出て、水かつぎから水を買う。
二杯めまで捨てて三杯めを飲み、一ディナールを渡したが、水かつぎはケチであると言って怒り出した。
わけを聞くと次のとおりである。

父の遺産を受け継いだ水かつぎは、殖産しようと考えて資金を集め、バクダートへ行商に出た。
しかしバクダードでは金を出して水を買う習慣はなく、まったく売れない。
困っていると「蛾のアフマード」があらわれ、同郷の水かつぎを懐かしんで水を所望し、二杯めまで捨てて三杯めを飲み、五ディナールを与えた。
市場のひとびとはアフマードと同様に水を買い、一ディナールずつ支払ったため、たちまち千ディナールのもうけとなる。
充分となったため礼を言って帰郷しようとすると、アフマードは「水銀のアリ」宛の手紙を水かつぎに託した。

身分をあかして手紙を受け取ると、手紙の内容はアリをバクダードへ招くものである。
アリは子分を残してバクダードへ出た。

「蛾のアフマード」が「水銀のアリ」を呼び寄せたことを知ると、「女いかさま師ザイナブ」は色じかけでこれをだまして貴族の屋敷の井戸に閉じ込める。
アリは貴族の家人の手で救助されたが、この事件によってアリはザイナブを恋してしまった。
相談されたハサンはアリに知恵をさずけ、黒人の姿に変装させてダリラの家の黒人料理人に接触させる。
料理人を酔わせて情報を入手すると、アリはダリラの家のすべての家人に眠り薬を盛って眠らせ、身ぐるみをはぎ、四十羽の鳩を盗み出した。
目が覚めたダリラがハサンを訪ねると、鳩を返す代わりにアリとザイナブの結婚を許可するように持ちかける。
ダリラは、自分に異論はないが、ザイナブの法的な後見人であるダリラの弟、天ぷら屋ゾライクの許可が必要であるという。
ゾライクはもと盗賊だった男で、店先に千ディナールの財布を吊り下げて盗みの挑戦者を募っては、財布の先に結びついた鐘が鳴ると石礫を放ち、ひどい目にあわせている。

アリはまず妊婦に変装して財布を盗もうとするが、気づかれて失敗する。
次に馬丁に変装するが再度失敗。
三度目は蛇使いにばけるが、これも気づかれてしまう。
しかしアリのしつこさを警戒したゾライクが、財布を家に持ち帰り妻に命じて台所に埋めさせると、ゾライクをつけて一部始終をみていたアリは、財布を掘り出して盗むことに成功した。
すぐに気づいたゾライクはハサンの家に先回りし、アリが帰ってくるとハサンになりすまして財布を受け取って逃走する。
アリもすぐに気づき、ゾライクの家にとって返して妻子を縛り、妻のふりをして財布を受け取り、とうとう入手に成功した。
財布とひきかえに結婚の許可を求められたゾライクは、婚資としてユダヤ人アザーリアの娘カマーリアの、金の衣、冠、帯、靴を要求する。
しかしユダヤ人アザーリアはおそろしい魔法使いで、金の衣などを奪ったものにはカマーリアとの結婚を許可しようと言っては、近寄ってくる勇者らを動物の姿に変えているのである。

アリは単刀直入にアザーリアに事情を話し、譲ってもらうよう申し入れるが、魔法使いはアリを驢馬に変え、水売りに売ってしまった。
売り先で騒動を起こしたアリの驢馬が戻ってくると、今度は熊の姿に変え、熊の肉を求める男に売る。
屠殺されそうなところを逃げ出したアリの熊がまた戻ってくると、アザーリアはカマーリアを立ち会わせて犬に変える。
だがこのとき、一瞬人間にもどったアリの姿を見たカマーリアは、一目で恋に落ちてしまったのである。

アリの犬は親切な骨董屋に拾われるが、骨董屋の娘はアリが人間であることを見抜いた。
この家にいる女奴隷のひとりがかつてアザーリアに仕えており、妖術を習得して娘にも伝えていたのである。
娘と女奴隷は、自分たちと結婚することを条件に、アリを人間の姿にもどす。
するとそこへカマーリアが、アザーリアの生首をもってあらわれる。
カマーリアはアリへの愛から、回教徒に改宗し、その証として魔法使いの首をとってきたのだ。
アリはカマーリアも妻とし、また、ザイナブを法で許された四人めの妻とするため、ダリラの家に向かう。

こうしてアリはぶじに四人の妻を得た。
アフマードからアリを紹介された教王は、彼をアフマードやハサンと同等の位置につける。
アリは子分たちをバクダードに呼び寄せ、教王の許可を得て警吏の職につけた。

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次回は、漁師ジゥデルの物語または魔法の袋です。

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