私の10台、20台の頃の読書の中心を占めていたのは古今東西の区別なく小説でした。
30台、40台の頃になると、必然的にビジネス絡みの書物が中心となってきたので、この期間どっぷりと小説に浸るのは止めておこうと自戒を立てて今日に至ります。
最近では(そろそろ50に近づくに従って)思索・深遠な傾向になりがちな古典絡みの読書が中心となってきました。
とはいっても濫読・多読な傾向にあるので、良書・悪書の境界なく清濁併せ呑み込むことを心情としています。
そこで今回は、20台の頃に読んでインパクトのあったハードボイルド系の筆頭とも言える作家の小説を整理してみたいと思います。
読破時の面白さを半減しないよう、あらすじは極力排してます。
全然女性好みの内容ではないので、その旨ご容赦くださいね。
【北方謙三】
北方謙三という小説家に出会ったのは、水谷豊主演の映画「逃がれの街」の原作者だったことからです。
高校生の頃は、試写会だとタダで映画が見れる上に、映画が上映される前に行われる抽選でスポンサー商品が貰える(今もそうなのかな?)ということで、とにかく手当たり次第に通っていたものです。
試写会なんてだいたい平日で、ガッコや部活を早めに切り上げて(笑)夕方6時、7時から始まる試写を腹を減らしながらも見ていたものです。
そんな中、当時邦画なんてあまり興味もないままに見た「逃がれの街」の、警官に撃たれて野たれ死に、雪山の斜面を滑り落ちていく強烈なラストシーンを見ながら、エンドロールに流れる原作者「北方謙三」を強く記憶したものでした。
(この映画は、実は高校生以来二度と観てません。
昔好きだった人に10年以上経って再会したら「あれっ」って感じになるのと同じになりはしないかなあ、と危惧してるのです。
良い思い出や印象は勝手に大きく膨らんで理想化する傾向にあるので、それはあえて暴かず自分の中で大事にしておくのがいいのかも、と密かに思う訳です)
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実際には、ハードボイルド小説を読み漁るようになるのは20台の頃からだったのですが、北方謙三の世界観では、ある小説に出てくる主人公が別の小説では脇役になったり、その逆もあったりといったクロスオーバー型のモチーフが、妙な中毒性を持っていたのかもしれません。
特に私のお気に入りだったのは、“老いぼれ犬”と呼ばれるひとりの警部が(大半が脇役なのに)ちょいちょい出てきてはいいところを攫って去っていく。
「逃がれの街」以外は、そんな“老犬”をはじめとする骨太な登場人物が互い違いに出てきて、それを探すのも本を読み漁る楽しみのひとつだったものです。
個人的には、まずは“老犬”シリーズを読んでから、あとは好みに合わせて好きなように読んでいくのがお奨めです。
【“老犬”シリーズ(全3冊)】
脇役専門だった“老いぼれ犬”刑事・高樹良文を主人公にした若き日々の物語です。
実は、北方ワールドの中でこの老いぼれ犬が果たす役割は大きいのですが、その活躍と相まってまるでテーマソングの如く頻繁に登場するもの。
それが、ゴロワーズと口笛や鼻唄で奏でられるS.C.フォスター「老犬トレー」。
傷痕(集英社 1989年 / 集英社文庫 1992年 『老犬シリーズ1』)
「老犬トレー」の鼻歌が癖になった理由。
ゴロワーズを吸う理由。
「けものの匂い」を持つ男達を嗅ぎ分けられるうようになった理由。
そういった高樹の原点を描いた作品であり、壮絶な少年時代の物語です。
「孔雀城――無頼の少年たちは、自分たちの寝ぐらをそう呼んだ。
戦争直後の東京、焼け崩れた工場の跡地である。
隠匿物資を盗み出し、闇市で売りさばくことを覚えた良文とその仲間にとって、
最大の敵は浮浪児狩りと暴力団だった。
幼い良文は野獣のように生き抜いてゆく」
風葬(集英社 1989年 / 集英社文庫 1992年 『老犬シリーズ2』)
刑事となった高樹が、古い傷を抱え切なく生き抜く”老いぼれ犬”となっていく物語です。
高樹の少年時代の親友・幸太が、高樹に言うセリフが泣けます。
「ちゃんとした格好をしてろ。そう言ったろう。
いい服を着て、糊の利いたシャツに皺のないネクタイ締めて。
そうやって、おまえは心のなかのけものを閉じ込めなくっちゃな。
でなけりゃ、刑事を続けられねえぞ」
これが、各作品の主人公に関わっていく”老いぼれ犬”高樹の原点なのだと思うのです。
望郷(集英社 1990年 / 集英社文庫 1992年 『老犬シリーズ3』)
時代は平成、定年間近な”老いぼれ犬”高樹警視の物語です。
ラスト、高樹が漏らす一言々が胸を抉るのです。
余計な解説は無用です、是非読んでみてください。
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【単行小説】
逃がれの街(集英社 1982年 / 集英社文庫 1985年)
「愛する女・牧子のために殺人を犯して、暴力団と警察に追われる幸二。
逃亡のさなか、公園で知り合った幼いヒロシを唯一の友に、
2人だけの安住の地を求めて走りつづける…」
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以下の作品群は、“老いぼれ犬”髙樹が脇役で登場するものです。
弔鐘はるかなり(集英社 1981年 / 集英社文庫 1985年)
「俺をハメたのは誰だ?
横浜の夜、容疑者を射殺し、刑事の職を追われた梶。
あれから4年、事件の謎に迫って凄絶な戦いが始まった…。
復讐に命を賭けた男の挽歌」
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鎖(講談社 1983年 / 講談社ノベルス 1985年 / 講談社文庫 1987年 / 文春文庫 2005年)
「死体が4つ、転がっている。5つ目の死体を私は待っていた──。
5年前まで一緒に芸能プロダクションを経営していた男から、突然連絡が入ったのだ。
北海道の筋者に命を狙われているその男は私に借金を押しつけて逃げた旧友。
だが、彼を見殺しにできない私は闘いに踏み込んでいく」
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真夏の葬列(文藝春秋 1983年 / 文春文庫 1986年 / 講談社文庫 2005年)
「愚かさすら、いとおしい青春ハードボイルド女が死んだ。
赤いバラの花束で、霊柩車に乗せられた彼女を迎えた。
親友の彼女だった。
自殺の原因を作った奴を殺してしまった親友と二人、女の故郷の海を目指す」
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逢うには、遠すぎる(集英社 1983年 / 集英社文庫 1986年 / 光文社文庫 2004年)
「まだ、愛しているかもしれない、別れた妻が失踪した!
魔の手に狙われているのか。
カメラマン・上杉は彼女の行方を追ってロスへ飛ぶ。
迫真のタッチで描くアメリカ横断救出行」
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檻(集英社 1983年 / 集英社文庫 1987年)
「やくざな世界から足を洗って、今は小さなスーパーを経営している滝野和也。
そのスーパーの買収工作をめぐるいざこざから、滝野の野性の血が再び噴き出す。
結局は“檻”のなかにとどまれず、修羅場に戻っていく男の滅びの美学を、
鮮烈な叙情で謳いあげた北方ハードボイルドの最高傑作!」
村沢:「挑戦」シリーズ「風の聖衣」
石本:「牙」、「挑戦」シリーズ「風の聖衣」「風群の荒野」
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友よ、静かに瞑れ(角川書店 1983年 / 角川文庫 1985年)
「温泉町で旅館を経営している古い友人が逮捕された。何かがある--。
だから、男はこの海辺の温泉町へやって来た。
束の間の再会。交される一瞬の眼差し。北方ハードボイルドの最高傑作!」
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君に訣別の時を(講談社 1984年 / 講談社文庫 1987年)
「助けを求めて泣いている女のために、男はどこまで生命を賭けられるか。
愛の残り火と報われることのない男の誇りが、東北の海辺にふたたび燃え上る!
男の凄絶な生きざまと孤独な情念を鮮烈に描く」
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渇きの街(集英社 1984年 / 集英社文庫 1988年)
「道ってやつは踏みはずすためにある。
踏みはずしたところにも、また道がある―。
気位、男の誇りを捨てきれずに自分の道を切り拓いてゆく男の激情!」
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錆(光文社 1985年 / 光文社文庫 1988年 / 徳間文庫 2009年)
「男には落とさなければいけない“錆”がある―。
男は薔薇を栽培する花屋。“稲妻”と呼ばれたかつてのランキング・ボクサー。
平穏な生活を送る彼だったが、親友を救うため、やくざの抗争に巻き込まれてしまう。
そして、男の躰の中で何かが切れた!“男はいかに死ぬべきか”」
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ふるえる爪(集英社 1986年 / 集英社文庫 1989年 / 光文社文庫 2005年)
「和泉則子は、かつて、殺人を犯した「最初の男」のために弁護士になった。
そして、もう一度だけ女を賭ける。自分に救いを求めてきた「今の男」に。
“私は彼を愛しているのか”それを確かめ、本当の女となるために、
則子は、アルファロメオのハンドルを握り、男が待つ神戸へと疾駆する!」
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牙(小学館 1986年 / 集英社文庫 1989年)
「ふとしたことで事件に巻き込まれた石本一幸、19歳。
祖父が襲われ、死んだ。いまわのきわに残した
「牙をなくしちゃなんねえ。いざという時にゃ、牙をむけるのが、男ってもんだ」
の言葉を胸に、迫りくる組織の魔手、陰にひそむ大物に、一幸の復讐が始まる」
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愚者の街(集英社 1987年 / 集英社文庫 1991年 / 徳間文庫 2003年)
高樹のセリフが効きます。
「けものは、勝手に走って死んでいく。
それを見届けてやるのが、自分の役回りなんじゃないか、という気がしてきてね。
歳のせいかな、自分の役回りなんて考えるのは」
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【“挑戦”シリーズ(全5冊)】
主人公水野竜一が、若者から男へと変貌を遂げていく物語。
”老いぼれ犬”高樹が海外に追いやった男達が次々と出てきます。
挑戦 危険な夏(集英社 1985年 / 集英社文庫 1990年 『挑戦I』)
挑戦 冬の狼(集英社 1985年 / 集英社文庫 1990年 『挑戦II』)
挑戦 風の聖衣(集英社 1987年 / 集英社文庫 1990年 『挑戦III』)
挑戦 風群の荒野(集英社 1988年 / 集英社文庫 1990年 『挑戦IV』)
挑戦 いつか友よ(集英社 1988年 / 集英社文庫 1990年 『挑戦V』)
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【“弁護士・谷道雄”シリーズ(全2冊)】
眠りなき夜(集英社 1982年 / 集英社文庫 1986年)
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夜が傷つけた(集英社 1986年 / 集英社文庫 1990年)
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【“探偵・神尾”シリーズ(全6冊)】
群青(集英社 1991年 / 集英社文庫 1994年 『神尾シリーズI』)
灼光(集英社 1991年 / 集英社文庫 1994年 『神尾シリーズII』)
炎天(集英社 1992年 / 集英社文庫 1995年 『神尾シリーズIII』)
流塵(集英社 1993年 / 集英社文庫 1996年 『神尾シリーズIV』)
風裂(集英社 2000年 / 集英社文庫 2002年 『神尾シリーズV』)
海嶺(集英社 2001年 / 集英社文庫 2003年 『神尾シリーズVI』)
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これ以外で読んだ北方謙三のシリーズだと、、
“ブラディ・ドール”シリーズ さらば、荒野(第1作)、ふたたびの、荒野(第10作)
“約束の街”シリーズ 遠く空は晴れても(第1作)、されど君は微笑む(第6作)
“近代史小説” 望郷の道(上・下巻)
ぐらいです。
北方謙三というと今では歴史小説の方がすっかり有名ですしベストセラーもこちらの方が多いのですが、私は全然そこまで辿り着いてませんね。
特に50台の楽しみとして取ってある訳でもないのですが、これまでの各年代で読んできた本の傾向の中で、たまたま読む機会がなかっただけです。
今回はハードボイルド系第一弾として、このぐらいにしておきます。
続きは、また別の機会にでも。
起草:2014/9/30
改訂:2014/10/27