前回、”陸のアブドゥッラーと海のアブドゥッラーの物語”からの続きです。
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ある夜、教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシードが大臣ジャアファル・アル・バルマキーと大臣アル・ファズル、寵臣アブー・イスハーク、詩人アブー・ヌワース、御佩刀持ちマスルール、警察隊長「蛾のアフマード」を引き連れ、商人に変装してバグダードの町を歩いていると、美しい歌声が聞こえた。
教王たちが歌声のする館の主にもてなしを求めると許された。
館では、豪勢な夕食を振舞われ、歌声の主である館の主の妻セット・ジャミラの美しい歌を聴き一同楽しんだが、教王は館の主の顔色が黄色いのに気付き、なぜ顔色が黄色いか尋ねたところ、館の主は次のような話をした。
館の主の名前はアブール・ハサン・アル・オマーニといい、オマーンの豪商の一人息子であった。
父が死ぬと、アブール・ハサンは30隻の船を含む莫大な遺産を相続したが、その船の船長が持って来たバスラとバグダードからの異国の果物を見ると、どうしても旅に出てバグダードを見たくなり、一隻の船を残して全財産を売却し、得た金を持って残した船に乗りバグダードに向かった。
バグダードに着いたアブール・ハサンは、カルン・アル・シラートにあるひときわ美しい建物の前の美しい白衣の老人に目を留めた。
その老人はターヘル・アブール・オラといい、そこは、その老人の経営する館で、金を払えば、美女と夜を共にできる所であった。
アブール・ハサンは、まず一番安い一夜10ディナールの女を1か月前払いで申し込んだ。
部屋に入ると女は美しい美女で、2人の美しい女奴隷を従えており、おいしい料理を食べ、飲み物を飲み、菓子を食べ、抱き合い1か月は快楽のうちに過ぎた。
次にアブール・ハサンは一夜20ディナールの女を1か月前払いで申し込んだ。
部屋に入ると女は前の女より美しいフランク人で、4人の美しい女奴隷を従えており、もっとおいしい料理を食べ、もっとおいしい飲み物を飲み、もっとおいしい菓子を食べ、抱き合い1か月はさらなる快楽のうちに過ぎた。
アブール・ハサンは、最も高い一夜500ディナールの女を1か月前払いで申し込んだ。
女は、白衣の老人ターヘル・アブール・オラの娘で、絶世の美女であった。
アブール・ハサンは夢中になり、全財産を使い果たすまで、泊まり続けた。
金がなくなると、女もアブール・ハサンを好きになっていたので、女は自分の500ディナールをアブール・ハサンに渡し、アブール・ハサンがその金で支払いを行い、金を受け取ったターヘル・アブール・オラはその金を給料として娘に渡す、という具合に金を循環させて泊まり続けたが、1年後ついにターヘル・アブール・オラに見つかり、アブール・ハサンは館を追い出されてしまった。
アブール・ハサンは金が無いためバスラに行く船に船員として乗り込み、バスラに行った。
バスラでは、父の友人と言う食料品商に出会い、そこで1日銀貨1ドラクムの給料で100ディナール貯まるまで働いた。
すると、宝石を積んだ貿易船が入港し、その船から宝石を一袋買った男がアブール・ハサンの父の友人で、宝石1袋を100ディナールで売ってくれた。
アブール・ハサンは、店を借り、宝石を売り、利益を上げた。
ある日、宝石に袋の中にあった呪文が彫られた赤い貝殻を買いたいという男が現れた。
男は最初20ディナールで買うといったが、アブール・ハサンが売らないでいると、最後には3万ディナールまで買値を上げた。
アブール・ハサンが売ると、男は次のように語った。
「この貝殻の効能を教えよう。
インドの王に美しい王女がいたが、王女は激しい頭痛持ちで、どんな医者でも治せず、自殺防止のため部屋に鎖で繋がれていた。
インド王はバビロン人の賢者サアダッラーに頼み、この貝殻の護符を作ってもらったところ、王女の頭痛はたちどころに直った。
しかし、王女は貝殻の護符を誤って海に落とし失くしてしまい、激しい頭痛が再発してしまった。
賢者サアダッラーは既に死んでいたため、作り直すことはできず、必死になって探していたもので、100万ディナールでも私は買ったであろう。」
アブール・ハサンは、100万ディナールを儲け損ねたことを知り、その時以来、顔色が黄色くなってしまった。
アブール・ハサンは十分な金が貯まったので店を売ってバグダードに行くと、ターヘル・アブール・オラの館は荒れ果てており、聞くと、ターヘル・アブール・オラの娘は、アブール・ハサンがいなくなったので悲しみ病気になり、それを悲しんだターヘル・アブール・オラは館をやめてしまい、アブール・ハサンを探しているということであった。
アブール・ハサンがターヘル・アブール・オラの娘に再会すると病気は治り、2人は結婚し、幸せに暮らした。
翌日、教王はアブール・ハサンを王宮に召し出し、100万ディナール儲け損ねた穴埋めとして、バグダード、バスラ、ホラーサーンの年貢1年分を与えた。
アブール・ハサンの顔色の黄色は取れ、アブール・ハサンは教王に感謝し、家族と共に幸せに暮らした。
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次回は、「柘榴の花」と「月の微笑」の物語です。