【千夜一夜物語】(39) 眼を覚ました永眠の男の物語(第622夜 – 第653夜)

前回、”陽気で無作法な連中の座談集”からの続きです。

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昔バグダードにアブール・ハサンという若者がいた。
彼は父の遺産を受け継いだ後、遺産を二つに分け、片方を友との遊興に使ったが、金がなくなった途端、友人が全ていなくなったことに懲り、残りの遺産は友のためには使わず、毎晩バグダードを訪れた異国の人を一夜だけ歓待することに使い、同じ人を2度と歓待しないこととしていた。

ある夕方、アブール・ハサンがバグダードの橋の上にいると、異国の商人に変装した教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシードに出会い、自宅に招き歓待した。
教王がお礼に何かしたいと申し出たところ、アブール・ハサンは客が教王とは知らず、「一日だけ教王になってみたい。
」と夢を言った。
それを聞いた教王は、アブール・ハサンの飲み物に麻酔薬を入れ、眠ったアブール・ハサンを宮殿に連れ帰った。

教王は宮殿の人々に「アブール・ハサンを教王として扱え」と命じ、アブール・ハサンを教王の寝台に寝かせた。
翌朝目覚めたアブール・ハサンは、教王になったことに驚くが、政務を申し分なく行い、夜、後宮に入った。
後宮では、それぞれ7人の美しい乙女のいる食事の部屋、果物の部屋、菓子の部屋、飲み物の部屋で夕食を楽しんだが、飲み物の中の麻酔薬で眠らされてしまい、自宅に運ばれた。

翌朝目覚めたアブール・ハサンは、「自分は教王だ」と騒ぎ立てたため、狂人として閉じ込められるが、十日後解放された。
アブール・ハサンがバグダードの橋の上にいると、異国の商人に変装した教王と再び出会い、教王が「不幸の償いをしたい」と頼んだので、再び自宅に招き歓待した。
教王は、アブール・ハサンが「後宮の『砂糖黍』と言う名の乙女にもう一度会いたい」といったので、再び麻酔薬で眠らせ、宮殿に連れて行き、教王の寝台に寝かせた。

翌朝目覚めたアブール・ハサンは悪魔の仕業と思い驚くが、教王は冗談でやったことと真実を教え、アブール・ハサンを酒宴の友として1万ディナールの俸給で雇い、砂糖黍との結婚を許した。

結婚したアブール・ハサンと砂糖黍は、豪華な生活を始めるが、教王が給料の支払いを忘れたため一文無しになった。
そこで、アブール・ハサンは、教王に「砂糖黍が死んでアブール・ハサンが悲しんでいる」と、教王の正后ゾバイダに「アブール・ハサンが死んで砂糖黍が悲しんでいる」と伝え、両者から弔慰金を取る計画を立て、計画は成功した。
しかし、教王とゾバイダは、誰が死んだかで言い争いになり、教王の使者が確かめに来たときは砂糖黍が死んだふりをしてアブール・ハサンが嘆き、ゾバイダの使者が確かめに来たときはアブール・ハサンが死んだふりをして砂糖黍が嘆くということをしたが、教王とゾバイダの言い争いは更に激しくなり、両者本人が確かめに来たところ、二人とも死んだふりをしたため、大笑いになり、教王は給料の支払いを忘れないと約束し、二人を赦し、みな幸せに暮らした。

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次回は、 ザイン・アル・マワシフの恋です。

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