【千夜一夜物語】(7) ガネム・ベン・アイユーブとその妹フェトナーの物語(第36夜 – 第44夜)

前回、”美しいアニス・アル・ジャリスとアリ・ヌールの物語”からの続きです。

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むかし、ダマスにアイユーブという豪商がいて、彼にはガネム・ベン・アイユーブ・エル・モティム・エル・マスルーブという息子と、その妹フェトナーという娘がいた。
ガネムが若いときに父アイユーブは亡くなったが、ガネムは一人バグダードに行き商売を始め大儲けした。
ある日、ガネムは町の外の葬儀に参列したが、夜遅くなり城門が閉まり町に入れなくなったため、墓場で夜明かしをしていると、3人の黒人が大きな箱を運んで墓場に近づいてきたため、木に登り隠れた。
3人は隠れているガネムの前で、互いに去勢されたいきさつ「スーダンの第一の黒人宦官サワーブの物語」と「スーダンの第二の黒人宦官カーフルの物語」「スーダンの第三の黒人、宦官バキータの物語」をして休憩した後、穴を掘って箱を埋めて帰って行った。

【スーダンの第一の黒人、宦官サワーブの物語】
おれはある武将の奴隷だったが、そこには娘がいて、おれたちは一緒に育った。
おれが十二歳娘が十歳のとき、いつものようにふざけあっていると、もののはずみでおれは娘の処女を奪ってしまう。
母親はそれをひたかくし、娘を床屋へかたづけることにしたが、婚礼の日にその床屋は俺の睾丸を切り落とした。
おれはそのまま床屋の奴隷になり、娘とふざけあって過ごした。
なぜなら陰茎は残っていたからな!
そして娘や家族たちが死ぬとおれは遺産を受け取り、御殿にあがって宦官になったのだ。

【スーダンの第二の黒人、宦官カーフルの物語】
おれは嘘の名人だが、嘘をつくのは一年にいちどと決めていた。
主人の商人はその日宴会をひらいていて、おれに荷物をとりにいかせるが、おれは家の者に主人が生き埋めになって死んだと報告する。
おかみさんたちは喪のしるしに家の道具類をうちこわし、おれはそれに乗じて家そのものをぶちこわした。

奉行のところに立ち寄ったおかみさんたちと別に、先に主人のもとに帰ったおれは、家の下敷きになって家族がすべて死んだと報告する。
しかしそこへおかみさんたちが現れて、おれの嘘が露見した。
主人はたいそう怒り、おれを去勢して市場で売り飛ばした。
それからおれは嘘をつきながら複数の家を渡りあるき、最終的に御殿にあがって宦官になったのだ。

【スーダンの第三の黒人、宦官バキータの物語】
おれが話すのは女主人とやってその息子を犯した話だが、それはちょっと長くなる。先に仕事をすませてからすることにしよう。

三人の宦官は、もってきていた大きな箱を埋めて立ち去った。
ガネムが箱を掘り出すと、中では美しい乙女が麻酔薬で眠らされている。
目を覚ました乙女の求めにしたがい、ガネムは彼女を家に連れ帰った。

ふたりは愛し合うようになるが、乙女は最後の一線だけは譲ろうとしない。
わけを聞くと、乙女は教主(カリーファ)ハールーン・アル・ラシードの寵姫クワト・アル・クールーブで、その寵愛を妬んだゾバイダ妃に恨まれ、麻酔薬を飲まされ、箱に入れられ、埋められたのだった。
それを知るとガネムは、教主への畏れのためすっかりかしこまってしまい、それからはクワト・アル・クールーブの誘いに答えなくなる。
一方ゾバイダ妃は事件の発覚をおそれ、クワト・アル・クールーブは死んだということにして、人形を使って葬儀をおこなった。
教王はクワト・アル・クールーブが死んだと騙され、嘆き悲しんだが、女奴隷のおしゃべりから、生きていることを知った。
教主は、ガネムの家を襲わせてクワト・アル・クールーブを取り戻し、これを一室に閉じ込めた。
教王は、ガネムが手を出したと誤解して、兵を送りガネムを捕らえようとするが、ガネムは無一文で逃げ延びた。
また、教王はダマスの太守に文を送り、ガネムの母と妹を全裸にして町から追放するよう命じ命令は実行された。
家から脱出したガネムは窮乏して病にかかり、数ヶ月後にバクダードの病院へ送られてきたが、親切な市場の長老が彼をひきとって療養させる。

クワト・アル・クールーブはガネムが手を出していないという真相を教王に教え、クワト・アル・クールーブの純潔を知った教主は、彼女の求めに応じ、ゆくゆくガネムと結婚することと、じきじきに彼を捜索することを許可する。
クワト・アル・クールーブは市場の長老の訪ね、異国の若い男がいることを知るが、病のためやせ細った彼をガネムであると気づかなかった。
さらに長老が窮乏した母娘を連れてくると、それはガネムの母と妹であることがわかった。

三人がガネムのまわりで話をしていると、やっと彼らは寝ている病人がガネムであると気づく。そして一同は教主の前に招かれた。
ガネムは教王に謁見し、クワト・アル・クールーブと結婚する許しをもらい、フェトナーは教王の側室となり、教王の庇護のもと4人は幸せに暮らした。

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次回は、オマル・アル・ネマーン王とそのいみじき二人の王子シャールカーンとダウールマカーンとの軍物語です。

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