日本の着物文化には、染織にみられる伝統の技が凝縮されています。
染織自体は工芸・工業に属しているものですが、優れたものは手工芸品としてだけでなく美術品として認識される、高度な技巧を駆使した独特の伝統文化といえるのです。
今回は、そんな染織についてです。
染織は大別すると、布を染める染物と布を織る織物で成り立っています。
ざっと整理してみましょう。
【染物の種類】
友禅染
京友禅はもち米粉などを使用したノリで輪郭をふちどりしてさらに染料を使用して模様(図柄)を描いていく。
金箔や刺繍を織り交ぜた技法では「艶やか」で「優雅」な表情が作りだされる。
京友禅は加賀へと技法が伝えられ、加賀独特の進化をした加賀友禅は京友禅よりも多く色で染色がされ「華美」ともいえる趣がある。
型染め
柿渋などを塗った和紙を重ねて乾燥させ、その和紙を彫って作った型紙を使用して、生地に染料を載せていく方法。
色ごとに型紙を使用して複数の染色を行うものもある。
絞り染
生地の染めたくない所、模様を出したい所を糸などで縛り染色を止める技法。
生地に下絵(下染め)をして絞りの加工をする位置を決めたら手で一つ一つ糸で括り、下絵を漂白した後、括った糸を抜き表面のシワ取りなどの加工をする。
藍染め
天然の染色技法の中でも最も古来より伝わる技法で、藍の茎や葉を発酵させたものを染料とする染め方。
染め液に浸けている状態から引き上げ、空気に触れた瞬間に鮮やかな色へと一瞬で変わるため、その工程を何度か繰り返すことで染めの濃さを調整することができる。
【織物の種類】
紋織
あらかじめ染めた糸を何種類も使って、たて糸とよこ糸の組み合わせを考えながら、模様を織り出していく織り方。
風通織
普通の織物の断面は一重だが、風通織はその断面がそれぞれ二重、三重になっており、多層織物を代表する織り方。
たて糸、よこ糸とも2色以上を使い、布面に現れる色数によって2色風通、3色風通、4色風通などがあり、帯地着尺地、服地、テーブル掛地などに用いられる。
綴れ織
文字どおり金銀糸やさまざまな色糸でたて糸を綴るようにした織り方。
綟り織
経(たて)糸と緯(よこ)糸を直角に交差するように織っていく平織に対し、綟り織では経糸をひねりながら緯糸の間に織り込んでいく織り方。
布面にすき間が生まれ、独特の透け味が表現されるため、搦み織ともいわれ、紗・羅・絽などがある。
経錦
種々の彩糸を駆使して紋様を織り出した織物の総称ともいわれ、織物の中では最も華麗なものの代名詞。
経糸によって地の文様も織り出されている錦を経錦という。
緯錦
金銀糸やさまざまな絵緯(紋様を表すため緯糸として用いる色糸)を用いて、美しい紋様を織りだした紋織物。
数ある織物の中で、もっとも秀麗なものの代名詞。
錦といわれる大部分がこの緯錦のことで、経錦に比してのみこの語が用いられる。
本しぼ織
経緯ともに練染した絹糸を用い、経糸は甘撚り緯糸は御召緯といって練糸を適当な太さに引揃え、下撚りをかけ糊を施し、これがまだ乾かないうちに強撚りをかけた織り方。
「しぼ」とは、糸の撚り具合で織物の表面に表れたしわのような凹凸のこと。
ビロード
特有の羽毛や輪奈をつくるため横に針金を織り込み、後で針金の通った部分の経糸を切って起毛したり、引き抜いて輪奈を作る織り方。
なめらかな手ざわりと、柔らかな光沢が特徴。
緞子
経糸と緯糸との組織点をなるべく少なくして、しかもその組織点を連続しないように分散させ、織物の表面に経糸、あるいは緯糸を浮かせた織り方。
経糸と緯糸が各五本ずつのものの表裏の組織をそれぞれ地あるいは紋に用いたものをいう。
絣織
たて糸とよこ糸を部分的に防染して平組織に織り上げて何らかの紋様をあらわしたもの。
素朴な織物の代表。
朱珍
地糸のほかに数種の絵緯糸を用いて、模様が浮き出るように織ったもの。
経(たて)糸と緯(よこ)糸を1本ずつ交互に織る平織に対して、緯糸何本か飛び越して経糸を織り込んでいく独特の方法を採用している。
繻子織の一つで七糸緞が転じたともいわれています。
紬
真綿を手紡ぎした糸を経(たて)糸と緯(よこ)糸に使用して手機で絣、縞、白などに織り上げた先練、先染めの平織り。
紹巴
経緯ともに強撚糸を用い、細かい横の杉綾状又は山形状の地紋をもつ織り方。
地は厚くなく以前はよく羽織裏などに使用されていた。
【主な織物産地と技法】
結城紬
茨城県結城市や栃木県小山市が主産地で、撚りをかけない手紡ぎ糸で織り上げた丈夫な織物。
20近い工程があり、『うち糸紡ぎ』『絣括り』『機織』の三工程は国の重要無形文化財の指定を受けた。
小千谷縮
越後麻布から始まった北国の代表的な織物で、主に夏の着物地として用いられている。
『縮』という白色の麻布を縮めたもので江戸中期からの歴史がある。
本塩沢
塩沢紬と同じように十字絣や亀甲絣など精緻な柄が特徴的な織物。
通常の7倍から8倍もの強い撚りをかけた「八丁撚糸」と呼ばれる御召糸を使う。
黄八丈
伊豆諸島の八丈島に古くから伝わる絹織物の総称。
島に自生する植物染料で染められた艶やかで深みのある色と縞や格子柄が特徴。
西陣織
京都市の北西部にある約3平方キロのエリアの呼称で、室町期の応仁の乱の際に西軍が張った陣の後であることにちなんで名付けられた。
平安期以前から織物にかかわっていたといわれ、高級な綾織や錦織、唐織などが高い技術で作られていたという。
博多織
福岡市を中心に織られている織物で、主に帯地として用いられる堅くてしなやかな絹織物。
鎌倉期に中国に渡った博多商人が技術を持ち帰ったのが始まりという。
久留米絣
木綿絣の代表的な織物で、藍の濃淡と白の清々しいコントラストで知られる。
福岡県久留米市や筑後市が主産地で、江戸後期に12歳の井上伝が『藍染め』の白い斑点に興味を抱いたのが始まりという。
本場大島紬
奄美大島が主産地で、一説によれば1500年の歴史があるといわれるが盛んになったのは江戸期のことで、精緻な『絣柄』と「泥大島」などの『泥染』で知られる。
ソテツの葉や魚の目など奄美大島の自然を模様化した伝統的な『絣柄』が勇名である。
【着物あれこれ】
振袖
袖の袂が長い着物のことで、裾模様の黒留袖や訪問着に相当する礼装として未婚の女性が着ることが多い。
もともとは身頃と袖との間の縫い付け部分に振りのある袖を持つものの総称。
若い女性が長い袖の振袖を着るようになったのは江戸期以降のことで、そもそもはそれほど長くはなかった。
袂を左右に振ったり前後に振ったりして異性に対する自らの意思表示のサインとする風習ができたのだという説もあり、既婚女性はその必要がないということで留袖を着るようになったとのこと。
今日でも男女関係で「振る」、「振られる」、「袖にする」といった言葉にその名残があるという。
着物
原形は平安時代の“小袖”である。
弥生期での「貫頭衣」が日本の衣服の出発点といわれており、高松塚古墳の「飛鳥美人図」で知られるように飛鳥・奈良時代の衣服は明らかに大陸の影響を受けたもの。
養老3年(719)に出された「衣服令」で、衿は右を先に合わせる「右衿着装法」が用いられるようになった。
平安時代に入ると和風文化が形成されるようになり、貴族社会では日本の気候に合わせた重ね着の風習が生まれる一方、庶民は筒袖をもった小袖を着始めた。
鎌倉期に武士が進出してくると、動きやすく現実的な小袖が主流となり、江戸期ではそれが定着するとともに意匠や染色技術の発達で華やかなものも登場するようになった。
小袖は明治維新以降に初めて“着物”と呼ばれるようになったが、「丸帯」「羽織」「紋付・羽織袴」「訪問着」など現在の着物や帯に通ずる多くは江戸期に登場したもの。
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