前回、”アリ・ババと四十人の盗賊の物語”からの続きです。
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昔、バグダードの橋の上を教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシード、大臣ジャアファル・アル・バルマキー、御佩刀持ちマスルールの3人組が商人に変装して歩いていると、盲目の乞食がいたので金貨1ディナールを与えたが、乞食は殴ってもらわなければ施しは受け取らないと神に誓いを立ていると言って教王に殴るように頼んだので、教王は殴った。
さらに橋上を進むと、口が裂け両足が不自由な乞食がいたので、これにも施しを与えた。
すると、ある老人が、さらに大金の施しを与えたので、回りの人々は驚いた。
そこに、豪華な行列が通りかかり、行列は名馬に乗った王子を先頭として、駱駝に乗った2人の美しい姫たちと、インドとシナの曲を奏でる楽隊が付き従っていた。
教王たちが橋を渡り終えると、白い馬に乗り、鞭を打ってその馬を虐待している若者がいた。
教王はこれらのことを不思議に思い、翌日これらの人々を宮殿に呼び、それぞれの話をさせ、「白い牝馬の主人の若者の物語」、「インドとシナの曲を奏する人々を従えた馬上の若者の物語」、「気前のよい掌の老人の物語」、「口の裂けた不具の学校教師の物語」、「橋上で頬を殴ってもらう盲人の物語」が語られた。
教王は感動し、橋上で頬を殴ってもらう盲人と、口の裂けた学校教師に毎日10ドラクムを与えることとし、白い牝馬の主人、インドとシナの曲を奏する人々を従えた馬上の若者、気前の良い老人には、身分に応じ厚く処遇した。
【白い牝馬の主人の若者の物語】
その若者の名はネーマーンと言い、父の遺産のため裕福であったが、普通に結婚した場合の妻方との面倒な親戚づきあいを嫌い、奴隷市場で女を買って妻としようとした。
奴隷市場には金髪碧眼の美しい白人女がいて、一目ぼれしてしまい、その女を買って家に連れ帰った。
女とは言葉が通じず、また、女は食事に米を数粒しか食べなかった。
女を驚かせぬよう、数日は別々の部屋で寝た。
ある夜、ネーマーンが目を覚ますと、女が音もなく走って家を出て行くのが見えたので、後をつけると、女は町の外の墓場まで行き、そこにいた仲間の白人と墓を暴いて死体を食べ始めた。
ネーマーンは隠れて見ていたが、女に見つかり、魔法で犬にされてしまった。
犬にされたネーマーンは町のパン屋に保護されたが、ある日、パン屋の客が贋金を使ったのを見抜いたので、贋金を見分けられる犬ということで町の評判になった。
すると、上品な老婦人が来て、犬のネーマーンに着いて来るように言い、老婦人の家に行くと、そこの娘が正体を見抜き、魔法を解いて人間の姿に戻してくれれた。
ネーマーンは白人女を白馬にする魔法をその娘から教えてもらい、家に帰り、教えてもらった通り魔法の呪文を唱えた水を白人女に掛けて、白馬に変えた。
それ以来、ネーマーンは白馬にした白人女を毎日虐待しているのであった。
ネーマーンは魔法を解いてくれた娘と結婚して幸せに暮らした。
【インドとシナの曲を奏する人々を従えた馬上の若者の物語】
若者は昔、バグダードの貧しいきこりであったが、妻がとんでもない悪妻で、常に夫である若者の悪口ばかりを言い続けていた。
ある日、切った薪を縛る縄が擦り切れたので、縄を買う金を出すよう妻に言うと、妻は夫を長い時間罵り、金を渡すと無駄遣いするに違いないと言って、市場まで付いて来て、さんざん値切って縄を買った。
妻はさらに罵りながら山まで夫に付いて来た。
夫は、妻の際限ない悪口に心休まる気持ちがせず、一計を案じ、山の中の古井戸を指して、「実は井戸の底に宝があり、それを取るために縄を買った。
」と妻に言った。
妻は自分が宝を取りに行くと言って聞かず、縄の一端を夫に持たせて井戸を降りていったが、夫は妻が井戸の底に降りると、縄を井戸に投げ捨て、妻が井戸から上がって来れないようにし、心安らかに樵の仕事をし、家に帰った。
しかし、2日すると罪悪感を感じたので、新しい縄を井戸に降ろし、妻に登ってくるよう声を掛けたが、縄を引き上げると、何と魔神(ジン)が縄をつたって出てきた。
魔神が言うには、2日前にとんでもない女が井戸に降りてきて、悪口を言い続け、心休まる気がせず、たまらず長年の住処の井戸から逃げて来たということであった。
魔神は、お礼がしたいと言い、インドの国の王女の体に入って王女を精神病にするので、インドに来て王女を治すようにと言って消えた。
若者がインドに行くと、王女は14歳3ヶ月の美しい盛りの乙女で、精神病になっており、治した者は王女と結婚できるということになっていた。
若者が娘を診ると、魔神は王女の体から出て行き、王女の病気は治った。
若者は王女と結婚した。
しばらくすると、シナの国から使者が来て、シナの国の王女も14歳3ヶ月の美しい盛りの乙女だが、同じ精神病の症状が出たので、若者に診て欲しいというものであった。
若者がシナに行くと、王女には例の魔神が憑いていたが、若者が魔神に出て行くように言っても、魔神はシナの王女の体が気に入っていると言い、出て行かなかった。
そこで若者は「あの女が井戸から抜け出し、すぐ近くまで来ている」と言うと、魔神は悲鳴を上げ、王女の体から抜け出し、どこかへ行ってしまった。
こうしてシナの王女の病気は治り、若者はシナの王女を第2の正妻とした。
若者は故郷バグダードをもう一度見たいと思い、2人の妻とインドとシナの楽隊を連れてバグダードに来たのであった。
【気前のよい掌の老人の物語】
老人の名はハサンと言い、バグダードの貧しい縄作りであった。
ある日、裕福なシ・サアードとシ・サアーディが、金持ちになるためには元手が必要なのか、元手がなくてもアッラーの思し召しにより金持ちになったり貧乏になったりするのかを議論しながら歩いて来て、ハサンを目にして、ハサンに金を渡し、それを元手に金持ちになるかどうかを実験してみようということになり、シ・サアードはハサンに200ディナールを渡した。
ハサンは、生まれて初めて大金を手にして、盗まれては大変と、10ディナールを手元に残し、残り190ディナールをターバンの中に隠したが、鳶が飛んできて、ターバンを掠め取って行ってしまった。
ハサンに残った10ディナールは瞬く間に生活費に消えてなくなり、10ヵ月後、シ・サアードとシ・サアーディが様子を見に来た時は、ハサンは貧しいままであった。
シ・サアードは事情を聞き、もう一度ハサンに200ディナールを与えて実験してみることになった。
ハサンは10ディナールを手元に残し、残り190ディナールを布に包み糠の入った甕に隠したが、事情を知らない妻が甕を行商人の髪洗い用粘土と物々交換してしまった。
甕がなくなったことを知ったハサンは妻を責めたが、逆に「なぜ隠したことを言わなかったのか」と妻に散々愚痴を言われることになっただけであった。
ハサンに残った10ディナールは瞬く間に生活費に消えてなくなり、10ヵ月後、シ・サアードとシ・サアーディが様子を見に来た時は、ハサンは再び貧しいままであった。
今度は、シ・サアーディが、ハサンに、道で拾った何の価値もない鉛の玉を与え、様子をみることになった。
その晩、隣の漁師の奥さんが来て、漁師の網の錘が一つなくなり困っているが、代わりに使えるような物を持っていないか聞いて来たので、ハサンは鉛の玉を渡した。
すると、翌朝、漁師は最初の一網で取れた大きな魚を鉛の玉のお礼として持ってきた。
ハサンの妻が魚を裁くと、魚の腹からガラス玉が出てきた。
その玉は夜の暗闇でも光を放つ玉であった。
すると、近所に住む宝石商のユダヤ人の妻が来て、10ディナールで売って欲しいと言ってきた。
ハサンが断ると、ユダヤ人宝石商本人が買いたいと言ってきた。
ハサンが断ると、ユダヤ人宝石商は値をつり上げ、ついに10万ディナールで売買が成立した。
ユダヤ人宝石商は玉を買った後で、これはスライマーン・ブニ・ダーウドの王冠の宝石の一つだと言った。
ハサンは、得た10万ディナールの大金はアッラーの贈り物であり、アッラーの意に沿うよう人々のために使おうと考え、貧しい縄作りたちの生活を安定させるために、縄を一定の価格で無制限に買い上げることにし、縄作り組合で発表した。
おかげで縄作りたちの生活は安定したが、それ以上にハサンは買い上げた大量の縄を市場で売ることで利益を上げた。
こうしてハサンは大金持ちになった。
そこへシ・サアードとシ・サアーディがハサンの様子を見にやって来て、ハサンのあまりの変わり様に大変驚いた。
そこに、子供たちが鳶の巣を取って遊んでいたが、よく見るとそれはハサンのターバンであり、中から190ディナールが出てきた。
さらに、ハサンの家の奴隷がその日市場で買った甕が、以前ハサンが失った甕で、中から布に包まれた190ディナールが出てきた。
こうして、シ・サアードとシ・サアーディとハサンは、金持ちになるのも金を失うのもアッラーの意のままであることに納得した。
こうしてハサン老人は、得た金を貧しい人々に使い続けたのであった。
この話を聞いたとき、教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシードは、宝蔵からスライマーンの宝石を持って来させて一同に見せ、スライマーンの宝石はユダヤ人宝石商が入手したその日のうちに、教王の宝蔵に入ったことを一同に伝えた。
【口の裂けた不具の学校教師の物語】
その男は、以前学校教師であり、厳格に生徒たちをしつけていたが、あまりの厳格さのために、生徒たちは嫌がっていた。
ある日生徒たちが、教師である男に向かい「先生の顔色が悪い」とあまりに言うので、横になり休むことにした。
すると級長が来て、「病気の先生のために募金をしました」と80ドラクムの金を渡してくれたが、それは1日分の給料より高いものであった。
次の日以降も同じことが1週間続き、男はすっかり休んで儲けることが気に入ってしまった。
その間生徒たちは自由にしていた。
そのようなある日、男がゆで卵を食べようとしているところに級長が来たので、元気になったと思われては募金がもらえなくなると思い卵を口の中に隠したが、卵の熱さに口の中が火傷してしまった。
級長は卵で膨れた頬を見て、「大きな腫れ物がつらそうなので、膿を出しましょうと」針金で頬を刺し、火傷と刺し傷で本当に腫れ物ができてしまった。
床屋を呼んで治療させたが、口が裂けてしまった。
また、男は生徒たちに、誰かがくしゃみをすると両腕を組んで「祝福あれ。祝福あれ。」と言うようにしつけていた。
生徒たちと遠足に行ったとき、古井戸があったので、ロープを生徒たちに持たせて井戸に降りて水を汲んで来ようとしたが、途中でくしゃみをしたため、生徒たちがロープを放し、両腕を組んで「祝福あれ。祝福あれ。」と言ったので、井戸の底に落ち、男は両足が不具になってしまったのであった。
【橋上で頬を殴ってもらう盲人の物語】
その男は、ババ・アブドゥッラーといい、80頭の駱駝を所有する駱駝曳きであった。
ある日、ババ・アブドゥッラーは修道僧と知り合いになり、修道僧の知っている秘密の宝を取りに行くことになった。
ある岩山に着き、修道僧が秘儀を行うと、岩山が割れ、中には無数の金銀宝石があり、とても80頭の駱駝に積める量ではなく、金銀はあきらめ、高価な宝石だけを駱駝に積めるだけ積んだ。
修道僧は小さな金の壷を懐にしまった。
積めるだけ積んだので岩山を出ることになり、修道僧は宝を40頭ずつ分けようと提案した。
ババ・アブドゥッラーは欲が出て60頭を要求し、交渉の結果、一旦はそれで話がまとまった。
しかし、さらに欲が出て今度は70頭を要求し、再度の交渉の結果、70頭で話はまとまった。
しかし、さらに欲が出て今度は80頭全部を要求し、再度の交渉の結果、80頭で話はまとまった。
ババ・アブドゥッラーは、修道僧が懐にしまった金の壷に大変な価値があるに違いないと思い修道僧に聞くと、修道僧は「この壷には煉り脂が入っており、左目の瞼に塗れば地中の宝が見えるようになるが、右目の瞼に塗ると両目がつぶれて見えなくなるものだ。」と答えた。
ババ・アブドゥッラーが左目の瞼に塗ってもらうと、確かに地中の宝が見えるようになった。
ババ・アブドゥッラーは、これを右目の瞼にも塗れば、もっとすごいものが見えるに違いないと思い、修道僧が止めるにもかかわらず、修道僧に右目の瞼にも塗ってもらったところ、言われた通り両目が見えなくなってしまった。
修道僧は80頭の駱駝を曳いてどこかに行ってしまった。
残されたババ・アブドゥッラーは、たまたま通りかかった隊商に助けられ、バグダードまで来た。
それ以来、ババ・アブドゥッラーは自分の強欲を恥じ、施しをもらうたびに頬を殴ってもらうようにしているのであった。
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次回は、スレイカ姫の物語です。