呻吟語より学ぶ!修己治人。己を修め人を治む書!

儒学は”修己治人”己を修め人を治む”の学だと言われています。
つまり、人を治める立場の者はなによりもまずそういう立場にふさわしいように己を修め、自分を磨く必要があるということですね。
そういった意味では”呻吟語”は、人間とはどうあるべきか、人生をどう生きるべきかなど、われわれにとって切実な問題をさまざまな角度から解き明かしている書物です。

”呻吟語”は、明の時代の陽明学者・呂坤(字は叔簡。呂新吾ともいわれますが新吾は雅号です)が30年に及ぶ長年に亘って良心の呻きから得た所の修己知人の箴言を書き記し収録した、全6巻で内篇・外篇に分かれ17章から成る自己練磨・革新と修養の哲学書です。

呻吟は嘆きうめくという意であり、呻吟語を貫く思想は以下の二つの言葉に集約されています。
【深沈厚重、安重深沈】
 深:深山のごとき人間の内容の深さ
 沈:冷静沈着で毅然としていること
 厚重:どっしりとしていて物事を修めること

17章の概略は、ざっとこのような感じです。

1章 性命篇:「第一級の人物」とはどんな人間か
2章 存心篇:もう一回り大きな人間になってみろ
3章 倫理篇:人間関係は天地の法則に則って考えよ
4章 談道篇:むずかしく考えるな、単純に考えよ
5章 修身篇:「第一級の人物」になるために何をすべきか
6章 問学篇:ほんとうに役に立つ勉強とは何か
7章 応務篇:袋小路に追い込まれたら発想を転換せよ
8章 養生篇:徳にあふれた人生を生きよ
9章 天地篇:宇宙の法則に順応して生きよ
10章 世運篇:時代変化をどう見抜けばいいのか
11章 聖賢篇:真のリーダーの思考と行動とは
12章 品藻篇:第一級の人物 その品格はどこから生まれるのか
13章 治道篇:国を治め、人を治めるリーダーの条件とは
14章 人情篇:人から信頼される人間になれ
15章 物理篇:大宇宙の心理をとことん探ってみよ
16章 広喩篇:仕事ができる人間はこんな発想をしている
17章 詞章篇:いったいどんな友人とつきあえばいいのか

では、この呻吟語を大きく6つのポイントにて整理してみることにします。

【第1 人間について】
 ○道理はつねに後へ退りがち
  欲望は前へ前へと進もうとする。これに対し道理は後へ後へと退ろうとする。
  自分を錬磨しようとする者はこのことをしっかりと心に刻みこんでおかなければならない。
 ○困難な課題から先に取り組む
  まず困難な課題に取り組み、成果はあとでゆっくり楽しむ。これこそ人格を完成させ仕事を達成する第一の秘訣である。
  この方針をしっかりと肝に銘じて堅持するならば、いかように非難を浴びようとも決して動揺することはない。
  仮に一ヶ月・一年と続けても、効果はないかもしれない。
  しかし、挫けず堅持すればやがては自然に成果が期待できる。
  修行というのは段階を追って一歩づつ完成をはかり、効果があらわれてくるのをじっくりと待たねばならない。
 ○本物ほどわかりやすい
  道を深く体得している人物ほど、語る言葉、説明がわかりやすい。
  難しいことを言う人は、道を体得することが浅い。
  文章も同じで、読んでもよく意味の汲みとれない文章は、本人の理解がまだ不十分だとされても致し方ない。
 ○己を修め人を修める
  上に立つ人間は、それぞれの立場において重鎮することが必要です。
  言い換えると、以下のように表現されるようです。
   第一等の人物:その人が黙っていても何事も治まる人
   第二等の人物:あっさりしていて腹中に大きなものを養っている人
   第三等の人物:聡明で弁も立つ人
 ○男性の八つの理想的な姿
  男には八つの景色がある。
   泰山喬獄の身:泰山や高い山獄のようにどっしりと落ち着いて見えること
   海濶天空の腹:広々として海、蒼々として何の遮るものもない空のようにゆったりとした腹
   和風甘雨の色:和やかな春風、甘くてやわらかな雨のような顔色
   日照月臨の目:陽が輝き、月が照り映えているような輝きのある目
   施乾轉坤の手:天をめぐらし地を転がせるような手
   磐石砥柱の足:磐石のようにどっしりとし、砥柱の中でもきちんとたっている足
   臨深履薄の心:深渕に臨んだり、薄氷を履むときのいき届いた心
   玉潔冰清の骨:玉のように潔く、水のように清らかな骨

【第2 修養について】
 ○智愚は他なし。書を読むと書を読まざるとに在り。
 ○切れ味は内に秘める
  鋭い切れ味は、充分に磨いておかなければならないが、切れ味は内に秘めて鷹揚に構えている必要がある。
  ところが最近ではひたすら切れ味の鈍さだけを心配している。これは愚か以外のなにものでもない。
 ○過ちを指摘されたら喜べ
  自分の過ちを指摘してくれるのは、必ずしも過ちのない人だとは限らない。
  過ちのない人に過ちを指摘してほしいと願っていたのでは、一生かかっても自分の過ちを耳にする機会はない。
  相手がたとえどんな人であれ、過ちを指摘してもらえるのは、ありがたいことだと思わなければならない。
 ○重要なのは人格の完成
  広く学問を窮める。すばらしい技術を身につける。これはこれで一つの長所だと言ってよい。
  しかし、人格の形成に終わりがないのと比べれば、これらのことはある段階にまで達するとそれで終わってしまう。
  重要なのは、立派な人格の形成、これである。
  能力を身につけることに比べると、人格を磨くことは難しい。現代の日本で人格形成の面が疎かにされていやしないか?
 ○智愚・禍福・貧富・毀誉の分かれ目
  智愚の分かれ目は、本を読むか読まないかにある。
  禍福の分かれ目は、善を実行するかしないかにある。
  貧富の分かれ目は、勤勉であるかないかにある。
  毀誉の分かれ目は、思いやりがあるかないかにある。
 ○相手の人物如何は問わない
  発言を聞き行動を観察することは、相手の人物を判断するポイントである。
  発言には耳を傾けるが人物如何は問わないのは、自分を向上させるポイントである。
  そもそも相手の発言に耳を傾けるのは、自分にとってプラスになるからである。
  自分にプラスになるならば、相手の人物がどうあろうと、いっこうに構わないことを知るべきである。
 ○発言に説得力をもたせる秘訣
  発言に説得力をもたせる秘訣は、普段から人に信頼される行動をすることである。
  そうでなかったら、せっかく発言してもかえって禍のタネになる。
 ○才能や学問の使い方を誤るな
  一人前の社会人として、才能もなく学問もないというのは、褒められたことではない。
  しかし、才能もあり学問もあるというのは、逆にまた心配のタネである。
  才能や学問を身につけるのは難しいことではないが、それを使いこなすことは難しい。
  才能や学問を重視するのは、社会人として世に出るためであって、それを鼻にかけるためではない。
  社会のために役立てるためであって、人にひけらかすためではない。
  才能や学問とは剣のようなもので、それが必要とされるときには使うが、そうでなかったら鞘におさめておいて人に見せびらかさない。
  やたらに振り回せば必ず禍の原因となるので、気をつけなければならない。

【第3 処世について】
 ○世に処するには、ただ一の恕の字。
 ○仕事を処理・進める四つの重要なポイント
  一、好機と見たら、断固決断することが望まれる。弱気になってはならない。
  二、辛抱すべきときには、あくまで我慢に徹することが望まれる。腰くだけになってはならない。
  三、ものごとの処理は、思慮深く沈着であることが望まれる。浅はかであってはならない。
  四、変化への対応は、機敏であることが望まれる。手遅れになってはならない。

【第4 人品について】
 ○必要なのは実践
  実際に問題にぶつかってみないと、自分の能力などたかが知れていることに気づかない。
  問題にぶつかるたびに、知識が増え能力が磨かれていき、実践体験を積んで経験となるのである。
  実践体験に欠ける人物は、ただ理屈を説いているに過ぎず、知識も生きた智恵として働かない。
 ○どちらの道を選ぶのか
  天下が治まるかどうか、人民が生きていけるかどうか、国家が安泰であるかどうかは、われわれ指導者が天下国家のための道を選ぶのか、わが身の地位や収入を増やすだけの道を選ぶのかにかかっている。
 ○大体を知る
  人材登用の権限を握っている者は、大局的な判断力を身につけていなければならない。
  こざかしい知識で人間を評価すれば、すばらしい能力をもった人物をすべて見落としてしまう恐れがある。
  なぜか。大きな問題を処理できる者は小さな問題の処理を苦手にしているし、長期的な計画を得意にしている者は小さな才能には欠けている。
  また、重大な任務を遂行できる者は目先の対応を苦手にしている。
  さらに、頭が切れて柔軟かつ機敏な対応を得意としている人物、礼儀正しく見聞の広い人物などは、重大な危機に立たされたときにはあまり役には立たない。。
  大体を知るためのポイントは、以下の2点である。
   一、細部にとらわれない大局的な判断。
   二、一方にとらわれないバランス感覚。

【第5 治道について】
 ○不必要な介入を避ける
  政治のコツは、
   民生を安定させようと思うなら不必要な介入を避けること
   与えたいと思うなら取り立てないこと
   プラスを生みたいと思うならマイナスを出さないこと
  である。
  また、衰えた活力をよみがえらせようとするなら、流れに逆らうようなムリ押しは避けなければならない。
 ○自然の流れを誘導すること
  人間には五つの性情があるが、これらはみな自分にとってプラスになることから生じてくる。
  一、利益を見ると飛びつく。
  二、美人を見ると愛情を抱く。
  三、飲食を見ると貪る。
  四、安逸を見ると身を置く。
  五、愚者や弱者を見ると欺く。
  プラスになれば、あえて上達しようとしなくても自然に上達するが、悪事にしても増やそうとしなくても自然に増える。
  プラスになることを禁止するのと、プラスにならないことを強制するのとは、難しさの点で同じである。
  何事も自然の流れに逆らってもうまくいかないため、自然の流れを見極めながらうまく誘導することが政治のコツである。
 ○生かすために殺す
  聖人が人を処罰するのは、処罰そのものをなくすことが狙いであった。
  それゆえ、処罰すべきときには断固処罰し、あえて姑息な手段を弄さなかった。
  結果、ごくわずかな人間を処罰しただけで、大勢の人間を活かすことができたのである。
  ところが後世では、処罰をためらうようになった結果、逆にますます処罰を増やしている。
  ごくわずかな人間を処罰するに忍びず、その結果として天下に悪をはびこらせている。
  つまり、処罰すべき人間を放置したままにすることによって、関係ないものまでが大勢処罰される羽目に陥っている。
  後世の人民が大勢処罰に処せられるのは、上に立つ者の小さな思いやりが仇となっている結果である。
  上に立つ者には”仁”(思いやりの心)がなければならないが、小さな仁では余計に政治の根幹を歪めてしまう。
 ○一人の失敗に懲りて
  偶然の事件に触発されて変更のできない法律をつくり、一人の失敗に懲りて天下の人々を苦しめる。
  これ以上おかしな法律はない。
  ”羮に懲りて膾を吹く”ともいう。
  政治のバランス感覚が問われるのは、こういう問題に対応するときである。
 ○法律が多くなると
  礼儀も規定が煩くなると、却って実行され難くなり、ついには捨てて顧みられなくなる。
  法律もやたら数が多くなると、却って破られやすくなり、法破りの重罪ばかり増えてくる。
  ”天下に忌諱多くして、民いよいよ貧し。法物ますます章かにして、盗賊あること多し”(老子)
 ○極点に達すると反動がくる
  暑さが退こうとするときには、一瞬かっと熱くなる。
  夜がまさに明けようとするときには、一瞬すっと暗くなる。
  球を勢いよく壁に投げつけると、ぽんと手もとにはね返ってくる。
  このように、物事は極点にまで達すると必ず反動が起こし、そこまで達しなければ反動は起こらない。
  愚者は、極点に達したことを喜ぶが、智者はむしろその反動を恐れる。
  従って、天下の乱れが極点に達するのは好ましいことである。
  泰平が極点に達した状態こそ、むしろ恐れるべきである。
 ○進言のコツ
  上級者に進言する場合に、難しいことが四つある。
   一、相手を知ること。
   二、自分をわきまえること。
   三、問題を把握すること。
   四、時期を誤らないこと。
  このうちの一つでも欠けていたのでは、成功しない。

【第6 人情について】
 ○批判には余地を残す
  人を批判する場合には、相手に5割の過ちがあっても、批判はそのうちの3,4割程度にしたほうがよい。
  そうすれば、相手も恐れ入って素直に耳を傾け、つまらぬ弁解もしないであろう。
  もし5割をそのままで批判すれば、こちらの度量の狭さをさらけ出すばかりか、相手を救う目的も達することができない。
  更に、それ以上の批判をしたならば、相手に弁解の口実を与えることになる。
  相手は、想定を超えたことによって元々の5割のことまで含めて弁解するし、批判した方も結果5割のことまで無効にしてしまう。
  厳しさが過ぎると必ず反発が起こるので、人を批判する場合にはこのことをくれぐれも戒めなければならない。
  批判に際しては、余地を留める配慮が望まれる。
 ○相手の立場になって考えてやる
  相手に思いやりを示すのに、六つの場合がある。
   一、見識がまだ不十分だったのではないか。
   二、見聞したことが、実情とズレていたのではないか。
   三、力量が足りなかったのではないか。
   四、心に何か人知れぬ悩みがあったのではないか。
   五、どこかに気持ちのゆるみがあったのではないか。
   六、何か別の考えをもっていたのではないか。
  この六つの思いやりを優先させ、それでも相手が言うことを聞かず、教えても態度を改めなかったら、初めて処罰する。
  上に立つ者は、相手を責める前に教えることを優先させ、相手を怒る前に理解することを優先させることを基本的な心構えとしなければならない。
 ○相手の能力を引き出す
  象は大量の水を飲み干せるが、鳥はわずか数滴の水しか飲むことができない。それで象も鳥も腹一杯に飲んでいる。
  牛や馬は大量の荷物を引くことができるが、蟻はわずかな量しか運ぶことができない。それで牛馬も蟻も全力を尽くしている。
  人を使う場合には、相手がそれぞれの長所を発揮できるように仕向け、、決して同じような実績を期待してはいけない。
  人間の能力には違いがあるので、人材の育成時にも同じ型に嵌め込むんではなく、それぞれの能力を引き出す配慮が望まれる。
 ○譲れば争いは起こらない
  二つの物がぶつかれば、必ず音を立てて壊れる。
  二人の人間が交われば、必ず争いが起こる。
  音を立てて壊れるのは、両方とも固いからであり、両方とも柔らかいなら、音も立たず壊れることもない。
  また、一方が固くても他方が柔らかいなら、やはり音も立たず壊れることもない。
  争いが起こるのも同じではないか。
  双方とも譲るなら争いは起こらないし、一方が欲深でも他方が譲るならこれまた争いは起こらない。
  それよりもさらに望ましいのは、柔らかいほうが固いほうを軟化させ、譲ったほうが欲深い相手を感化させることである。

こうした分類を元に、呻吟語のエッセンスを抽出してみることにします。

まずは、人として持つべき人格について、その形成の方法と心身の鍛錬法における心得です。

【人生の心得八カ条】
1.奮始怠終は修業の賊なり
 初心を最後まで貫徹する。

2.躁心浮気は蓄徳の賊なり
 やろうと思ったら集中せよ。

3.疾言厲色は処衆の賊なり
 憎しみ、怒りの心を捨てよ。

4.大事・難事には担当を看る
 大きな難題に立向かう時、真の能力が表れる。

5.逆境・順境には襟度を看る
 人生の順調、不調の時こそ、真の人格が表れる。

6.臨喜・臨怒には涵養を看る
 喜びや怒りの感情は思いのまま表しても、その心の奥は感情に囚われない。

7.群行・群止には識見を看る
 組織による行動、個人の行動には判断力が問われる。

8.精神爽奮すれば則ち百廃倶に興おこる。肢体怠弛すれば則ち百興倶に廃すたる
 ”やるぞ! ”と気持ちを切り替えよ。

次は、道を志すものが持つべき七つの見識についてです。

【人生に必要な七つの見識】
1.人情の識 - 感情と知性の調和
 人情の本義は「人間として自然に備わっている心の動き」のことである。
 人は単なる知性の存在ではなく複雑な感情・人情を保有しているため、その感情の本質を理解することが「人情の識」である。
 これには人生経験を積む必要があるが、人情という感情と知性をどのように調和させるかが大事であり、そこから生きる知恵が生まれる。
 人情と長幼の序は決して相反するものではなく、人間知の有効活用に資するものがある。

2.物理の識 - 現象に対応する知恵
 物理とは、物事の理のこと、物事の本質の理を知ることである。
 人が加えた歪みを見抜き、本質に迫る識見であり肝腎な識である。
 寒暑の自然を逆らわず受容して生命力を発展させるのが修行である。

3.事体の識 - 本質の把握
 物事の本質を洞察する識であり、表面現象ではなくその深奥にある本体の把握である。
 その現象が依拠する本質の把握であるため洞察力が肝要で、さもないと表面現象に右往左往し惑わされてしまう。

4.事勢の識 - 変化を見抜く思索
 物事は必ず変化し、エネルギーがあり、固定不動は有り得ない。
 それは機械的、論理的に動かない、微妙なエネルギーの動きを的確にとらえる洞察見識である。

5.事変の識 - 変化の方向性把握
 物事のエネルギーがどう変化し、どの方向に向かうのかを的確に把握する、事変の識である。
 法則性のない中で深い見識と洞察力の識である。

6.精細の識 - 部分精査
 変化する事変に内在するエネルギーがどう動くか、部分現象から方向性を詳細に精細に知る識である。
 大胆な全体像の中からこれまた見抜く識の涵養が必要である。

7.潤大の識 - 全体把握
 潤大とは広く大きいこと。精細な見識を持ちながら部分や末節に拘泥せず、広く全貌を把握する識である。
 変化するエネルギーとその方向性を認識しつつ、大勢を把握し決断して行動することが肝要であり貴い。

次は、行動する人の基本的な心得についてです。

【難関を突破する行動力】
◎四つの難
 人に真実を認識する見識を伝えるには4つの難関があり、それをクリアすることである。
1.人を審(つまびら)かにする。
 、多彩な知識があったとしても、相手をよく見て伝えかねればならぬ。
2.己を審かにする。
 自分はどういう人間であるかということを知っておくことが必要。
 耳学問で己に似つかわしくない放言をしてみたところで、相手に通じるはずはない。
3.事を審かにする。
 事を内容をしっかり取られること
4.時を審かにする。
 何事にも時、時機というものがあって、それを逸するとかえって害をおよぼすことがある。

この四つのうち一つでも、はっきりできなければ、事はかならず成功しない。

◎明白簡易
 事を行うには、明白簡易の四字を実行しなければならない。
 つまり、誰が見てもわかりやすく問題の道筋を整理し、提示することである。
 それによって、問題の所在や解決の方向性が的確に把握でき、速やかに対応することができる。

ざっとこんなところでしょうか。
呻吟語を読むことで、直面する問題についての多くの示唆を汲みとる手助けとなるやにしれません。
この中のひとつでもいいので、あなたの助けになれば、と思います。

以下、呻吟語原文の一部を参考として添付しておきます。

■ 深沈重厚なるは是れ第一等の資質、磊落豪雄なるは是れ第二等の資質、聡明才弁なるは是れ第三等の資質。
■ 此の心は、虚なるを貴ぶ。
■ 心は、従容自在にして有無の間に活発ならんことを要す。
■ 怨む可く・怒る可く・弁ず可く・訴ふ可く・喜ぶ可く・愕く可きの際に當りて、其気甚だ平かなるは、これは是れ多大の涵養なり。
■ 胸中只だ一の恋の字を擺脱すれば、便ち十分に爽浄、十分に自在なり。
■ 躁心・浮気・浅衷・狭量、此八字は徳に進む者の大忌なり、此八字を去るには静を主とす。
■ 寧耐は是れ事を思ふ第一の法なり、安祥は是れ事を処する第一の法なり、謙退は是れ身を保つ第一の法なり、涵容は是れ人を処する第一の法なり、富貴・貧賤・死生・常変を度外に置くは是れ心を養ふ第一の法なり。
■ 我心を去らんことを要せば、須らく時々に這この念頭は是れ天地万物たるか、是れ我たるかを省察せんことを要すべし。
■ 疑を蓄たくわふる者は真知を乱り、思を過ごす者は正贋に迷ふ。
■ 心は何を以って存する、曰く、只だ静を主とするに在り、只だ静にし了れば千酬萬応都て道理の上に在り、事々錯あやまらず。
■ 軽薄の心を脱し尽くせば、便ち天徳に達す可し。
■ 悪を悪にくむこと太はなはだ厳しきは便ち是れ一に悪なり、善を楽しむこと甚だ亟すみやかなるは便ち是れ一の善なり。
■ 豆を種ううれば其苗は必ず豆なり、瓜を種ううれば其苗は必ず瓜なり。
■ 情連なり志通ずれば、則ち万里の外も猶ほ堂を同じくし、門を共にして肩を比べ榻しじを一にするが如きなり。
■ 隔の一字は人情の大患なり、故に君臣・父子・夫婦・朋友・上下の交わりには務めて隔を去る。此字去らずして、而も怨み叛かざる者は未だ之れ有らざるなり。
■ 子弟、富貴の家に生まれたるは、十の九は驕惰きょうだ淫?いんいつ多く、大いに長進せず。
■ 言を慎むの地は、惟これ家庭を要かなめと為す。
■ 閨門の中(家庭内)、此の礼の字を少かき了をはれば、身亡ほろび家破るること皆此れより起る。
■ 曲木は縄たださるるを悪にくみ、頑石は攻めらるるを悪にくむ、善を責むるの言は慎まざる可らざるなり。
■ 道は是れ第一等、徳は是れ第二等、功は是れ第三等、名は是れ第四等。
■ 世の欲を悪あくは窮り無く、人の精力は限かぎり有り、限かぎり有るを以って窮り無きと闘へば則ち物の人に勝つこと、啻ただに千万のみならず、之を奈何ぞ病み且つ死せざらんや。
■ 天下の治と乱は、只だ相責めるか各々尽すかの四字にあり。
■ 生成は天の道心、災害は天の人心なり、道心は人の生成、人心は人の災害なり。
■ 大事・難事には擔たん当とうを看、逆境・順境には襟度きんどを看、喜に臨み怒に臨みては涵養を看、羣ぐん行こう・羣止ぐんしには識見を看みる。
■ 其心を大にして天下の物を容れ、其心を虚しくして天下の善を受け、其心を平かにして天下の事を論じ、其心を潜めて天下の理を観、其心を定めて天下の変に応ず。
■ 我得れば人必ず失ひ、我利あれば人必ず害あり、我栄あれば人必ず辱あり、我美名あれば人必ず婢色有り。
■ 心は愈々操れば愈々精明に、身は愈々労すれば愈々強健なり、但だ自おのづから過ぐ可からざるのみ。
■ 君子は、自ら知り自ら信ずるを貴ぶ。
■ 智愚は書を読むと書を読まざるとに在り、禍福は善を為すと善を為さざるとに在り、貧富は勤倹なると勤倹ならざるとに在り、毀誉は仁恕なると仁恕ならざるとに在り。
■ 恭敬謙謹は有心の善なり、狎侮傲凌は有心の悪なり。
■ 自ら是とし自ら私するは己の為にするに似たり、其の実は己を害すること更に甚だし。
■ 万物は、足るを知るに安く、厭あく無きに死す。
■ 我を毀るの言は聞く可し、我を毀るの人は必ずしも問はざるなり、我聞きて之を改めば是れ又一の業を受けざるの師を得るなり。
■ 精明は世の畏るる所なり、而るに之を暴あらはす、才能は世の妬む所なり、而るに之を市うる、没せざるかな。
■ 蝸かたつむりは涎よだれを以って覓もとめられ、蝉は聲を以って黏もちせられ、蛍は光を以って獲らる、故に身を愛する者は赫々かくかくの名を貴ばず。
■ 大いに相反する者は大いに相似たり、此れ理勢の自然なり、故に怒極まれば則ち笑ひ、喜極まれば則ち悲しむ。
■ 智者は、命と闘はず、法と闘はず、理と闘はず、勢と闘はず。
■ 富めるは能く施すを以って徳と為し、貧しきは求むる無きを以って徳と為し、貴きは人に下るを以って徳と為し、賤しきは勢を忘るるを以って徳と為す。
■ 其の善有りて彰はす者は、必ず其の悪有りて?おほう者なり。
■ 其の悪を悪むこと厳ならざる者は必ず己に悪有る者なり、其の善を好むこと亟すみやかならざる者は必ず己に善無き者なり。
■ 懶散らんさんの二字は、身を立つるの賊なり。
■ 物は全盛を忌み、事は全美を忌み、人は全名を忌む。
■ 人の過あやまちを聞くを喜ばんよりは己の過あやまちを聞くを喜ぶに若かず、己の善を道いふを楽しまんよりは人の善を道いふを楽しむに若かず。
■ 君子天道を論ずるには禍福を言はず、人を論ずるには利害を言はず、吾が性分の当に為すべきよりの外は皆心を庸もちひず。
■ 過寛は人を殺し、過美は身を殺す。
■ 我心を去り了れば、便ち是れ天清く地寧き世界なり。
■ 悟とは吾が心なり、能く吾が心を見れば便ち是れ真の悟なり。
■ 天は是れ我の天、物は是れ我の物なり、至誠の通ずる所感格せざる無し。
■ 君子は其の知る可きを知り、其の知る可からざるを知らず。
■ 学問は、心を澄ますを以って大根本と為し、口を慎むを以って大節目と為す。
■ 天地万物は其情一毫も吾が身と相干渉せざる無く、其理一毫も吾が身と相発明せざる無し。
■ 才学を貴ぶは、以って身を成すなり、以って世を済すくふなり、以って人に夸ほこるに非ざるなり。
■ 学問の要訣は只だ八箇の字有り、徳性を涵養し気質を変化す。
■ 我を除き了らざれば、学問と算し得ず。
■ 任じ難きの事に任ずるには力有りて而も気無からんことを要す、処し難きの人を処するには知る有りて而も言ふ無からんことを要す。
■ 世に処し人を処するには、言を察し色を観、徳を度り力を量る。
■ 一葉を観て樹の死生を知る、一面を観て人の病むか否かを知る、一言を観て識の是非を知る、一事を観て心の邪正を知る。
■ 天下の事を善くするには、亦通ずる者が権に当るに在るのみ。
■ 天下の事を処するには、前面に常に一分を長くし出す、此れを之れ豫よと謂ふ、後面に常に一分を餘し出す、此れを之れ裕ゆうと謂ふ。
■ 禍福の先と為る可からず。
■ 義に臨みては利害を計ること莫かれ、人を論ずるには成敗を計ること莫かれ。
■ 明白簡易、之を行ひて身を終ふ可し。
■ 勢いきおひは、智者の藉よりて以って功を成す所、愚者の逆さからひて以って敗を取る所のものなり。
■ 功なる者は、気化の賊なり、万物の禍なり、心術の蠹となり、財用の災なり、君子は貴ばず。
■ 人我を信ぜずば之を弁ずとも何の益あらん、人若し我を信ぜば何ぞ弁ずるを事とせん。
■ 人を処し・己を処し・事を処するには、都すべて餘あまり有らんことを要す餘あまり無ければ便ち救性無し。
■ 需まつに当りては久しきを厭ふこと莫かれ、久しき時と得る時と相あひ隣となりす。
■ 餘あまり有るは、事に当るの妙道なり。
■ 天下の事は意外に在るもの常に多し、衆人は眼前に事無きことを見得れば都て心を放下す、明哲の士は只だ意外に在りて工夫を做す、故に毎に万全にして後の憂い無し。
■ 君子は、才無きを之れ患ふるに非ず、善く才を用ひざるを患ふるのみ、故に惟だ有徳者のみ能く才を用ふ。
■ 識見無きの人は與ともに説話し難し、偏りたる識見の人は更に與ともに説話し難し。
■ 方厳なるは、是れ人を処する大病痛なり。
■ 天下後世の事を謀るには、最も草々にす可からず、当に深く思ひ遠く慮るべし。
■ 天下の事は、勢に乗じ時を待たんことを要す。
■ 飯は嚼かまずして就ち嚥のむこと休なかれ、路は看ずして就ち走ること休なかれ、人は擇ばずして就ち交はること休なかれ、話は想はずして就ち説くこと休なかれ、事は思はずして就ち做すこと休なかれ。
■ 前面の千里を見るには、背後の一寸を見るに若かず。
■ 誉既に汝に帰せば毀は将た安んぞ辞せん、利既に汝に帰せば害は将た安んぞ辞せん、功既に汝に帰せば罪は将た安んぞ辞せん。
■ 上士は意を会す、故に人を体するや意を以ってし、人を観るや亦意を以ってす。
■ 毀るを聞きて怒るは只だ是れ量廣からざるなり、真の善悪は我に在り、毀誉は我に於て分毫の相あひ干あづかる無し。
■ 大事に当るには、心神定まり心気足らんことを要す。
■ 富貴は家の災なり、才能は身の殃わざわひなり、聲名は謗の媒なかだちなり、歓楽は悲の藉しきものなり、故に惟だ順境に処するを難しと為す。
■ 錯あやまる処有れば更に宜しく鎮定すべし、忙乱す可からず、一たび忙乱すれば則ち相因りて錯あやまる者窮り無し。
■ 柔は剛に勝ち、訥は弁を止め、譲は争を?はぢしめ、謙は傲を伏す。
■ 易きを忽ゆるがせにすれば、則ち難きを失ふ。
■ 過ぎて人を責望するは、身を亡ぼすの念なり。
■ 時を識るは易く、勢を識るは難し。
■ 人をして畏る可からしむれば未だ之を悪にくまざる者有らず、悪にくみは毀そしりを生ず、人をして親しむ可からしむれば未だ之を愛せざる者有らず、愛は誉ほまれを生ず。
■ 視聴言動思は常に閉ぢて而して時に啓ひらくこの五閉は、生を養ひ徳を養ふの道なり。
■ 極まらざれば則ち離れず合はず、極まれば則ち必ず離れ必ず合ふ。
■ 陽極まらざれば則ち陰を生ずる能はず、陰極まらざれば則ち陽を生ずる能はず。
■ 終をはりの極きわみは始はじめと接し、困の極きわみは亨と接す。
■ 上才は為して而も為さず、中才は只だ為す有るを見る、下才は一も為す所無し。
■ 根本無きの気節は酒漢が人を毆うつが如し、酔へる時は勇なれども醒むる時は索然として分毫の気力無し。
■ 激するを以って直と為し浅きを以って誠と為すは、皆賢者の過なり。
■ 聖人は道徳を以って功名と為す者なり、賢人は功名を以って功名と為す者なり、衆人は富貴を以って功名と為す者なり。
■ 其の処することの未だ必ずしも当らざる者は必ず其の思ふことの精くわしからざる者なり、其の思ふことの精くわしからざる者は必ず其の心の切ならざる者なり。
■ 勢いきおひは、時有りて窮す。
■ 君主憂ふれば則ち天下楽しみ、君主楽しめば則ち天下憂ふ。
■ 善く威を用ふる者は軽々しく怒らず、善く恩を用ふる者は妄りに施さず。
■ 上に居るの患は、功無きを賞し罪あるを赦すよりも大なるは莫し。
■ 民を足らすは、王政の大本なり。
■ 書を印するには先づ個の印板の真ならんことを要す、陶を為つくるには先づ模も子しの好よからんことを要す、邪官を以って邪官を挙げ俗士を以って俗士を取らば国治まらんことを欲すとも得んや。
■ 賢人は只だ是れ一味、聖人は五味を備ふ。
■ 恩恵は当に餘あまり有らしむべく、威刑は窮む可からざるなり。
■ 権の在る所は、利の帰する所なり。
■ 任とは任まかするなり、其便宜に聴まかせて信任して成せいを責むるなり、若し牽制束縛すれば任に非ず。
■ 凡そ戦の道は、生を貪る者は死し、死を忘るる者は生き、勝に狃なるる者は敗れ、敗を恥づる者は勝つ。
■ 礼繁ければ則ち行はれ難く、法繁ければ則ち犯され易い。
■ 民に廉恥の心少きは上の徳の乏しきことを知るを得べく、民に敬畏の念少きは上の威光の薄きことを知るを得べし。
■ 天の君を立つるは、以って民の為めにするなり。
■ 専欲は為り難く、衆怒は犯し難し。
■ 天の将に旦あけんとするや先づ晦し、物極まれば則ち反る、極まらざれば則ち反らざるなり。
■ 窮寇は追ふ可からざるなり、遁辞は攻む可からざるなり、貧民は威おどす可からざるなり。
■ 天下動乱して多事なる時は、君子の真実なる情態を明かに知り得べし。
■ 善く世に処する者は、人の自然の情を得んことを要す。
■ 礼重ければ法軽く、礼厳なれば法恕なり。
■ 多事の秋ときに当りて、才無きの君子を用ふるは才有るの小人を用ふるに如かず。
■ 福は禍無きよりも大なるは莫し、禍は福を求むるよりも大なるは莫し。
■ 天下国家・身の敗亡するは、積漸の二字を出でず、積の微・漸の始は為めに寒心す可きかな。
■ 火の大いに灼もゆるものは烟けむり無し、水の順流するものは聲無し、人の情平かなるものは語無し。
■ 水の千流萬派は一源に始まる、木の千枝萬葉は一本に出づ、人の千酬萬応は一心に発す、身の千病萬症は一臓に根ざす、故に病は一を治めて而して千萬皆除かれ、政は一を埋めて而して千萬皆挙がる。
■ 萬事必ず故有り、萬事に応ずるに必ず其故を求む。
■ 鏡は空にして我相がそう無し、故に物を照らすこと分毫を爽たがへず。
■ 小人を処するは、遠ざけず近づけざるの間に在り。
■ 上等の手段は賊を用ふ、其次は賊を拏とらふ、其次は賊を躱た着して走る。
■ 極まれば必ず反るは、自然の勢なり。
■ 人身、内堅くして外密ならば、何の外咸か能く入らん。
■ 君子を用ふるは其才に当るに在り、小人を用ふるは其毒を制するに在り。
■ 政を為すには、門察を以って第一の要と為す。
■ 民風を変ずるは易く士風を変ずるは難し、士風を変ずるは易く仕風を変ずるは難し、仕風変ずれば天下治まる。
■ 水は以って苗を潤す、水多ければ則ち苗腐る、治を為すに一に寛なるは民の福に非ざるなり。
■ 人格者は、発言や行動の前に熟慮する!
■ 道を得ることの深き者(その道を極めている人)にして然る後に能く浅言す(話が端的で分かり易い)、深言する者(難しく話す人)は道を得ることの浅き者(その道を極めていない者)なり。
■ 疾言厲色(きつい言葉で血相を変えて怒鳴りつける)は、衆を処するの賊なり(周囲の人が付いてこない)。
■ 言を察し色を観、徳を度り力を量る、この八字は世に処し人を処するに一時も少き得ざる底なり(相手の言葉の真意を掴み、表情から心の内を読み、相手の徳性の有無を掴み力量を推察する、世間を渡り人に接する上でこれらは欠くことの出来ないものである)。
■ 明哲の士(明敏な人)は、ただ意外に在りて工夫を伽す、故に毎に万全にして後の憂い無し(常に変化に備えて構えているため何が起きても後顧に憂いを残すことは無い)

■ 事あらかじめすれば則ち立つ(あらゆることは準備次第で上手く行く)。
■ 事に当たらざれば、自家の才を済さざるを知らず(物事を始めてみなければ、自分の才能の未熟さは分からない)。